愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.101
「落ち着きがない」は性格じゃない、ADHD(注意欠如・多動症)の基礎
今号のポイント
- 2ADHDは脳の実行機能の問題であり、しつけや性格の問題ではない
- 4不注意優勢型・多動衝動性優勢型・混合型の3つのタイプがある
- 6約5〜7%と非常に多く、併存症への注意も重要
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
前号まではASD(自閉スペクトラム症)について解説しました。今号からは、ADHD(注意欠如・多動症: Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)について取り上げます。
「うちの子、落ち着きがなくて……」「忘れ物がひどいんです」「何度言っても聞いていないみたい」、こうしたご相談は外来で非常に多く寄せられます。ADHDは小児の約5〜7%に認められる、最も頻度の高い発達障害の一つです [1]。つまり、30人クラスに1〜2人は該当する計算です。
「しつけが足りない」「親の教育が悪い」と周囲から言われて傷ついている保護者の方も少なくありません。しかし、ADHDはしつけの問題ではなく、脳の機能の問題です [2]。正しい知識を一緒に確認していきましょう。
Q1.「ADHDとは、どんな病気ですか?」
——"落ち着きがない子"とADHDは何が違うのですか?
元気で活発な子どもと、ADHDのお子さんの違いは、"日常生活に支障があるかどうか"です [3]。ADHDは、不注意(集中が続かない)・多動性(じっとしていられない)・衝動性(考える前に行動する)を中核症状とする神経発達症です [3]。
ADHDの基本情報:
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | 注意欠如・多動症(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder) [3] |
| 分類 | 神経発達症群(DSM-5-TR) [3] |
| 有病率 | 小児の約5〜7% [1]、成人の約2.5% [4] |
| 男女比 | 小児: 男:女 = 約2〜3:1 [1]、成人ではほぼ同等 |
| 発症時期 | 12歳以前に症状が存在(DSM-5-TR基準) [3] |
| 原因 | 遺伝的要因が大きい(遺伝率約70〜80%) [5] |
重要なのは、ADHDは脳の"実行機能(Executive Function)"の問題であるということです [2]。実行機能とは、目標に向かって計画を立て、自分の行動をコントロールする脳の働きのことです。具体的には、注意の維持、ワーキングメモリ、衝動の抑制、感情のコントロールなどが含まれます [2]。
脳の実行機能とADHD:
定型発達
- 注意の維持
- 興味がなくてもある程度集中できる
- ワーキングメモリ
- 指示を覚えて実行できる
- 衝動抑制
- 順番を待てる
- 感情コントロール
- ある程度感情を調整できる
- 時間管理
- 時間の見通しが立てられる
ADHD
- 注意の維持
- 興味がないと集中が続かない [2]
- ワーキングメモリ
- 指示を忘れる、手順を飛ばす [2]
- 衝動抑制
- 待てない、割り込んでしまう [2]
- 感情コントロール
- すぐにカッとなる、泣く [2]
- 時間管理
- 時間の感覚が弱い、遅刻が多い [2]
ポイント
- ADHDは脳の実行機能の問題であり、しつけや性格の問題ではない [2]
- 小児の約5〜7%に認められ、30人クラスに1〜2人 [1]
- 「日常生活に支障があるかどうか」が活発な子との違い [3]
- 男児に多いが、女児は見逃されやすい
Q2.「ADHDの3つのタイプについて教えてください」
——ADHDにもいくつかタイプがあると聞きました。うちの子はどのタイプに当てはまるのでしょうか?
DSM-5-TRでは、ADHDを3つのタイプ(提示)に分類しています [3]。
ADHDの3つのタイプ:
特徴
- 不注意優勢型
- 集中困難、忘れ物、ぼーっとする、整理整頓が苦手
- 多動・衝動性優勢型
- じっとできない、しゃべりすぎ、待てない、手が出る
- 混合型
- 不注意と多動・衝動性の両方がある
頻度
- 不注意優勢型
- 約30〜40% [6]
- 多動・衝動性優勢型
- 約10〜15% [6]
- 混合型
- 約50〜60% [6]
不注意優勢型の具体的な症状:
- 授業中にぼーっとしている("宇宙に行っている")
- 忘れ物・なくし物が非常に多い
- 指示を最後まで聞けない、途中で別のことを始める
- 宿題や課題を最後までやり遂げられない
- 整理整頓ができない(カバンの中がぐちゃぐちゃ)
- 日常のルーティン(歯磨き、着替え等)を忘れる
多動・衝動性優勢型の具体的な症状:
- 席に座っていられない、教室を歩き回る
- 高いところに登る、危険な行動が多い
- しゃべりすぎる、相手の話を遮る
- 順番を待てない
- 考える前に行動する(衝動買い、飛び出しなど)
- 静かに遊べない
特に不注意優勢型は女の子に多く、見逃されやすいタイプです [7]。教室で騒がないため"おとなしい子""ぼんやりした子"と見なされ、学業困難が顕著になる小学校高学年〜中学生まで気づかれないことが少なくありません [7]。
ポイント
- 最も多いのは混合型(約50〜60%) [6]
- 不注意優勢型は女の子に多く、見逃されやすい [7]
- 多動は年齢とともに目立たなくなることが多い
- タイプは固定ではなく、成長とともに変化しうる [3]
Q3.「ADHDは年齢によって症状が変わりますか?」
——今3歳で多動が目立ちますが、年齢が上がると変わりますか?
はい、ADHDの症状の現れ方は年齢とともに変化します [8]。特に多動性は年齢とともに軽減することが多いですが、不注意は持続しやすい傾向があります。
年齢別のADHD症状の変化:
主な症状
- 乳幼児期(0〜3歳)
- 過活動、睡眠リズムの問題、気難しさ、かんしゃく [8]
- 幼稚園(3〜6歳)
- 多動(走り回る、席に座れない)、衝動性(順番が待てない)、友だちとのトラブル [8]
- 小学校低学年(6〜9歳)
- 授業中の離席、忘れ物、ケアレスミス、友人トラブル [8]
- 小学校高学年〜中学(9〜15歳)
- 多動は軽減、不注意が目立つ、学業困難、自尊心の低下 [8]
- 思春期〜成人
- 多動は"内的な落ち着かなさ"に変化、不注意は持続、感情コントロール困難 [4]
気づかれるきっかけ
- 乳幼児期(0〜3歳)
- 「手がかかる子」と感じる
- 幼稚園(3〜6歳)
- 集団生活が始まって目立つ
- 小学校低学年(6〜9歳)
- 最も診断が多い時期
- 小学校高学年〜中学(9〜15歳)
- 不注意優勢型がここで発見されることも
- 思春期〜成人
- 社会的困難、二次障害
3歳のお子さんの多動は、ADHDでなくても珍しくありません [8]。しかし、5〜6歳になっても多動・衝動性が同年齢の子と比べて明らかに目立つ場合は、ADHDの可能性があります。ADHDの症状は"程度の問題"であることを覚えておいてください [3]。
ポイント
- 多動は年齢とともに軽減するが、不注意は持続しやすい [8]
- 小学校低学年が最も診断されやすい時期
- 3歳の多動は正常範囲のことも多い。5〜6歳で他児と比較して判断
- 成人でも約2/3が症状を持ち続ける [4]
Q4.「ADHDの原因は何ですか?しつけのせいですか?」
——義母に"あなたのしつけが甘いからだ"と言われて辛いです……
ADHDはしつけの問題ではありません。脳の神経伝達物質の機能の問題です [5]。お義母さまの世代にはそのような考え方が残っていますが、これは科学的に否定されています。
ADHDの原因(科学的知見):
| 要因 | 内容 |
|---|---|
| 遺伝的要因 | 遺伝率は約70〜80%。一卵性双生児の一致率は約75% [5] |
| 神経伝達物質 | ドパミンとノルアドレナリンの機能異常 [9] |
| 脳の構造・機能 | 前頭前野、尾状核、小脳の体積減少。前頭前野の活動低下 [10] |
| 環境要因 | 周産期合併症、低出生体重、母体の喫煙・飲酒 [11] |
ADHDのお子さんの脳では、前頭前野(おでこの裏)の働きが定型発達のお子さんに比べて弱いことがわかっています [10]。前頭前野は、まさに"実行機能"の中枢です。また、ドパミンやノルアドレナリンという神経伝達物質の働きが低下しているため、注意の維持や衝動の抑制が難しくなります [9]。ADHD治療薬が効果を発揮するのは、これらの神経伝達物質の働きを改善するからです [9]。
ADHDの原因ではないもの:
- 親のしつけ、育て方 [5]
- 砂糖の摂りすぎ [12]
- ゲーム・スマホのやりすぎ(原因にはならないが、症状を悪化させる可能性はある) [13]
- 性格の問題、怠け
ただし、環境や関わり方がADHDの症状を"悪化させる"あるいは"軽減させる"ことはあります [14]。適切な環境調整や支援があれば、症状のコントロールは大きく改善します。親のせいではありませんが、親の関わりは症状管理に大きな影響を与えるのです。
ポイント
- ADHDは脳の神経伝達物質の機能の問題。しつけのせいではない [5][9]
- 遺伝率は約70〜80%と、発達障害の中でも遺伝要因が大きい [5]
- 砂糖やゲームは原因にはならない [12][13]
- 環境調整と適切な関わり方で症状は軽減できる [14]
Q5.「ADHDの併存症について教えてください」
——ADHDの子は他の問題も抱えやすいと聞きましたが、本当ですか?
はい。ADHDの子どもの約60〜80%に何らかの併存症があります [15]。併存症の存在は、ADHDの診断を複雑にし、治療の難易度を上げるため、しっかりと評価することが重要です。
ADHDの主な併存症:
頻度
- 反抗挑発症(ODD)
- 約40〜60% [15]
- 学習障害(LD/SLD)
- 約20〜40% [16]
- 不安障害
- 約25〜35% [15]
- ASD(自閉スペクトラム症)
- 約20〜50% [17]
- チック症/トゥレット症
- 約10〜20% [15]
- うつ病
- 約10〜30% [15]
- 睡眠障害
- 約25〜50% [18]
特徴
- 反抗挑発症(ODD)
- 怒りっぽい、大人に反抗的、口論が多い
- 学習障害(LD/SLD)
- 読み書き・計算の困難(知能は正常)
- 不安障害
- 過度の心配、分離不安、社交不安
- ASD(自閉スペクトラム症)
- 社会的コミュニケーションの困難、こだわり
- チック症/トゥレット症
- 不随意の運動・音声
- うつ病
- 気分の落ち込み、自尊心の低下
- 睡眠障害
- 入眠困難、中途覚醒
特に注意していただきたいのは自尊心の低下です [19]。ADHDのお子さんは、幼少期から"怒られる"経験が非常に多いのです。"落ち着きなさい""何度言ったらわかるの""またなくしたの"、こうした叱責を繰り返し受けることで、"自分はダメな子だ"という認知が形成されてしまいます [19]。この二次的な自尊心の低下が、うつや不安、反抗的行動の引き金になることがあります。
ADHDと併存症の関係:
ADHD(中核症状)
├→ 叱責・失敗の繰り返し → 自尊心低下 → うつ・不安 [19]
├→ 衝動性 → 対人トラブル → 反抗挑発症 [15]
├→ 不注意 → 学業困難 → 学習障害の併存 [16]
└→ 睡眠の問題 → 日中の症状悪化 → 悪循環 [18]
ポイント
- ADHDの約60〜80%に併存症がある [15]
- 学習障害、不安障害、反抗挑発症が多い [15][16]
- 自尊心の低下が二次障害の引き金になる [19]
- 併存症の評価と対応が治療成功の鍵
Q6.「ADHDかもしれないと思ったら、どうすればいいですか?」
——うちの子がADHDかもしれないと思っていますが、受診すべきでしょうか?
以下のような状況であれば、かかりつけの小児科にご相談ください。
受診を考える目安:
- 家庭と学校(園)の両方で問題が見られる [3]
- 同年齢の子と比べて明らかに落ち着きがない、不注意が目立つ
- 忘れ物・なくし物が日常生活に支障をきたすレベル
- 友人関係のトラブルが繰り返される
- 学業成績が能力に比べて著しく低い
- 自尊心の低下が見られる(「どうせ僕はダメだ」等の発言)
ADHDの診断の流れ:
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ① 問診 | 発達歴、家庭・学校での行動、家族歴 [3] |
| ② 行動評価 | 標準化された質問票(Conners、ADHD-RS等) [20] |
| ③ 心理検査 | 知能検査(WISC-V等)、注意機能検査 |
| ④ 身体検査 | 甲状腺機能、聴力、視力等の除外検査 |
| ⑤ 総合判断 | 複数の情報源からの総合的な診断 [3] |
ADHDの診断には少なくとも2つ以上の場面(家庭と学校など)での情報が必要です [3]。"家では落ち着きがないけど学校では問題ない"という場合、ADHDではなく他の要因が考えられます。次号(Vol.102)ではADHDの診断プロセスについて詳しく解説します。
ポイント
- 2つ以上の場面で問題が見られることがADHD診断の条件 [3]
- まずはかかりつけ小児科に相談
- 診断には問診、行動評価、心理検査などが必要 [3][20]
- 自尊心の低下が見られたら早めの受診を
今号のまとめ
- ADHDは脳の実行機能の問題であり、しつけや性格の問題ではない
- 3つのタイプがある:不注意優勢型、多動・衝動性優勢型、混合型
- 小児の約5〜7%に認められ、30人クラスに1〜2人
- 多動は年齢とともに軽減するが、不注意は持続しやすい
- 約60〜80%に併存症があり、自尊心の低下への注意が重要
- 遺伝率は約70〜80%。親のしつけのせいではない
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ご質問・ご感想
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