愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.102
「うちの子、本当にADHD?」、ADHDの診断と評価を正しく理解する
今号のポイント
- 2ADHDの診断は問診・行動評価・心理検査の組み合わせで行う
- 4甲状腺疾患・睡眠障害・不安障害など、ADHDと紛らわしい疾患の除外が重要
- 6知能検査(WISC-V)はADHDの「確定診断」ではなく、特性の把握と支援計画のためのツール
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
前号(Vol.101)ではADHDの基礎知識をお伝えしました。今号では、保護者の方から特に多いご質問、「ADHDの診断はどうやってするのですか?」にお答えします。
「血液検査でわかるのですか?」「MRIを撮るのですか?」とよく聞かれますが、ADHDの診断に"これ一つで確定"という検査はありません [1]。複数の情報を総合的に判断して診断します。どのようなプロセスで診断が進むのか、一緒に見ていきましょう。
Q1.「ADHDの診断基準を教えてください」
——ADHDの正式な診断基準はどうなっていますか?
ADHDの診断にはDSM-5-TR(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版テキスト改訂版)の基準が世界標準として使われています [1]。
DSM-5-TR ADHDの診断基準(要約):
A. 以下の不注意症状および/または多動性-衝動性症状のうち、6つ以上(17歳以上は5つ以上)が6ヶ月以上持続 [1]:
不注意症状(9項目):
| 番号 | 症状 |
|---|---|
| 1 | 細部に注意が向かない、ケアレスミスが多い |
| 2 | 課題や遊びで注意を持続できない |
| 3 | 直接話しかけられても聞いていないように見える |
| 4 | 指示に従えず、課題をやり遂げられない |
| 5 | 課題や活動を順序立てることが困難 |
| 6 | 精神的努力の持続を要する課題を避ける・嫌う |
| 7 | 課題や活動に必要なものをなくす |
| 8 | 外部からの刺激で容易に注意がそれる |
| 9 | 日常の活動を忘れる |
多動性-衝動性症状(9項目):
| 番号 | 症状 |
|---|---|
| 1 | 手足をそわそわ動かす、席でもじもじする |
| 2 | 着席が求められる場面で離席する |
| 3 | 不適切な場面で走り回る・高いところに登る |
| 4 | 静かに遊ぶことができない |
| 5 | じっとしていられない、"エンジンで動かされるよう" |
| 6 | しゃべりすぎる |
| 7 | 質問が終わる前に答え始める |
| 8 | 順番を待つことが困難 |
| 9 | 他人を妨害する・割り込む |
B〜Eの条件:
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| B | 症状のいくつかが12歳以前に存在していた [1] |
| C | 症状が2つ以上の場面(家庭と学校など)で見られる [1] |
| D | 社会的・学業的・職業的機能を著しく障害している [1] |
| E | 他の精神疾患(統合失調症、不安障害等)で説明できない [1] |
重要なポイントは3つあります。まず、6ヶ月以上持続していること。次に、2つ以上の場面で問題が見られること。そして、日常生活に著しい支障があること [1]。"ちょっと落ち着きがない"程度ではADHDとは診断しません。
ポイント
- 不注意9項目、多動-衝動性9項目のうち6つ以上が6ヶ月以上持続 [1]
- 12歳以前に症状が存在、2つ以上の場面で問題がある [1]
- 日常生活への著しい支障が診断の条件 [1]
Q2.「ADHDの診断にはどんな検査を使いますか?」
——具体的にどんな検査をするのですか?血液検査でわかりますか?
ADHDを"確定"できる血液検査や画像検査はありません [2]。ADHDの診断は、複数の情報源からの情報を総合的に判断して行います。
ADHDの評価プロセス:
① 問診(最も重要)
| 聴取内容 | 具体的な質問例 |
|---|---|
| 発達歴 | 妊娠・出産の経過、運動発達、言語発達 |
| 現在の症状 | いつから、どの場面で、どの程度の頻度で [1] |
| 家庭での行動 | 朝の支度、宿題、食事時の様子、兄弟関係 |
| 学校(園)での行動 | 離席、忘れ物、友人関係、学業成績 |
| 家族歴 | 親・兄弟にADHD、発達障害、精神疾患の既往 |
| 生活環境 | 睡眠時間、スクリーンタイム、家庭の状況 |
② 行動評価尺度
主な評価ツール:
記入者
- ADHD-RS-5(ADHD Rating Scale 5)
- 保護者・教師
- Conners 3(コナーズ3)
- 保護者・教師・本人
- SDQ(Strengths and Difficulties Questionnaire)
- 保護者・教師
- SNAP-IV
- 保護者・教師
特徴
- ADHD-RS-5(ADHD Rating Scale 5)
- DSM-5に基づく18項目の評価尺度 [3]
- Conners 3(コナーズ3)
- 多面的に評価。併存症のスクリーニングも可能 [4]
- SDQ(Strengths and Difficulties Questionnaire)
- 5領域(多動、情緒、行為、仲間、向社会性)を評価 [5]
- SNAP-IV
- 簡便で広く使用。DSM基準に基づく [6]
特に重要なのは、保護者と教師の両方から情報を得ることです [1]。家庭だけ、あるいは学校だけの情報では正確な診断は難しいのです。保護者と教師で評価が異なることも珍しくありませんが、そのギャップ自体が重要な情報になります。
③ 心理検査・神経心理学的検査
| 検査名 | 目的 |
|---|---|
| WISC-V(ウェクスラー式知能検査第5版) | 全般的知能、ワーキングメモリ、処理速度の評価 [7] |
| KABC-II | 認知処理と学力の評価 |
| CPT(Continuous Performance Test) | 注意の持続力と衝動性の客観的評価 [8] |
| Rey複雑図形検査 | 視覚的記憶と構成能力 |
④ 身体検査(除外診断のため)
| 検査 | 除外する疾患 |
|---|---|
| 甲状腺機能検査 | 甲状腺機能亢進症 [9] |
| 血液検査(鉄、フェリチン) | 鉄欠乏性貧血(不注意の原因になりうる) [10] |
| 聴力検査 | 難聴("聞いていない"ように見える原因) |
| 視力検査 | 視力障害(学業困難の原因) |
| 睡眠評価 | 睡眠時無呼吸症候群、睡眠不足 [11] |
ポイント
- ADHDに確定的な血液検査・画像検査はない [2]
- 問診が最も重要。保護者と教師の両方から情報を得る [1]
- ADHD-RS-5、Conners 3等の標準化された評価ツールを使用 [3][4]
- 身体疾患の除外検査も必須 [9][10][11]
Q3.「ADHDと間違えやすい病気はありますか?」
——"落ち着きがない"という症状は他の病気でも見られますか?
はい、ADHDと症状が似ている(紛らわしい)疾患は複数あります [12]。これらを"鑑別診断"と呼び、正しい診断のために非常に重要です。
ADHDと鑑別すべき主な疾患:
ADHDとの共通症状
- 甲状腺機能亢進症
- 落ち着きがない、集中困難
- 睡眠障害(睡眠不足・無呼吸)
- 日中の不注意、多動、イライラ
- 不安障害
- 落ち着きがない、集中困難
- うつ病
- 集中困難、やる気がない
- ASD(自閉スペクトラム症)
- 不注意に見える、衝動的
- 知的障害
- 学業困難、指示に従えない
- 学習障害(LD/SLD)
- 授業についていけない、不注意に見える
- 愛着障害
- 落ち着きがない、衝動的
- てんかん(欠神発作)
- ぼーっとする(不注意に見える)
- 鉄欠乏性貧血
- 集中困難、落ち着きがない
鑑別のポイント
- 甲状腺機能亢進症
- 血液検査(TSH、FT4)で鑑別 [9]
- 睡眠障害(睡眠不足・無呼吸)
- 睡眠歴の聴取、夜間の観察 [11]
- 不安障害
- 不安の原因がある、心配が主体 [12]
- うつ病
- 気分の落ち込み、興味の喪失が主体 [12]
- ASD(自閉スペクトラム症)
- 社会的コミュニケーションの困難、こだわり [13]
- 知的障害
- 全般的な知的機能の低下 [12]
- 学習障害(LD/SLD)
- 特定の学力(読み書き・計算)だけが低い [14]
- 愛着障害
- 養育環境の問題歴 [12]
- てんかん(欠神発作)
- 脳波検査で確認 [12]
- 鉄欠乏性貧血
- 血液検査(鉄、フェリチン) [10]
特に見逃してはいけないのは睡眠障害です [11]。慢性的な睡眠不足の子どもは、日中に多動・不注意・衝動性を示すことが知られています。大人が睡眠不足だと眠くなりますが、子どもは逆に興奮して落ち着きがなくなるのです。ADHDを疑ったら、まず十分な睡眠がとれているかを確認してください [11]。
また、ASDとADHDは併存することが少なくありません [13]。DSM-5以前は両方を診断することができませんでしたが、DSM-5からは同時に診断できるようになりました [1]。
ポイント
- ADHDと症状が似ている疾患は多数ある [12]
- 睡眠障害は最も見逃されやすい鑑別疾患 [11]
- 甲状腺機能、鉄、聴力は必ずチェック [9][10]
- ASDとADHDは併存しうる(DSM-5以降) [1][13]
Q4.「知能検査(WISC)はADHDの診断に必要ですか?」
——"WISCを受けてください"と言われました。これはADHDの確定診断になるのですか?
WISC-V(ウェクスラー式知能検査第5版)はADHDの"確定診断"のための検査ではありません [7]。しかし、お子さんの認知機能の特徴を詳しく把握し、適切な支援計画を立てるために非常に有用な検査です。
WISC-Vの構成:
内容
- 全検査IQ(FSIQ)
- 全般的な知能の指標
- 言語理解(VCI)
- 言語による推理・知識
- 視空間(VSI)
- 視覚的情報の処理
- 流動性推理(FRI)
- 新しい問題を解く力
- ワーキングメモリ(WMI)
- 一時的な記憶と操作
- 処理速度(PSI)
- 単純作業のスピード
ADHD児の特徴
- 全検査IQ(FSIQ)
- ADHDだけでは低下しない [7]
- 言語理解(VCI)
- 通常は正常範囲 [7]
- 視空間(VSI)
- 通常は正常範囲 [7]
- 流動性推理(FRI)
- 通常は正常範囲 [7]
- ワーキングメモリ(WMI)
- 低下しやすい [7][15]
- 処理速度(PSI)
- 低下しやすい [7][15]
ADHD児の典型的なパターンとして、ワーキングメモリ(WMI)と処理速度(PSI)が他の指標に比べて低いという傾向があります [15]。ただし、これは"傾向"であり、すべてのADHD児に当てはまるわけではありません [7]。
WISC-Vで分かること・分からないこと:
| 分かること | 分からないこと |
|---|---|
| 認知機能の強みと弱み [7] | ADHDの確定診断 |
| 知的障害の有無 | ADHDの原因 |
| 学習障害の可能性 | 将来の予測 |
| 適切な支援方法のヒント | 努力の度合い |
WISCの結果は、お子さんの"取扱説明書"のようなものだと思ってください [7]。どこが得意でどこが苦手かがわかれば、学校での配慮や家庭での関わり方を具体的に決めることができます。例えば、ワーキングメモリが弱ければ"口頭指示だけでなく、メモや視覚的な手がかりを使う"という支援が有効です。
ポイント
- WISC-VはADHDの確定診断ではないが、支援計画に非常に有用 [7]
- ADHD児はワーキングメモリと処理速度が低下しやすい傾向 [15]
- 検査結果は「取扱説明書」。強みと弱みを知るためのツール
- 学習障害の併存の有無もわかる
Q5.「診断がついたあとは、どうなりますか?」
——もしADHDと診断されたら、その後どうなるのですか?"レッテル"を貼られるのが怖いです
そのお気持ちはとてもよくわかります [16]。しかし、診断は"レッテル"ではなく、"お子さんへの支援の入口"です。診断がつくことで、以下のメリットがあります。
診断後の流れ:
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ① 心理教育 | お子さんの特性について、保護者と本人に説明 [16] |
| ② 環境調整 | 家庭・学校での配慮(座席の位置、指示の出し方等) [17] |
| ③ 行動療法 | ペアレントトレーニング、SST(ソーシャルスキルトレーニング) [18] |
| ④ 薬物療法の検討 | 必要に応じて専門医が判断(環境調整・行動療法が先) [19] |
| ⑤ 学校との連携 | 合理的配慮の申請、特別支援教育の検討 [17] |
| ⑥ 定期的なフォローアップ | 症状の変化、治療効果、併存症の評価 |
診断のメリット:
- 本人の理解: 「怠けているわけじゃなかった」「脳の特性だったんだ」と自己理解が深まる [16]
- 親の安心: 「自分のしつけのせいじゃなかった」と罪悪感が軽減される [16]
- 学校の対応: 合理的配慮(テスト時間延長、座席配慮等)を受けられる [17]
- 治療へのアクセス: 必要な場合、薬物療法を含む専門的な治療が受けられる [19]
- 福祉サービス: 必要に応じて通級指導教室や放課後デイサービスの利用 [17]
診断をつけるかどうかは、保護者の方の判断も尊重します [16]。ただ、診断名がなくても"お子さんの特性を理解して、適切な支援を始める"ことは今日からでもできます。診断はゴールではなく、より良い支援のためのスタートラインです。
港区で利用できる支援:
| 支援 | 内容 |
|---|---|
| 通級指導教室 | 通常学級に在籍しながら、週1〜数回、個別指導を受ける |
| 特別支援教室 | 在籍校内で巡回指導教員から指導を受ける |
| 放課後等デイサービス | 放課後や長期休暇中の療育・居場所 |
| 港区子ども家庭支援センター | 育児全般の相談 |
| ペアレントトレーニング | 親が子どもへの効果的な関わり方を学ぶプログラム [18] |
ポイント
- 診断はレッテルではなく、支援への入口 [16]
- 環境調整と行動療法が第一選択。薬物療法はその後の検討 [19]
- 学校での合理的配慮を受けるための根拠になる [17]
- 港区には通級指導教室、放課後デイ等の支援がある
今号のまとめ
- ADHDの診断は問診・行動評価・心理検査の総合判断で行う。"これ一つで確定"の検査はない
- DSM-5-TRの基準: 6つ以上の症状が6ヶ月以上、2つ以上の場面、日常生活への支障
- 鑑別診断が重要: 特に睡眠障害、甲状腺疾患、不安障害、鉄欠乏の除外を
- WISC-Vは確定診断ではなく、認知機能の強みと弱みを把握するツール
- 診断は支援のスタートライン。環境調整と行動療法から始める
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愛育病院 小児科 おかもん先生
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