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ASDのコミュニケーション支援、絵カード・PECS・視覚支援の活用
Vol.105発達

ASDのコミュニケーション支援、絵カード・PECS・視覚支援の活用

- 「話せない」のではなく「伝え方が違う」と理解することが大切です

発達全年齢10
おかもん先生小児科専門医愛育病院 小児科

参考文献 8·Q&A 5問収録

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この記事のポイント

  • - 「話せない」のではなく「伝え方が違う」と理解することが大切です
  • - 視覚的な情報処理が得意なお子さんが多い
  • - 音声言語だけに頼らず、その子に合った伝達手段を探しましょう

愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.105

ASDのコミュニケーション支援、絵カード・PECS・視覚支援の活用

こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。 Vol.99・100 では自閉スペクトラム症(ASD)の基礎と早期サインについてお話ししました。今回は「コミュニケーション支援」にフォーカスします。 ASDのお子さんは、言葉でのやりとりが苦手でも、伝えたい気持ちはしっかり持っています。「伝わらない」もどかしさが癇癪やパニックにつながることも少なくありません。 適切な支援ツールを使うことで、お子さんの「伝えたい」を引き出すことができます。

Q1.「ASDの子はなぜコミュニケーションが苦手なのですか?」

——3歳の娘がASDと診断されました。言葉は少しありますが、会話がなかなか成立しません。なぜでしょうか?

ASDのコミュニケーションの困難には、いくつかの要因が関わっています [1][2]

まず、社会的コミュニケーションの特性として、相手の意図を読み取ること、文脈を理解すること、非言語的なサイン(表情・ジェスチャー・声のトーン)を読むことが難しいという特徴があります。

また、言語発達の遅れがあるお子さんも多く、単に『言葉が遅い』だけでなく、言葉の使い方(語用論)に独特のパターンが見られます。例えば、オウム返し(エコラリア)や、代名詞の逆転(自分のことを『あなた』と言う)などです [1]。

重要なのは、コミュニケーションの意欲がないわけではないということです。伝えたい気持ちはあるのに、その方法が分からない、または音声言語以外の方法のほうが得意、ということが多いのです [2]。」

コミュニケーションの側面ASDでの特徴
言語理解比喩・冗談・皮肉の理解が難しい
言語表出エコラリア、独特な言い回し
語用論(使い方)会話のキャッチボールが苦手
非言語コミュニケーションアイコンタクト・ジェスチャーが少ない
社会的相互作用相手の立場に立つことが難しい

ポイント

  • 「話せない」のではなく「伝え方が違う」と理解することが大切です
  • 視覚的な情報処理が得意なお子さんが多い
  • 音声言語だけに頼らず、その子に合った伝達手段を探しましょう

Q2.「絵カード(PECS)とはどんなものですか?」

——療育で『絵カードを使いましょう』と言われました。具体的にはどのように使うのですか?

PECS(ペクス:Picture Exchange Communication System)は、1985年にアメリカのBondy博士とFrost博士が開発した、絵カードを使ったコミュニケーション支援システムです [3]

PECSの最大の特徴は、お子さん自ら絵カードを相手に渡すという『交換』の行為を通じてコミュニケーションを学ぶ点です。受け身ではなく、自分から発信する力を育てます。」

PECSの6つの段階:

内容

第1段階
絵カードの交換を学ぶ
第2段階
距離と自発性の拡大
第3段階
絵カードの弁別
第4段階
文の構成
第5段階
要求への応答
第6段階
コメントする

第1段階
ジュースの絵カードを渡す→ジュースをもらう
第2段階
離れた場所にカードを取りに行く
第3段階
複数のカードから欲しいものを選ぶ
第4段階
「ください」+「ジュース」の2枚で文を作る
第5段階
「何がほしい?」に絵カードで答える
第6段階
「見て」「ある」など要求以外の表現

PECSは言葉の発達を妨げるのではなく、むしろ促進することが研究で示されています。絵カードを使い始めてから音声言語が増えたというお子さんは非常に多いです [3][4]

ポイント

  • PECSは「自分から伝える力」を段階的に育てるシステムです
  • 絵カードを使うことで言葉の発達が遅れることはありません
  • 専門家(言語聴覚士等)の指導のもとで始めるのが理想的です

Q3.「家庭でできる視覚支援にはどんなものがありますか?」

——療育だけでなく、家庭でもできることを知りたいです。

視覚支援は家庭でもすぐに取り入れられる強力なツールです。ASDのお子さんの多くは、耳で聞く情報よりも目で見る情報のほうが処理しやすいため、視覚的な手がかりが大きな助けになります [4][5]

  1. 2
    スケジュール表(見通しの支援)
  • 1日の流れをイラストや写真で示す
  • 「次に何をするか」が分かると安心する
  • 終わった活動を裏返す・外すことで進行を実感
  1. 2
    手順カード(活動の手順を示す)
  • 手洗い:水を出す→石けん→こする→流す→拭く
  • 着替え:下着→シャツ→ズボン→靴下
  • 各ステップを写真やイラストで掲示
  1. 2
    選択ボード(意思表示の支援)
  • 「おやつは何がいい?」→2〜3個の写真から選ぶ
  • 選択肢を視覚化することで自分で決める経験を積む
  1. 2
    タイマーの見える化
  • 残り時間が視覚的に分かるタイマー(タイムタイマーなど)
  • 「あと何分」が目で見て分かると切り替えがスムーズに
  1. 2
    ソーシャルストーリー
  • これから起こることを短い物語で事前に伝える
  • 「病院に行くとき」「お友達の家に行くとき」など
  • Carol Gray博士が開発した手法 [5]

ポイント

  • 視覚支援は「特別なこと」ではなく、私たちも地図やカレンダーで使っています
  • お子さんの理解度に合わせて写真→イラスト→文字と段階的に変化させます
  • 一度に多くを始めず、一つずつ導入しましょう

Q4.「言葉が出ない子にはどのような支援がありますか?」

——4歳ですがまだ言葉がほとんど出ません。将来話せるようになるのでしょうか?

お気持ちはよく分かります。まず大切なことをお伝えすると、言葉が出ないからといってコミュニケーションができないわけではありません。そして、5歳以降に急に言葉が増えるお子さんもいます [6]

現在、音声言語以外のコミュニケーション手段として、様々なAAC(拡大・代替コミュニケーション)のツールがあります [6][7]。」

内容

ローテク
絵カード・コミュニケーションボード
ミドルテク
VOCA(音声出力装置)
ハイテク
タブレットアプリ(DropTalkなど)
サイン
マカトンサイン・手話

特徴

ローテク
電源不要、手軽
ミドルテク
ボタンを押すと音声が出る
ハイテク
語彙の拡張が容易、携帯性
サイン
手が使えれば即時的

日本で使いやすいアプリとしては『DropTalk』『えこみゅ』などがあります。これらはiPadなどのタブレットで使え、絵をタップすると音声が出る仕組みです。

繰り返しお伝えしますが、AACを使うことで言葉の発達が遅れるという心配はありません。むしろ、コミュニケーションの成功体験が積み重なることで、発語への意欲が高まることが研究で示されています [7]。」

ポイント

  • AACは「言葉の代わり」ではなく「言葉を育てる橋渡し」です
  • お子さんに合ったツールを専門家と一緒に選びましょう
  • どんな手段でも「伝わった!」という成功体験が最も大切です

Q5.「支援を始めるときに気をつけることはありますか?」

——いろいろなツールがあることが分かりました。始めるにあたって注意点を教えてください。

とても良い質問です。支援を効果的に行うために、いくつかのポイントをお伝えします [5][8]

  1. 2

    お子さんの動機(モチベーション)を大切に 好きなもの・やりたいことをコミュニケーションの題材にします。大好きなお菓子を「ちょうだい」と伝える練習は、興味のないものより100倍効果的です。

  2. 4

    プロンプト(手助け)は最小限に 最初は手を取って教えても、徐々に手助けを減らしていきます。自分でできた!という実感が次への意欲につながります。

  3. 6

    環境を整える コミュニケーションの必然性がある場面を意図的に作ります。例えば、好きなおもちゃを手の届かない場所に置く→「とって」と伝える動機が生まれます。

  4. 8

    家族全員で統一した対応を 絵カードやスケジュール表は、お父さん・おばあちゃんなど家族全員が同じ使い方をすることが大切です。

  5. 10

    スモールステップで 最初から完璧を求めず、少しでもコミュニケーションが成立したらたくさん褒めてあげてください。「伝わって嬉しい」という気持ちが、次の発信につながります。」

ポイント

  • 療育の先生・言語聴覚士と家庭が連携することが重要
  • 療育で学んだことを家庭で般化(日常場面に広げる)させましょう
  • 焦らず、お子さんのペースに合わせることが一番の近道です

今号のまとめ

  • ASDのお子さんは「伝えたい気持ち」を持っている。適切な手段を見つけることが大切
  • PECSは自分から発信する力を段階的に育てるシステム
  • 家庭でもスケジュール表・手順カード・選択ボードなどの視覚支援がすぐに始められる
  • AAC(拡大・代替コミュニケーション)は言葉の発達を妨げず、むしろ促進する
  • お子さんのモチベーションと成功体験を大切にする

あわせて読みたい

  • Vol.99「自閉スペクトラム症(ASD)の基礎」
  • Vol.100「ASDの早期サイン」
  • Vol.111「感覚過敏と感覚鈍麻」

ご質問・ご感想

お子さんのコミュニケーションについてお悩みのことがありましたら、お気軽にご相談ください。次回の Vol.106 では「発達性協調運動症(DCD)」についてお話しします。

愛育病院 小児科 おかもん先生

本メルマガの内容は一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。お子さまの症状についてはかかりつけの小児科医にご相談ください。

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※ この記事は一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。お子さんの症状が心配な場合は、かかりつけの小児科医にご相談ください。

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