愛育病院 小児科おかもん だより Vol.38
「ゼーゼーして呼吸が苦しそう……」、RSウイルスと細気管支炎
今号のポイント
- 2RSウイルスは2歳までにほぼ全員が感染し、特に乳児では重症化しやすい
- 4細気管支炎を起こすと、ゼーゼー・ヒューヒューの呼吸、陥没呼吸が出現
- 6特効薬はなく、対症療法が基本。呼吸困難のサインを見逃さないことが重要
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
「咳と鼻水が出始めて、だんだんゼーゼーしてきました。呼吸が苦しそうで……」、これはRSウイルス感染症による細気管支炎の典型的な症状です。
RSウイルスは、2歳までにほぼすべての子どもが感染し、特に生後6ヶ月未満の乳児では重症化しやすいウイルスです [1]。細気管支炎を起こすと呼吸困難になることがあり、乳児の入院原因として最も多い感染症のひとつです [2]。
今回は、RSウイルス感染症と細気管支炎について、症状・重症化のサイン・ホームケアをお伝えします。
Q1.「RSウイルスってどんな病気ですか? どのくらい多いんですか?」
——保育園でRSウイルスが流行っているそうです。どんな病気なんですか?
RSウイルス(Respiratory Syncytial Virus)は、乳幼児の呼吸器感染症の最も重要な原因ウイルスです [1]。正式には『RSウイルス感染症』といい、風邪のような軽い症状で済むこともあれば、細気管支炎(さいきかんしえん)や肺炎を起こして重症化することもあります [2]
RSウイルス感染症の基本情報:
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原因 | RSウイルス(A型・B型の2種類)[1] |
| 罹患率 | 2歳までにほぼ100%が感染 [1][3] |
| 重症化リスク | 生後6ヶ月未満、特に3ヶ月未満が最もリスク高 [2][4] |
| 流行時期 | 秋〜冬(9月〜2月)。近年は夏にも流行 [5] |
| 入院率 | 1歳未満の約2〜3%が入院 [3] |
| 再感染 | 何度でも感染する(免疫が持続しない)[1] |
——ほぼ100%が感染するんですか! でも聞いたことがない人も多いような……
それは、年齢が上がるほど症状が軽くなるからです [1]。2回目、3回目の感染では普通の風邪程度で済むことが多く、RSウイルスと気づかないんです。しかし、初めて感染する乳児、特に生後6ヶ月未満では、細気管支炎を起こして重症化しやすいのです [2][4]
——細気管支炎って何ですか?
細気管支炎(bronchiolitis)は、肺の奥の細い気管支(細気管支)にウイルスが感染して炎症を起こす病気です [6]。細気管支が腫れて狭くなり、さらに分泌物(痰)がたまることで、空気の通り道が狭くなります。その結果、ゼーゼー・ヒューヒューという呼吸(喘鳴=ぜんめい)や、呼吸困難が起こります [6]
細気管支炎の原因ウイルス [6]:
- RSウイルス(約70〜80%)← 最多
- ヒトメタニューモウイルス(hMPV)
- ライノウイルス
- パラインフルエンザウイルス
ポイント
- RSウイルスは2歳までにほぼ100%が感染 [1][3]
- 生後6ヶ月未満、特に3ヶ月未満が最も重症化しやすい [2][4]
- 細気管支炎の原因の70〜80%がRSウイルス [6]
- 再感染は何度でもするが、年齢が上がるほど軽症に [1]
Q2.「RSウイルス感染症の症状と経過を教えてください」
——どんな症状が出ますか? 最初は普通の風邪と区別がつかないですか?
その通りです。初期症状は普通の風邪と区別がつきません [2]。しかし、経過とともに呼吸器症状が悪化するのがRSウイルスの特徴です
RSウイルス感染症の経過 [2][6][7]:
第1期: 上気道症状期(発症1〜3日目)
- 鼻水(透明〜黄色)
- 咳(乾いた咳)
- 発熱(37〜38℃台。高熱は少ない)
- くしゃみ
- 食欲低下
この段階では普通の風邪と区別できません
第2期: 下気道症状期(発症3〜5日目)
細気管支炎の症状が出現 [6]:
- ゼーゼー・ヒューヒューという呼吸(喘鳴)
- 呼吸が速い(多呼吸: 生後2ヶ月未満なら60回/分以上、2〜12ヶ月なら50回/分以上)[8]
- 陥没呼吸(呼吸のたびに胸がへこむ)[8]
- 痰がらみの湿った咳
- 哺乳不良(ミルクが飲めない、途中で苦しくなる)
- 不機嫌、元気がない
第3期: 回復期(発症5〜7日目以降)
- 症状は徐々に改善
- 咳は2〜4週間続くこともある [2]
——3〜5日目に悪化するんですね。最初は軽くても、油断できないということですか?
はい。特に生後6ヶ月未満の赤ちゃんの場合、初日は軽い鼻水だけでも、2〜3日後に突然呼吸困難になることがあります [4]。そのため、RSウイルスの流行期に乳児が風邪をひいたら、数日間は注意深く観察する必要があります [2]
重症化しやすいお子さん [2][4][9]:
- 生後6ヶ月未満、特に3ヶ月未満
- 早産児(在胎36週未満)
- 慢性肺疾患(気管支肺異形成症など)
- 先天性心疾患
- 免疫不全
- 神経筋疾患(筋力が弱く、痰を出せない)
- ダウン症候群
——うちの子は早産で生まれました(在胎34週)。特に注意が必要ですか?
はい。早産児はRSウイルスで重症化しやすいため、特に注意が必要です [4][9]。在胎29週未満や慢性肺疾患のある早産児には、パリビズマブ(シナジス)という予防薬(抗体製剤)の投与が推奨されています [9]。かかりつけ医に相談してください
ポイント
- 初期は普通の風邪と区別できない(鼻水・咳・微熱)[2]
- 発症3〜5日目に細気管支炎の症状が出現(ゼーゼー、多呼吸、陥没呼吸)[6]
- 生後6ヶ月未満、早産児、基礎疾患ありは重症化リスク高 [2][4][9]
- 咳は2〜4週間続くこともある [2]
Q3.「呼吸が苦しそうなときのサインを教えてください。いつ受診すべきですか?」
——呼吸困難ってどうやって見分けるんですか? 病院に行くべきタイミングを教えてください
これが最も重要なご質問です。呼吸困難のサインを知っているかどうかで、受診のタイミングが変わります [8]
呼吸困難のサイン(すぐに受診)[6][8][10]:
① 多呼吸(呼吸が速い)
正常な呼吸数
- 生後2ヶ月未満
- 30〜50回/分
- 2〜12ヶ月
- 25〜40回/分
- 1〜5歳
- 20〜30回/分
多呼吸の目安
- 生後2ヶ月未満
- 60回/分以上
- 2〜12ヶ月
- 50回/分以上
- 1〜5歳
- 40回/分以上
測り方: 1分間、胸の上下を数える(寝ているとき)
② 陥没呼吸(努力呼吸)
- 息を吸うたびに、以下の部分がへこむ:
- 鎖骨の上(鎖骨上窩)
- 肋骨と肋骨の間(肋間)
- みぞおちの下(心窩部)
- 強い陥没呼吸 = 重症のサイン [8]
③ 鼻翼呼吸(びよくこきゅう)
- 息を吸うたびに鼻の穴が大きく広がる
- 赤ちゃんが必死に呼吸している証拠 [8]
④ チアノーゼ
- 唇や爪が紫色になる
- 酸素不足のサイン → 緊急受診 [8]
⑤ 無呼吸発作
- 10秒以上呼吸が止まる
- 特に生後2ヶ月未満で起こりやすい [10]
- → 救急車を呼ぶ
⑥ 哺乳不良・水分摂取困難
- ミルクが飲めない(いつもの半分以下)
- 息苦しくて飲めない
- 8時間以上おしっこが出ない → 脱水 [6]
⑦ ぐったりしている
- 意識がもうろうとしている
- 呼びかけに反応が鈍い
- → 緊急受診 [8]
——多呼吸って、1分間ずっと数えるんですか? 大変そうです……
15秒間数えて4倍すればOKです。ただし、泣いているときや起きているときは呼吸数が増えるので、寝ているときに測るのがポイントです [8]
受診のタイミングまとめ [6][8][10]:
症状
- 緊急(救急車)
- チアノーゼ、無呼吸、ぐったり
- 当日受診
- 多呼吸、強い陥没呼吸、鼻翼呼吸、哺乳困難
- 翌日受診
- ゼーゼーが出てきた、咳がひどい
- 様子見OK
- 軽い鼻水・咳のみ、哺乳良好、機嫌よい
対応
- 緊急(救急車)
- 119番
- 当日受診
- すぐ受診
- 翌日受診
- 日中に受診
- 様子見OK
- ホームケア
ポイント
- 呼吸困難のサイン: 多呼吸、陥没呼吸、鼻翼呼吸、チアノーゼ [6][8]
- 生後2ヶ月未満で60回/分以上、2〜12ヶ月で50回/分以上は多呼吸 [8]
- チアノーゼ、無呼吸、ぐったり → 救急車 [8][10]
- 哺乳困難、8時間以上おしっこなし → すぐ受診 [6]
Q4.「RSウイルスの治療はどうするんですか? 薬はありますか?」
——RSウイルスと診断されたら、どんな治療をするんですか?
残念ながら、RSウイルスに効く特効薬(抗ウイルス薬)はありません [2][6]。治療の基本は対症療法(症状を和らげる治療)です。軽症なら自宅でのホームケア、重症なら入院治療になります [6]
RSウイルス感染症の治療 [2][6][11]:
軽症(自宅でのホームケア)
① 水分補給
- こまめに水分を与える(母乳、ミルク、麦茶、経口補水液)
- 哺乳困難なら、少量ずつ頻回に
- おしっこの回数をチェック(8時間以上出なければ受診)
② 鼻吸引
- 鼻水を吸引して鼻づまりを解消 [11]
- 鼻吸い器、鼻水吸引器を使用
- 特に哺乳前に吸引すると飲みやすい
- 市販の鼻吸い器でOK。病院の吸引より優しく吸える
③ 加湿
- 室内の湿度を50〜60%に保つ
- 加湿器を使用、または濡れタオルを干す
④ 体位
- 上体を少し高くすると呼吸が楽になる [11]
- 頭の下にタオルを敷いて、30度くらい起こす
⑤ 薬
- 咳止めは推奨されない [6](痰を出しにくくする可能性)
- 気管支拡張薬(吸入): 効果があれば継続 [6]
- ステロイド: 効果なし [6]
- 抗生物質: ウイルス感染なので効かない [2]
中等症〜重症(入院治療)[6][10]:
入院の目安:
- 多呼吸、強い陥没呼吸が続く
- 酸素飽和度が低い(SpO2 90%未満が持続する。AAPガイドラインでは90%以上なら酸素投与は不要とされています)[6]
- 哺乳困難、脱水
- 生後3ヶ月未満(無呼吸リスクが高い)
- 早産児、基礎疾患あり
入院治療の内容:
- 酸素投与(鼻カニューラ、酸素テント)
- 点滴(水分・電解質補給)
- 鼻吸引
- モニタリング(呼吸数、酸素飽和度、心拍数)
- 重症例: 人工呼吸管理(CPAP、人工呼吸器)
——抗生物質は効かないんですか? 保育園のお友達は抗生物質をもらったと言っていましたが……
RSウイルスはウイルスなので、抗生物質(細菌をやっつける薬)は効きません [2]。ただし、細菌感染の合併(中耳炎、肺炎など)が疑われる場合は、抗生物質が必要になることもあります [6]。不要な抗生物質は副作用や薬剤耐性菌のリスクがあるため、使い分けが重要です
ポイント
- RSウイルスに特効薬はなく、対症療法が基本 [2][6]
- 軽症は水分補給、鼻吸引、加湿でホームケア [11]
- 咳止めは推奨されない。抗生物質は効かない [2][6]
- 多呼吸、陥没呼吸、哺乳困難、SpO2 90%未満持続で入院 [6][10]
- 入院治療は酸素投与、点滴、鼻吸引 [6]
Q5.「RSウイルスの予防法を教えてください。兄弟にうつりますか?」
——上の子が保育園でRSウイルスをもらってきました。下の子(生後2ヶ月)にうつらないようにできますか?
RSウイルスは感染力が非常に強いため、完全に予防するのは難しいですが、感染リスクを減らす方法はあります [12]
RSウイルスの感染経路 [1][12]:
- 飛沫感染: 咳やくしゃみで飛び散る飛沫を吸い込む
- 接触感染: ウイルスが付着した手やおもちゃを触って、口や鼻を触る
- 環境表面で6〜7時間生存する [12]
家庭内での感染予防 [12][13]:
① 手洗い
- 石けんで15秒以上こすり洗い
- 特に、上の子を触った後、食事前、おむつ替え後
- 最も重要な予防策 [13]
② マスク着用
- 咳・鼻水がある人はマスクを
- 赤ちゃんの世話をするときは特に
③ おもちゃの消毒
- アルコールまたは塩素系消毒液で拭く
- ウイルスは環境表面で長時間生存 [12]
④ タオルの共用を避ける
- 特にハンドタオル、バスタオル
⑤ 別室で寝る
- 可能なら、感染した子と乳児を別々の部屋に
⑥ 換気
- こまめに換気する
——予防接種やワクチンはないんですか?
2023年に海外で妊婦向けのRSウイルスワクチン(Abrysvo)と乳児向けの長時間作用型抗体製剤(ニルセビマブ)が承認されました [14]。日本でも、ニルセビマブ(ベイフォータス)が2024年3月に承認され、同年5月から使えるようになっています。現時点では任意接種で、一部の自治体では助成制度が始まっています。妊婦向けRSVワクチンも日本で承認申請が進んでいます
高リスク児への予防(パリビズマブ)[9]:
- 早産児、慢性肺疾患、先天性心疾患などの高リスク児には、パリビズマブ(シナジス)という抗体製剤を月1回注射
- RSウイルス流行期(9月〜3月)に投与
- 入院を約50%減らす効果 [9]
- 保険適用(条件あり)
登園・登校の目安 [8]:
- 呼吸器症状が改善し、全身状態がよいことが目安
- 学校保健安全法では出席停止期間の定めなし
- ただし、咳が続く間は感染力があるため、マスク着用を [12]
ポイント
- RSウイルスは感染力が非常に強い [12]
- 手洗いが最も重要な予防策 [13]
- おもちゃの消毒、タオル共用を避ける、別室で寝る [12]
- 高リスク児にはパリビズマブ。ニルセビマブは2024年に日本で承認(任意接種) [9][14]
- 妊婦向けRSVワクチンも海外で承認済み。日本でも承認申請中 [14]
まとめ
- RSウイルスは2歳までにほぼ100%が感染。生後6ヶ月未満が最も重症化しやすい [1][2][4]
- 症状は鼻水・咳 → 3〜5日目にゼーゼー・多呼吸・陥没呼吸が出現 [2][6]
- 呼吸困難のサイン: 多呼吸、陥没呼吸、鼻翼呼吸、チアノーゼ、哺乳困難 [6][8]
- 特効薬はなく、対症療法が基本。軽症は水分補給・鼻吸引でホームケア [2][6][11]
- 予防は手洗い、おもちゃ消毒、タオル共用を避ける [12][13]
- 早産児・基礎疾患ありは高リスク。パリビズマブやニルセビマブで予防 [9][14]
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