このたび、保護者のみなさまに「知っていると安心できる」医療情報をお届けするおたよりを始めることにしました。
すべての内容は医学論文などのエビデンス(科学的根拠)に基づいて執筆しています。記事の最後に参考文献をまとめていますので、より詳しく知りたい方はぜひご覧ください。
第1号のテーマは、今シーズンも猛威をふるったインフルエンザです。
検査には「ゴールデンタイム」があります#
お子さんに38.5度の熱が出て、学校でインフルエンザが流行している。朝イチで検査してもらおう。そう思いますよね。
ただ、実はインフルエンザの迅速検査には「タイミング」があります。発熱してすぐだと、ウイルスの量がまだ少なくて、感染していても「陰性」と出てしまうことがあるんです。
159件の研究をまとめた大規模な解析では、迅速検査の感度は62.3%と報告されています [1]。つまり、本当にインフルエンザにかかっていても、約4割は「陰性」と出てしまう計算です。一般的に、発熱から12時間以上経ってから検査するほうがウイルス量が増えて正確な結果が出やすいとされています [2]。一方で、抗インフルエンザ薬は発症から48時間以内に使い始めることで効果が高まります [3]。つまり「早すぎず、遅すぎず」がポイントなんです。
夜間に熱が出ても、水分が摂れていて、呼びかけに反応があり、呼吸が苦しそうでなければ、翌朝の日中に受診していただくのがちょうどよいタイミングです。夜間救急は重症のお子さんのために確保しておきたいという面もあります。
「陰性」でも安心しないでください#
検査したら陰性だった。でも周りでインフルエンザがすごく流行している。本当に違うのか不安になりますよね。
正直に言います。迅速検査の「陰性」は、あまり信用しすぎないほうがいいです。
先ほどの大規模解析によると、陽性が出たらほぼ確実にインフルエンザです(特異度98.2%)。問題は、感染しているのに陰性と出てしまうケースです。しかもA型とB型で精度に差があります。A型の感度は64.6%だったのに対し、B型は52.2% [1]。つまりB型に感染しているお子さんのほぼ半数が「陰性」と判定されてしまう可能性があるんです。
CDCの2026年版ガイダンスでも、偽陰性は「よく起こる(commonly occur)」と明記されています [2]。私たち小児科医は、検査結果だけでなく、周囲の流行状況、お子さんの症状、発症からの時間を総合的に判断しています。周囲で流行していて典型的な症状があれば、陰性でも遠慮なく相談してください。
「B型は軽い」は、子どもには当てはまりません#
「B型は軽いから大丈夫よ」。こう聞いたことがある方は多いと思います。
まず安心してほしいのは、適切なタイミングで受診・治療すれば、ほとんどのお子さんは元気に回復するということです。ただ、「B型は軽い」という思い込みは、子どもに関しては危険です。
フランスで10シーズン・14,000例超を調べた研究では、A型とB型の症状の差はほとんどなく、外来診察だけで型を見分けることは実質困難と結論づけています [4]。大人の入院データではA型のほうが高熱や肺炎が多い傾向がありますが [5][6]、子どもでは逆転します。韓国の大学病院で小児809例を調べた研究では、39度超の発熱がA型35.4%に対してB型44.0%と逆転し、下痢や嘔吐もB型に多い結果が出ています [7]。
さらに深刻なデータがあります。カナダの小児12病院が参加した調査では、入院した子どものインフルエンザ関連死亡率がB型1.1%、A型0.4%。年齢や基礎疾患を調整した後の死亡リスクはB型でA型の2.65倍でした [8]。2019-2020シーズンの米国では、インフルエンザ関連の小児死亡199例のうち、約3分の2にあたる122例がB型に関連していました [9]。
この背景には「治療のギャップ」があります。「B型だから軽いだろう」という先入観が、治療開始の遅れにつながっている可能性があるんです [4][15]。型に関わらず、お子さんの様子をしっかり観察してください。
熱が下がった後の「足が痛い」は、心配しすぎなくて大丈夫です#
インフルエンザの熱が下がってホッとしていたら、急に「足が痛い、歩けない」と泣き出す。これは「良性急性小児筋炎(BACM)」と呼ばれる状態で、特にB型の回復期に起こることがあります。
どのくらいの頻度かというと、ギリシャの多施設研究では入院した小児インフルエンザ113例のうち32.7%がBACMを発症し、そのうち70.3%がB型でした [10]。サウジアラビアの小児病院でも、ウイルス陽性83例のうち75.9%がB型です [11]。ドイツのB型大流行時には219例が報告され、年齢の中央値は7歳、男児が74%を占めていました [12]。
名前に「良性」とついている通り、ほとんどが1週間以内に自然に回復します。集中治療室に入った例はギリシャの研究ではゼロ [10]。血液検査では筋肉の酵素(CK)が上がりますが、中央値で7日後には正常化し、重篤な横紋筋融解症が起きたのは全体の1%未満です [11]。
ただし、おしっこの色が茶色や赤っぽくなったら腎臓への負担のサインです。すぐに受診してください。発熱から筋炎症状が出るまでの中央値は3日、症状の持続は中央値4日です [12]。
家庭内でうつさないためにできること#
下のお子さんがまだ赤ちゃん。きょうだいにうつしたくない。そんな不安は当然です。
インフルエンザの主な感染経路は飛沫感染と接触感染です [13]。完璧に防ぐのは難しいですが、リスクを下げるためにできることがあります。
- 手洗いの徹底。お世話の前後に石けんで手を洗ってください。アルコール消毒も有効です。手洗い単独よりもマスクとの併用でより確かな効果が確認されています [14]
- マスクの着用。看病する方がマスクをつけると効果的です [14]
- 部屋を分ける。可能であれば、回復するまでお子さんの過ごす部屋を分けましょう
- 換気をこまめに。1〜2時間に1回、5〜10分程度が目安です
- タオル・コップは別々に。共有するものを減らしましょう
小さいお子さんの看病は密着せざるを得ないですよね。すべて完璧にする必要はありません。できることをできる範囲で、が大切です。なお、6か月以上のすべてのお子さんに毎シーズンのワクチン接種が推奨されています [3]。次のシーズンに備えて、ぜひご検討ください。
今号のまとめ#
- 検査のベストタイミングは発熱から12時間〜48時間。夜間発熱でも、状態が落ち着いていれば翌朝受診で大丈夫です [1][2]
- 迅速検査が陰性でもインフルエンザは否定できません。特にB型は感度約52%で、感染者の半数近くが見逃される可能性があります [1][2]
- 「B型は軽い」は子どもには当てはまらない可能性があります。小児のB型死亡リスクはA型の2.65倍というデータもあり、型にとらわれず、お子さんの状態を観察してください [7][8]
- 回復期の足の痛みは良性急性小児筋炎(BACM)かもしれません。ほとんどが自然に治りますが、尿の色の変化には注意を [10][11][12]