愛育病院 小児科おかもん だより Vol.5
「赤ちゃんがインフルエンザに!」、乳幼児の危険サイン・けいれん・脳症を知っておこう
今号のポイント
- 22歳未満(特に6か月未満)はインフルエンザ重症化のハイリスク群。家族全員のワクチン接種(繭戦略)で赤ちゃんを守りましょう
- 4赤ちゃんの危険サインは「呼吸苦・チアノーゼ・脱水・ぐったり・けいれん」。熱の高さより全身状態の観察が大切です
- 6乳幼児の抗インフルエンザ薬はタミフルが第一選択。生後2週間から使えます
こんにちは、愛育病院小児科のおかもん先生です。
インフルエンザ特集の第5号は、赤ちゃん・乳幼児のインフルエンザがテーマです。基本的に、多くのお子さんは適切なケアで元気に回復します。ただし、赤ちゃん特有の注意点を知っておくことが大切です。 小さなお子さんは症状を言葉で伝えられないため、保護者の「いつもと違う」という感覚がとても大切になります。
今回は、乳幼児ならではのリスク、熱性けいれん(高熱に伴うひきつけ)、そしてインフルエンザ脳症(脳が急激に腫れる非常にまれだが深刻な合併症)について、エビデンスに基づいてお伝えします。
Q1.「生後6か月の赤ちゃんがインフルエンザにかかりました。大人と何が違うんですか?」
——上の子からインフルエンザがうつったみたいで、生後6か月の子が39℃の熱を出しています。赤ちゃんのインフルエンザは怖いと聞いたのですが……
ご心配ですよね。まず押さえていただきたいのは、2歳未満、特に生後6か月未満のお子さんはインフルエンザの重症化リスクが高いということです。米国CDCも2歳未満を重症化リスクの高いグループに分類しています [1]
——どのくらいリスクが高いんですか?
米国の人口ベースの大規模サーベイランス(大規模な感染症の継続調査、FluSurv-NET)のデータでは、生後6か月未満の乳児のインフルエンザ関連入院率は、小児全体の中で最も高いことが示されています [2]。また、インフルエンザに関連した小児死亡例を分析した報告では、死亡した小児の約半数が基礎疾患のない健常児であり、さらに死亡例の中で生後6か月未満の割合が高いことが明らかになっています [3]。ただし、これはあくまで統計上のリスクであり、大多数の赤ちゃんは適切なケアで元気に回復しています。 赤ちゃんは免疫系がまだ未熟であること、気道が狭いこと、そして生後6か月未満にはインフルエンザワクチンを接種できないことが大きな要因です [1]
——ワクチンが打てない年齢だと、どうやって守ればいいんですか?
ここで重要になるのが『繭(まゆ)戦略(cocooning strategy)』です。赤ちゃん自身がワクチンを打てないなら、周囲の家族全員がワクチンを接種して、赤ちゃんを感染から守る壁を作るという考え方です [4]。お父さん、お母さん、きょうだい、同居のおじいちゃんおばあちゃんが接種することで、赤ちゃんへの感染リスクを下げることが期待できます。また、妊娠中のインフルエンザワクチン接種は、母体から赤ちゃんへ抗体が移行し、生後数か月間の乳児を守る効果があることが複数の臨床試験で示されています [5]
ポイント
- 2歳未満(特に6か月未満)はインフルエンザ重症化のハイリスク群 [1][2]
- 6か月未満の赤ちゃんにはワクチン接種ができない → 家族の接種で守る「繭戦略」[4]
- 妊娠中のワクチン接種で赤ちゃんに抗体が移行する [5]
Q2.「赤ちゃんの『危険サイン』って具体的にどんな症状ですか?」
——赤ちゃんは『しんどい』って言えないので、どこを見ればいいのか不安です。すぐに救急に行くべきサインを教えてください
とても大切な質問ですね。CDCが示している小児の緊急受診サインをもとにお話しします [1]。以下の症状がひとつでもあれば、すぐに医療機関を受診してください
- 2呼吸が速い・苦しそう 、 肋骨の間がペコペコへこむ(陥没呼吸)、鼻の穴が広がる(鼻翼呼吸)、肩で息をしている
- 4唇や爪の色が青白い・紫色(チアノーゼ) 、 酸素が足りていないサイン
- 6水分が摂れない・おしっこが出ない 、 8時間以上おむつが濡れない場合は脱水の可能性
- 8ぐったりして反応が鈍い 、 あやしても笑わない、目が合わない、起こしてもすぐにまた眠る
- 10けいれん(ひきつけ) 、 手足がガクガク震える、目が上を向く、意識がなくなる
- 12熱が下がっても症状が改善しない・一度よくなってから再び悪化した
——熱の高さだけでは判断できないんですね
おっしゃる通りです。小児科では『熱の高さ』よりも『全身の状態(General Appearance)』を重視します [6]。39℃でも元気に遊んでいるお子さんもいれば、38℃でもぐったりしているお子さんもいます。特に生後3か月未満の赤ちゃんが38℃以上の発熱をした場合は、インフルエンザに限らず重篤な細菌感染症を除外する必要があるため、速やかに受診をお勧めします [7]
——夜中に熱が出たとき、朝まで待っていいのか迷います……
判断基準はシンプルです。水分が摂れている・呼吸が落ち着いている・反応がある、この3つがそろっていれば、翌朝の受診で大丈夫なことがほとんどです。逆に、これらのどれかが欠けたら、夜間でもためらわずに受診してください
ポイント
- 「熱の高さ」より「全身状態」が大切。ぐったり・呼吸苦・チアノーゼ・脱水は緊急サイン [1][6]
- 生後3か月未満の38℃以上は、原因を問わず速やかに受診を [7]
- 迷ったら「水分・呼吸・反応」の3点チェック
Q3.「熱でけいれんを起こしました! どうしたらいいですか?」
——昨日インフルエンザと診断されて、夜中に急に手足がガクガクして白目をむきました。パニックになってしまって……
初めて見ると本当にびっくりしますよね。それは熱性けいれん(Febrile Seizure)と考えられます。熱性けいれんは小児期でもっとも多いけいれんのひとつで、生後6か月〜5歳のお子さんの2〜5%に起こります [8]。日本の小児は欧米よりやや頻度が高く、約7〜11%と報告されています [9]
——そんなに多いんですか! でもインフルエンザだと特にけいれんが起きやすいんですか?
はい、インフルエンザは他のウイルス感染症と比較して熱性けいれんを起こしやすいことが知られています。香港の大規模研究では、インフルエンザに関連した熱性けいれんの頻度は他の発熱性疾患よりも高いことが報告されています [10]。急激な体温上昇がけいれんの引き金になると考えられています
——もしけいれんが起きたら、何をすればいいですか?
けいれん時の対応をまとめますね
- 2慌てずに時間を確認する 、 スマートフォンで時刻を見てください。持続時間がとても重要です
- 4横向き(回復体位)に寝かせる 、 嘔吐物で窒息しないようにします
- 6口の中に何も入れない 、 割り箸やタオルを入れるのは絶対にやめてください。舌を噛むことは稀で、逆に歯が折れたり気道を塞ぐ危険があります [8]
- 8体を押さえつけない 、 けいれんを止めることはできません。けがをしないよう周囲の危険物を除けてください
- 10可能なら動画を撮る 、 受診時に医師がけいれんの種類を判断するのにとても役立ちます
——動画を撮るのは思いつきませんでした。どのくらい続いたら救急車を呼ぶべきですか?
一般的な単純型熱性けいれんは5分以内に自然に止まります [8]。以下の場合は119番に電話してください
- けいれんが5分以上続く場合
- 短時間に繰り返す場合(24時間以内に2回以上)
- けいれんが体の片側だけに起きている場合
- けいれん後30分経っても意識がはっきり戻らない場合
- 初めてのけいれん(一度は必ず医師の評価を受けてください)
なお、ほとんどの単純型熱性けいれんは予後良好で、後遺症を残すことはありません。また、単純型熱性けいれんからてんかんに移行するリスクは2〜7%程度で、一般人口のてんかん有病率(約1%)よりやや高いものの、大多数のお子さんは問題なく成長されます [8]
ポイント
- 熱性けいれんは生後6か月〜5歳の2〜5%に起こるよくある現象。日本では7〜11% [8][9]
- インフルエンザは他の発熱疾患より熱性けいれんを起こしやすい [10]
- けいれん時:横向き、口に物を入れない、時間を計る、できれば動画撮影
- 5分以上続く・片側だけ・繰り返す → 救急車を呼ぶ [8]
Q4.「インフルエンザ脳症って何ですか? とても怖いと聞きました」
——ニュースで『インフルエンザ脳症で子どもが亡くなった』と見ました。怖くてたまりません。どんな病気なんですか?
ご不安なお気持ち、よくわかります。まずお伝えしたいのは、インフルエンザ脳症は非常にまれな合併症であり、インフルエンザにかかったお子さんのほとんどは脳症にはなりません。 そのうえで、万が一のために知識を持っておくことが大切です。インフルエンザ脳症(インフルエンザ関連脳症:Influenza-Associated Encephalopathy, IAE)は、インフルエンザ感染をきっかけに急速に脳が腫れて意識障害が進行する、きわめて重篤な合併症です。日本では年間100〜300例程度が報告されています。2000年代初頭には致死率が約30%と高率でしたが [11][12]、早期治療プロトコルの普及により、近年は約8〜10%に改善しています [18]。後遺症が残る割合は約15〜25%とされています
——年間100例以上も……。どの年齢に多いんですか?
日本の全国調査では、発症のピークは1〜5歳で、特に1〜3歳に多いことが報告されています [11]。インフルエンザ脳症は世界的に見ると日本で報告が圧倒的に多いのが特徴です。この背景として、日本の医療者の認識が高いこと、サーベイランス体制が整っていること、そして遺伝的要因(サイトカイン関連遺伝子の多型など)が関与している可能性も指摘されています [12]
——早く気づくにはどうすればいいですか?
インフルエンザ脳症の初期症状として、厚生労働省のインフルエンザ脳症ガイドラインでは以下の3つの異常パターンが重要とされています [13]
- 2異常言動・異常行動 、 意味不明なことを言う、急に泣き叫ぶ、怖がる、人や物が見えると言う(幻覚)、ぼんやりして呼びかけに反応しない
- 4けいれん 、 特に15分以上続くけいれん、繰り返すけいれん、片側だけのけいれんは要注意
- 6意識障害 、 眠ってばかりで起こしても反応しない、うとうとして目が合わない
ここで注意していただきたいのが、Q3でお話しした熱性けいれんとの違いです。単純型の熱性けいれんは5分以内に止まって意識もしっかり戻ります。一方、脳症を示唆するけいれんは長く続き、意識の回復が悪いのが特徴です [11][13]。高熱に伴う一時的な異常行動(いわゆる『熱せん妄』)との区別も難しいことがありますが、発熱から数時間〜1日以内に急速に意識レベルが低下する場合は、ためらわずに救急受診してください
——治療法はあるんですか?
早期発見・早期治療が予後を左右します。治療の柱は脳圧を下げる治療(脳浮腫の管理)、ステロイドパルス療法、そして抗ウイルス薬の投与です [13]。近年、メチルプレドニゾロンパルスを含む早期介入プロトコルによって、重症例の予後が改善傾向にあるという報告もあります [12]。繰り返しますが、早期受診が鍵ですので、先ほどの3つの異常サインが見られたらすぐに受診してください
ポイント
- インフルエンザ脳症は1〜5歳に多く、早期治療の進歩により致死率は約8〜10%に改善 [11][12][18]
- 危険サイン3つ:異常言動・長時間けいれん・意識障害 [13]
- 発熱後に急速に意識が悪くなる → 救急受診 [11][13]
- 早期治療で予後改善の可能性がある [12]
Q5.「赤ちゃんにもタミフルは使えるんですか?」
——生後8か月の子がインフルエンザと診断されました。お薬は飲めるんでしょうか? 赤ちゃんに使って大丈夫ですか?
はい、使えます。オセルタミビル(タミフル)は生後2週間以上のお子さんから使用が承認されており、体重に応じた用量のドライシロップとして処方します [14]。米国小児科学会(AAP)も、生後2週間以上のすべての入院患児および重症化リスクの高い外来患児に対し、発症48時間以内のオセルタミビル投与を推奨しています [15]
——ドライシロップって飲ませにくくないですか?
正直に言うと、苦味があるのでお子さんによっては嫌がることがあります。いくつかコツをお伝えしますね
- チョコレートアイスやチョコレートシロップに混ぜると苦味がマスクされやすいです
- 少量のジュース(リンゴジュースなど)に混ぜてもかまいません
- 服用直前に混ぜて、なるべく早く飲ませるのがポイントです。時間が経つと苦味が出やすくなります
- どうしても飲めない場合は、医師に相談してください
——吸入薬(イナビルやリレンザ)は赤ちゃんには使えないんですか?
鋭いご質問ですね。吸入薬はしっかり吸い込む動作が必要なので、乳幼児には適していません。ラニナミビル(イナビル)は添付文書上の対象年齢は限定されていませんが、実臨床では確実に吸入できる年齢(おおむね5歳以上)でないと十分な効果が期待できません。バロキサビル(ゾフルーザ)は錠剤のため、体重10kg以上で処方可能ですが、低年齢での耐性ウイルス出現率が高い点が懸念されています [16]。このため、乳幼児にはオセルタミビル(タミフル)が第一選択となります [14][15]
——副作用は大丈夫ですか?
主な副作用は嘔吐・下痢などの消化器症状で、多くは軽度です。以前話題になった『異常行動』については、Vol.2でも詳しくお伝えしましたが、厚生労働省の大規模調査でオセルタミビル服用の有無にかかわらず、インフルエンザ罹患時には異常行動が起こりうることが示されています [17]。つまり異常行動は薬の副作用ではなく、インフルエンザそのものに伴う現象と考えられています。小さなお子さんの場合は特に、発熱後2日間は目を離さないようにしてください
ポイント
- タミフル(オセルタミビル)は生後2週間から使用可能 [14][15]
- 乳幼児には吸入薬は適さない → タミフルが第一選択 [14][15]
- ゾフルーザは体重10kg以上だが、低年齢では耐性の懸念あり [16]
- 異常行動は薬ではなくインフルエンザ自体に伴うもの [17]
今号のまとめ
- 2歳未満(特に6か月未満)はインフルエンザ重症化のハイリスク群です。6か月未満はワクチンが打てないため、家族全員の接種(繭戦略)で守りましょう [1][2][4]
- 赤ちゃんの危険サインは「呼吸苦・チアノーゼ・脱水・ぐったり・けいれん」。熱の高さより全身の状態を観察してください [1][6]
- 熱性けいれんは小児期によくある現象(日本では7〜11%)ですが、5分以上続く場合は救急車を [8][9]
- インフルエンザ脳症は1〜5歳に多く、異常言動・長時間けいれん・意識障害が早期サイン。発見したらすぐに受診を [11][13]
- 乳幼児の抗インフルエンザ薬はタミフルが第一選択。生後2週間から使えます [14][15]
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