愛育病院 小児科おかもん だより Vol.39
「手のひらと口の中に発疹が……」、手足口病の正しい知識
今号のポイント
- 2手足口病は夏に流行し、5歳以下の乳幼児に多い。ほとんどは軽症で自然治癒する
- 4手のひら・足の裏・口の中の発疹が特徴。口内炎が痛くて食べられないことも
- 6特効薬はなく、対症療法が基本。まれに髄膜炎などの合併症に注意
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
「手のひらと口の中に水ぶくれができました。食事が痛くて食べられません」、これは手足口病の典型的な症状です。
手足口病は、夏に流行する代表的な感染症で、保育園や幼稚園で毎年流行します [1]。ほとんどは軽症で自然に治りますが、口内炎の痛みで食事がとれないことや、まれに髄膜炎などの合併症を起こすことがあります [2]。
今回は、手足口病について知っておいてほしい症状・経過・ホームケアをお伝えします。
Q1.「手足口病ってどんな病気ですか? どのくらい多いんですか?」
——保育園で手足口病が流行っています。どんな病気なんですか?
手足口病は、エンテロウイルスというウイルスによる感染症で、手のひら、足の裏、口の中に水疱性の発疹ができるのが特徴です [1]。英語では"Hand, Foot, and Mouth Disease (HFMD)"といいます
手足口病の基本情報:
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原因ウイルス | コクサッキーウイルスA16型、A6型、エンテロウイルス71型など [1][3] |
| 好発年齢 | 5歳以下、特に2歳以下が約90% [1] |
| 流行時期 | 夏(6月〜8月)がピーク [1][4] |
| 潜伏期間 | 3〜6日 [1] |
| 患者数 | 日本で流行年には約50〜100万人と推定(小児科定点報告)[4] |
| 再感染 | 原因ウイルスが複数あるため、何度でも感染する [3] |
——夏に多いんですね。なぜ夏なんですか?
エンテロウイルスは高温多湿な環境を好むため、夏に流行します [1]。ただし、近年は秋まで流行が続くこともあります [4]。保育園や幼稚園での集団生活で広がりやすく、毎年夏になると外来が手足口病の患者さんであふれます
——何度もかかることがあるんですか?
はい。手足口病を起こすウイルスは10種類以上あり、それぞれに対する免疫は別々です [3]。つまり、一度かかっても、別のウイルスで再び感染します。ただし、同じウイルスには免疫ができるので、まったく同じ型には通常かかりません [3]
——10種類もあるんですか! その中でも危険なウイルスはありますか?
はい。エンテロウイルス71型(EV71)は、他のウイルスより重症化しやすく、髄膜炎、脳炎、急性弛緩性麻痺(きゅうせいしかんせいまひ=手足に力が入らなくなる病気)などの合併症を起こすことがあります [2][5]。特にアジアでは、EV71による重症例や死亡例が報告されています [5]
ポイント
- 手足口病の原因は エンテロウイルス(10種類以上) [1][3]
- 5歳以下、特に2歳以下が約90%。夏(6〜8月)がピーク [1][4]
- 何度でも感染する(原因ウイルスが複数あるため)[3]
- エンテロウイルス71型(EV71)は重症化リスク高 [2][5]
Q2.「手足口病の症状と経過を教えてください」
——どんな症状が出ますか? どうやって診断するんですか?
手足口病の診断は臨床症状(発疹の場所と形)で行います [1]。特徴的な3つの症状があります
手足口病の典型的な症状 [1][2][6]:
① 発熱(約30〜50%)
- 微熱(37〜38℃台)が1〜2日続く
- 発熱しないこともある
- 高熱(39℃以上)はまれ
- ※頻度は原因ウイルスの血清型により異なる [3]
② 口の中の発疹(ほぼ100%)
最も特徴的で、最も困る症状 [6]:
- 口の中に2〜3mmの水疱や潰瘍(アフタ)ができる
- 場所: 舌、頬の内側、上あご、歯茎
- 非常に痛い
- 食事・水分がとれなくなる
- 2〜3日がピーク、7〜10日で治癒
③ 手足の発疹(約90%)
- 手のひら、足の裏に特徴的な発疹
- 手足の甲、指の間、お尻、膝にも出ることがある(特にCA6型では広範囲に分布する非典型例あり [3])
- 形: 2〜5mmの楕円形、水疱性(水ぶくれ)
- 周囲が赤い
- 痛みやかゆみは少ない
- 7〜10日で自然に消える
発疹の出現順序 [6]:
- 2口の中 → 手足より先に出ることが多い
- 4手のひら・足の裏
- 6手足の甲、お尻、膝など
——口の中が痛くて、うちの子は何も食べられません。水も飲めなくて……
手足口病で最もつらいのが口内炎の痛みです [6]。特に小さなお子さんは、痛みで飲食を拒否してしまいます。脱水にならないよう、工夫が必要です(Q3で詳しく説明します)
手足口病の経過 [1][2]:
- 潜伏期間: 3〜6日
- 発症: 発熱(出ないこともある)→ 口内炎 → 手足の発疹
- ピーク: 発症後2〜3日
- 回復: 7〜10日で自然治癒
- 発疹の後: 手足の発疹が消えた後、1〜2ヶ月後に爪がはがれることがある [7](痛みなし、自然に治る)
——爪がはがれるんですか!?
はい。特にコクサッキーウイルスA6型に感染した後、1〜2ヶ月後に手足の爪が根元からはがれることがあります [7]。これは『爪甲脱落症(そうこうだつらくしょう)』といって、手足口病の後遺症のひとつです。見た目は心配になりますが、痛みはなく、新しい爪が生えてくるので心配ありません [7]
ポイント
- 典型的な3症状: 発熱(微熱)、口内炎、手足の発疹 [1][2]
- 口内炎が最も困る症状。非常に痛く、飲食困難に [6]
- 発疹は手のひら・足の裏が特徴。痛み・かゆみは少ない [1]
- 7〜10日で自然治癒 [1]
- 1〜2ヶ月後に爪がはがれることあり(痛みなし、自然治癒)[7]
Q3.「手足口病の治療はどうするんですか? 痛みで食べられないときは?」
——手足口病と診断されたら、どんな治療をするんですか?
残念ながら、手足口病に効く特効薬(抗ウイルス薬)はありません [1][2]。治療の基本は対症療法です。特に口内炎の痛みの管理と脱水予防が重要です [6]
手足口病の治療とホームケア [1][2][6][8]:
① 口内炎の痛みの管理
薬物療法:
- アセトアミノフェン(カロナール): 痛み止め・解熱剤
- 口腔内用軟膏: デキサメタゾン軟膏、アズレンスルホン酸ナトリウムなど
- うがい薬: アズレンスルホン酸ナトリウム(ハチアズレなど)
注意: イブプロフェンは使用可能ですが、胃腸障害があるためアセトアミノフェンが第一選択 [8]
② 食事の工夫(最重要)
食べやすいもの [6][8]:
OK(痛みが少ない):
- 冷たいもの: アイスクリーム、プリン、ゼリー、ヨーグルト
- 柔らかいもの: おかゆ、うどん(細かく切る)、豆腐
- のどごしのよいもの: 茶碗蒸し、卵豆腐
- 栄養補助食品: 経口補水液、栄養ドリンク(子ども用)
NG(痛みが増す):
- 酸っぱいもの: オレンジジュース、トマト、みかん
- しょっぱいもの: 塩辛い食事、味噌汁(濃い味)
- 辛いもの: カレー、香辛料
- 硬いもの: せんべい、パンの耳
- 熱いもの: 熱いスープ、ラーメン
——アイスクリームを食べさせてもいいんですか?
はい。手足口病の時は冷たいものが一番食べやすいです [6]。栄養バランスより、まず口から何か入れることを優先してください。アイスクリームでもゼリーでも、食べられるものでOKです
③ 水分補給(脱水予防)
- こまめに少量ずつ飲ませる
- 冷たい麦茶、イオン飲料、経口補水液
- ストローを使うと飲みやすいことも
- 8時間以上おしっこが出ない場合は受診 [8]
④ 入浴
- 熱がなく、元気なら入浴OK [1]
- 発疹は感染力があるが、お風呂で悪化することはない
- タオルは共用しない
⑤ 保育園・幼稚園
- 発熱がなく、食事がとれて元気なら登園可能 [9]
- 学校保健安全法では出席停止期間の定めなし [9]
- ただし、口内炎がひどい間は食事がとれず、集団生活が難しい
——抗生物質は飲まなくていいんですか?
手足口病はウイルス感染症なので、抗生物質(細菌をやっつける薬)は効きません [1]。不要な抗生物質は副作用や薬剤耐性菌のリスクを高めます。細菌感染の合併(とびひなど)がない限り、抗生物質は不要です
ポイント
- 手足口病に特効薬はなく、対症療法が基本 [1][2]
- 痛み止め(アセトアミノフェン)と食事の工夫が重要 [6][8]
- 冷たいものが食べやすい。アイスクリーム、ゼリー、プリンOK [6]
- 酸っぱいもの、しょっぱいもの、熱いものはNG [8]
- 抗生物質は効かない(ウイルス感染症のため)[1]
- 発熱なし、食事がとれて元気なら登園可能 [9]
Q4.「合併症はありますか? 注意すべきことは?」
——手足口病で怖い合併症はありますか?
手足口病はほとんどが軽症で自然治癒します [1]。しかし、まれに中枢神経系の合併症を起こすことがあり、特にエンテロウイルス71型(EV71)に注意が必要です [2][5]
手足口病の合併症 [2][5][10]:
① 無菌性髄膜炎(最も多い)
- 発生頻度: 数百〜数千人に1人 [10]
- 症状: 頭痛、嘔吐、首が硬い(項部硬直)
- ウイルスが髄膜(脳を覆う膜)に感染
- ほとんどは後遺症なく治る [10]
② 脳炎・脳症(まれ)
- 症状: 意識障害、けいれん、異常行動
- EV71に多い [5]
- 重症化すると後遺症が残ることも
③ 急性弛緩性麻痺(AFM)(まれ)
- 症状: 手足の麻痺、筋力低下
- EV71やエンテロウイルスD68に関連 [11]
- ポリオに似た症状
④ 心筋炎(非常にまれ)
- 症状: 胸痛、呼吸困難、顔色不良
- EV71に関連 [5]
⑤ 脱水
- 口内炎の痛みで飲食できず、脱水になる
- 最も注意すべき合併症 [8]
——どんなサインが出たら、すぐ病院に行くべきですか?
以下のサインがあれば、すぐに受診してください [2][8][10]
すぐに受診すべきサイン [2][8][10]:
緊急(救急車):
- 意識がもうろうとしている、呼びかけに反応しない
- けいれん(5分以上、または繰り返す)
- 呼吸困難(ゼーゼー、唇が紫色)
- ぐったりしている
当日受診:
- 高熱(39℃以上)が2日以上続く
- 頭痛がひどい、何度も嘔吐する
- 首が硬い(あごが胸につかない)
- 8時間以上おしっこが出ない(脱水)
- 手足に力が入らない(麻痺)
翌日受診:
- 口内炎がひどくて、まったく食べられない
- 発疹が化膿している(とびひの合併)
——どのくらいの頻度で合併症が起こるんですか?
日本での手足口病の合併症は非常にまれです。無菌性髄膜炎が最も多いですが、それでも数百〜数千人に1人程度です [10]。脳炎や心筋炎はさらにまれです。ただし、アジアの一部の国(中国、台湾など)では、EV71による重症例が多く報告されており、日本でも注意が必要です [5]
ポイント
- ほとんどは軽症で自然治癒 [1]
- まれな合併症: 無菌性髄膜炎、脳炎、急性弛緩性麻痺 [2][5][10]
- エンテロウイルス71型(EV71)は重症化リスク高 [5]
- 意識障害、けいれん、頭痛・嘔吐、8時間以上尿なし → すぐ受診 [2][8][10]
- 脱水が最も注意すべき合併症 [8]
Q5.「手足口病はうつりますか? どうやって予防すればいいですか?」
——手足口病はうつりますか? 兄弟にうつらないようにできますか?
手足口病は感染力が強く、特に保育園や幼稚園で広がりやすいです [1]。完全に予防するのは難しいですが、感染リスクを減らす方法はあります
感染経路 [1][12]:
① 飛沫感染
- 咳やくしゃみで飛び散る飛沫を吸い込む
② 接触感染
- 水疱の内容物、便に含まれるウイルスに触れる
- おもちゃ、タオルを介して感染
③ 糞口感染
- 便の中にウイルスが排泄される [12]
- おむつ替え後の手洗い不足で感染
- 症状が治まった後も2〜4週間、便中にウイルスが排泄される [12]
——症状が治まった後も感染力があるんですか!?
はい。これが手足口病の感染予防の難しさです。発疹が消えても、便中には2〜4週間ウイルスが排泄され続けます [12]。そのため、完全に感染を防ぐのは不可能です。学校保健安全法でも出席停止期間が定められていないのは、このためです [9]
家庭内での感染予防 [1][12]:
① 手洗い(最重要)
- 石けんで15秒以上こすり洗い
- 特におむつ替え後、食事前、トイレ後
- アルコール消毒は手足口病ウイルスに効きにくい [12]
② おむつ替えの注意
- 使い捨て手袋を使う
- おむつはビニール袋に入れて密閉
- おむつ替え後は石けんで手洗い
③ タオル・食器の共用を避ける
- 特にハンドタオル、バスタオル
- 食器は別々に洗う
④ おもちゃの消毒
- 塩素系消毒液(次亜塩素酸ナトリウム)で拭く
- アルコールは効きにくい [12]
⑤ 便の処理
- 回復後も2〜4週間は注意 [12]
- おむつ替え後の手洗いを徹底
——予防接種やワクチンはないんですか?
現在、日本で使える手足口病ワクチンはありません [1]。中国ではEV71ワクチンが開発・承認されていますが、日本ではまだ承認されていません [13]。手足口病を起こすウイルスが10種類以上あるため、すべてをカバーするワクチン開発は困難です [13]
登園・登校の目安 [9]:
- 発熱がなく、食事がとれて元気なら登園可能
- 学校保健安全法では出席停止期間の定めなし [9]
- ただし、園によっては「発疹が消えるまで」など独自の基準がある場合も
- 回復後も便中にウイルスが排泄されるため、長期の出席停止は意味がない [9]
ポイント
- 手足口病は感染力が強い(飛沫・接触・糞口感染)[1][12]
- 症状が治まった後も2〜4週間、便中にウイルス排泄 [12]
- 手洗いが最も重要(特におむつ替え後)[12]
- アルコール消毒は効きにくい。塩素系消毒液を使う [12]
- ワクチンはまだない [1][13]
- 発熱なし、食事OK、元気なら登園可能 [9]
まとめ
- 手足口病はエンテロウイルスが原因で、夏に流行。5歳以下に多い [1][4]
- 典型的な症状: 口内炎、手のひら・足の裏の発疹 [1][2]
- 口内炎が最もつらい。冷たいもの(アイスクリーム、ゼリー)が食べやすい [6][8]
- 特効薬はなく、対症療法。抗生物質は効かない [1][2]
- まれな合併症: 無菌性髄膜炎、脳炎、急性弛緩性麻痺 [2][5][10]
- 意識障害、けいれん、頭痛・嘔吐、8時間以上尿なし → すぐ受診 [2][8][10]
- 手洗いが最重要。症状消失後も2〜4週間は便中にウイルス排泄 [12]
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