「手のひらと口の中に水ぶくれができました。食事が痛くて食べられません」、これは手足口病の典型的な症状です。
手足口病は、夏に流行する代表的な感染症で、保育園や幼稚園で毎年流行します [1]。ほとんどは軽症で自然に治りますが、口内炎の痛みで食事がとれないことや、まれに髄膜炎などの合併症を起こすことがあります [2]。
今回は、手足口病について知っておいてほしい症状・経過・ホームケアをお伝えします。
手足口病ってどんな病気ですか? どのくらい多いんですか?#
保育園で手足口病が流行っています。どんな病気なんですか?
手足口病は、エンテロウイルスというウイルスによる感染症で、手のひら、足の裏、口の中に水疱性の発疹ができるのが特徴です [1]。英語では"Hand, Foot, and Mouth Disease (HFMD)"といいます
手足口病の基本情報:
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原因ウイルス | コクサッキーウイルスA16型、A6型、エンテロウイルス71型など [1][3] |
| 好発年齢 | 5歳以下、特に2歳以下が約90% [1] |
| 流行時期 | 夏(6月〜8月)がピーク [1][4] |
| 潜伏期間 | 3〜6日 [1] |
| 患者数 | 日本で流行年には約50〜100万人と推定(小児科定点報告)[4] |
| 再感染 | 原因ウイルスが複数あるため、何度でも感染する [3] |
エンテロウイルスは高温多湿な環境を好むため、夏に流行します [1]。ただし、近年は秋まで流行が続くこともあります [4]。保育園や幼稚園での集団生活で広がりやすく、毎年夏になると外来が手足口病の患者さんであふれます
手足口病を起こすウイルスは10種類以上あり、それぞれに対する免疫は別々です [3]。つまり、一度かかっても、別のウイルスで再び感染します。ただし、同じウイルスには免疫ができるので、まったく同じ型には通常かかりません [3]
エンテロウイルス71型(EV71)は、他のウイルスより重症化しやすく、髄膜炎、脳炎、急性弛緩性麻痺(きゅうせいしかんせいまひ=手足に力が入らなくなる病気)などの合併症を起こすことがあります [2][5]。特にアジアでは、EV71による重症例や死亡例が報告されています [5]
手足口病の症状と経過を教えてください#
どんな症状が出ますか? どうやって診断するんですか?
手足口病の診断は臨床症状(発疹の場所と形)で行います [1]。特徴的な3つの症状があります
手足口病の典型的な症状 [1][2][6]:#
① 発熱(約30〜50%)#
- 微熱(37〜38℃台)が1〜2日続く
- 発熱しないこともある
- 高熱(39℃以上)はまれ
- ※頻度は原因ウイルスの血清型により異なる [3]
② 口の中の発疹(ほぼ100%)#
最も特徴的で、最も困る症状 [6]:
- 口の中に2〜3mmの水疱や潰瘍(アフタ)ができる
- 場所: 舌、頬の内側、上あご、歯茎
- 非常に痛い
- 食事・水分がとれなくなる
- 2〜3日がピーク、7〜10日で治癒
③ 手足の発疹(約90%)#
- 手のひら、足の裏に特徴的な発疹
- 手足の甲、指の間、お尻、膝にも出ることがある(特にCA6型では広範囲に分布する非典型例あり [3])
- 形: 2〜5mmの楕円形、水疱性(水ぶくれ)
- 周囲が赤い
- 痛みやかゆみは少ない
- 7〜10日で自然に消える
発疹の出現順序 [6]:
- 口の中 → 手足より先に出ることが多い
- 手のひら・足の裏
- 手足の甲、お尻、膝など
手足口病で最もつらいのが口内炎の痛みです [6]。特に小さなお子さんは、痛みで飲食を拒否してしまいます。脱水にならないよう、工夫が必要です(Q3で詳しく説明します)
手足口病の経過 [1][2]:#

潜伏期間は3〜6日。発熱(微熱で出ないことも)に続いて口内炎、その後に手足の発疹。ピークは発症後2〜3日で口内炎が最もつらい。7〜10日で自然治癒。1〜2ヶ月後に爪がはがれることがあるが痛みなく自然に治る。
- 潜伏期間: 3〜6日
- 発症: 発熱(出ないこともある)→ 口内炎 → 手足の発疹
- ピーク: 発症後2〜3日
- 回復: 7〜10日で自然治癒
- 発疹の後: 手足の発疹が消えた後、1〜2ヶ月後に爪がはがれることがある [7](痛みなし、自然に治る)
特にコクサッキーウイルスA6型に感染した後、1〜2ヶ月後に手足の爪が根元からはがれることがあります [7]。これは『爪甲脱落症(そうこうだつらくしょう)』といって、手足口病の後遺症のひとつです。見た目は心配になりますが、痛みはなく、新しい爪が生えてくるので心配ありません [7]
手足口病の治療はどうするんですか? 痛みで食べられないときは?#
手足口病と診断されたら、どんな治療をするんですか?
残念ながら、手足口病に効く特効薬(抗ウイルス薬)はありません [1][2]。治療の基本は対症療法です。特に口内炎の痛みの管理と脱水予防が重要です [6]
手足口病の治療とホームケア [1][2][6][8]:#
① 口内炎の痛みの管理#
薬物療法:
- アセトアミノフェン(カロナール): 痛み止め・解熱剤
- 口腔内用軟膏: デキサメタゾン軟膏、アズレンスルホン酸ナトリウムなど
- うがい薬: アズレンスルホン酸ナトリウム(ハチアズレなど)
注意: イブプロフェンは使用可能ですが、胃腸障害があるためアセトアミノフェンが第一選択 [8]
② 食事の工夫(最重要)#
OK(痛みが少ない):
- 冷たいもの: アイスクリーム、プリン、ゼリー、ヨーグルト
- 柔らかいもの: おかゆ、うどん(細かく切る)、豆腐
- のどごしのよいもの: 茶碗蒸し、卵豆腐
- 栄養補助食品: 経口補水液、栄養ドリンク(子ども用)
NG(痛みが増す):
- 酸っぱいもの: オレンジジュース、トマト、みかん
- しょっぱいもの: 塩辛い食事、味噌汁(濃い味)
- 辛いもの: カレー、香辛料
- 硬いもの: せんべい、パンの耳
- 熱いもの: 熱いスープ、ラーメン
手足口病の時は冷たいものが一番食べやすいです [6]。栄養バランスより、まず口から何か入れることを優先してください。アイスクリームでもゼリーでも、食べられるものでOKです
③ 水分補給(脱水予防)#
- こまめに少量ずつ飲ませる
- 冷たい麦茶、イオン飲料、経口補水液
- ストローを使うと飲みやすいことも
- 8時間以上おしっこが出ない場合は受診 [8]
④ 入浴#
- 熱がなく、元気なら入浴OK [1]
- 発疹は感染力があるが、お風呂で悪化することはない
- タオルは共用しない
⑤ 保育園・幼稚園#
手足口病はウイルス感染症なので、抗生物質(細菌をやっつける薬)は効きません [1]。不要な抗生物質は副作用や薬剤耐性菌のリスクを高めます。細菌感染の合併(とびひなど)がない限り、抗生物質は不要です
合併症はありますか? 注意すべきことは?#
手足口病はほとんどが軽症で自然治癒します [1]。しかし、まれに中枢神経系の合併症を起こすことがあり、特にエンテロウイルス71型(EV71)に注意が必要です [2][5]
手足口病の合併症 [2][5][10]:#
① 無菌性髄膜炎(最も多い)#
② 脳炎・脳症(まれ)#
- 症状: 意識障害、けいれん、異常行動
- EV71に多い [5]
- 重症化すると後遺症が残ることも
③ 急性弛緩性麻痺(AFM)(まれ)#
- 症状: 手足の麻痺、筋力低下
- EV71やエンテロウイルスD68に関連 [11]
- ポリオに似た症状
④ 心筋炎(非常にまれ)#
- 症状: 胸痛、呼吸困難、顔色不良
- EV71に関連 [5]
⑤ 脱水#
- 口内炎の痛みで飲食できず、脱水になる
- 最も注意すべき合併症 [8]
以下のサインがあれば、すぐに受診してください [2][8][10]
すぐに受診すべきサイン [2][8][10]:#

至急・赤:意識がもうろうとして反応しない、けいれんが5分以上または繰り返す、呼吸困難でぐったり。注意・黄:高熱が2日以上続く、何度も嘔吐し頭痛がひどい、首が硬い・手足に力が入らない、8時間以上おしっこが出ない。家庭・緑:痛み止めはアセトアミノフェン、冷たいものを少しずつ、こまめに水分補給。
緊急(救急車):#
- 意識がもうろうとしている、呼びかけに反応しない
- けいれん(5分以上、または繰り返す)
- 呼吸困難(ゼーゼー、唇が紫色)
- ぐったりしている
当日受診:#
- 高熱(39℃以上)が2日以上続く
- 頭痛がひどい、何度も嘔吐する
- 首が硬い(あごが胸につかない)
- 8時間以上おしっこが出ない(脱水)
- 手足に力が入らない(麻痺)
翌日受診:#
- 口内炎がひどくて、まったく食べられない
- 発疹が化膿している(とびひの合併)
日本での手足口病の合併症は非常にまれです。無菌性髄膜炎が最も多いですが、それでも数百〜数千人に1人程度です [10]。脳炎や心筋炎はさらにまれです。ただし、アジアの一部の国(中国、台湾など)では、EV71による重症例が多く報告されており、日本でも注意が必要です [5]
手足口病はうつりますか? どうやって予防すればいいですか?#
手足口病はうつりますか? 兄弟にうつらないようにできますか?
手足口病は感染力が強く、特に保育園や幼稚園で広がりやすいです [1]。完全に予防するのは難しいですが、感染リスクを減らす方法はあります
感染経路 [1][12]:#
① 飛沫感染#
- 咳やくしゃみで飛び散る飛沫を吸い込む
② 接触感染#
- 水疱の内容物、便に含まれるウイルスに触れる
- おもちゃ、タオルを介して感染
③ 糞口感染#
これが手足口病の感染予防の難しさです。発疹が消えても、便中には2〜4週間ウイルスが排泄され続けます [12]。そのため、完全に感染を防ぐのは不可能です。学校保健安全法でも出席停止期間が定められていないのは、このためです [9]
家庭内での感染予防 [1][12]:#
① 手洗い(最重要)#
- 石けんで15秒以上こすり洗い
- 特におむつ替え後、食事前、トイレ後
- アルコール消毒は手足口病ウイルスに効きにくい [12]
② おむつ替えの注意#
- 使い捨て手袋を使う
- おむつはビニール袋に入れて密閉
- おむつ替え後は石けんで手洗い
③ タオル・食器の共用を避ける#
- 特にハンドタオル、バスタオル
- 食器は別々に洗う
④ おもちゃの消毒#
- 塩素系消毒液(次亜塩素酸ナトリウム)で拭く
- アルコールは効きにくい [12]
⑤ 便の処理#
- 回復後も2〜4週間は注意 [12]
- おむつ替え後の手洗いを徹底
現在、日本で使える手足口病ワクチンはありません [1]。中国ではEV71ワクチンが開発・承認されていますが、日本ではまだ承認されていません [13]。手足口病を起こすウイルスが10種類以上あるため、すべてをカバーするワクチン開発は困難です [13]
登園・登校の目安 [9]:#
- 発熱がなく、食事がとれて元気なら登園可能
- 学校保健安全法では出席停止期間の定めなし [9]
- ただし、園によっては「発疹が消えるまで」など独自の基準がある場合も
- 回復後も便中にウイルスが排泄されるため、長期の出席停止は意味がない [9]
まとめ#
- 手足口病はエンテロウイルスが原因で、夏に流行。5歳以下に多い [1][4]
- 典型的な症状: 口内炎、手のひら・足の裏の発疹 [1][2]
- 口内炎が最もつらい。冷たいもの(アイスクリーム、ゼリー)が食べやすい [6][8]
- 特効薬はなく、対症療法。抗生物質は効かない [1][2]
- まれな合併症: 無菌性髄膜炎、脳炎、急性弛緩性麻痺 [2][5][10]
- 意識障害、けいれん、頭痛・嘔吐、8時間以上尿なし → すぐ受診 [2][8][10]
- 手洗いが最重要。症状消失後も2〜4週間は便中にウイルス排泄 [12]