「みなとん」を使ってくださっている方に、このサイトがどうやって生まれたのか、一度ちゃんとお話ししたいと思っていました。小児科医がなぜWebサイトを作っているのか。変わったことをしているように見えるかもしれませんが、僕にとっては外来の延長線上にある、自然な流れでした。
きっかけは、外来で繰り返される同じ質問#
小児科の外来では、同じ質問が毎日繰り返されます。
「熱があるんですけど、どのくらいで受診すべきですか?」「この薬は授乳中に飲んでも大丈夫ですか?」「保育園でRSウイルスが流行っているんですけど、うちの子は大丈夫ですか?」
どれも大切な質問です。一人ひとりに丁寧に答えたい。でも外来の診察時間には限りがあります。一日に何十人もの患者さんを診る中で、同じ説明を何度も繰り返していると、ある疑問が浮かびます。「この情報、一度しっかり書いておけば、何千人にも届くのに」 [1]。
メルマガを始めたのはその発想からでした。外来で伝えきれないことを、文章にして届ける。一度書けば、あとから何度でも読み返せる。時間と場所の制約を超えて情報が届く。
情報はあるのに、届いていない#
メルマガを書き続けるなかで、もうひとつの問題に気づきました。
港区には、実は非常に充実した子育て支援制度があります。産後ケア、一時預かり、ファミリーサポート、児童手当、医療費助成。制度としては存在しています。
でも、その制度を知らない保護者が多い。知っていても、自分が対象になるのかわからない。申請の仕方がわからない。結果として、本来受けられるはずの支援を受けていない家庭がある [2]。
これは医療情報にも当てはまります。正確で信頼できる医療情報はインターネット上に存在します。でも、検索して最初に出てくるのは広告記事やアフィリエイトサイトであることが多い。信頼できる情報にたどり着くためにはヘルスリテラシーが必要ですが、不安な深夜にそれを発揮するのは難しい [3]。
情報格差が支援格差を生んでいる。この構造を何とかしたかったのです。
小児科医が作る意味#
「それは行政の仕事では?」と思う方もいるかもしれません。確かに、行政のサイトには情報が掲載されています。でも行政のサイトは「制度の説明」を目的としていて、「保護者の不安に寄り添う」ことは目的に含まれていません。
一方、民間の育児情報サイトは「読みやすさ」を重視しますが、医学的な正確性が保証されていないことがあります。
僕が作りたかったのは、その両方を兼ね備えたサイトでした。医学的に正確で、行政の制度情報も網羅していて、なおかつ保護者の不安に寄り添うトーンで書かれたサイト。小児科医が書いているからこそ、医学情報には参考文献がつく。臨床の現場を知っているからこそ、保護者が本当に知りたいことがわかる [4]。
「みなとん」という名前は、港区の「みなと」からとっています。港区で子育てをしている保護者が、必要な情報に迷わずたどり着けるように。そういう願いを込めました。
498本の記事の先に見えてきたもの#
メルマガを498本書いてきて、いくつか見えてきたものがあります。
まず、保護者が求めているのは「網羅的な医学情報」ではなく、「今の自分に必要な情報」です。だから「みなとん」では、お子さんの年齢や症状に応じて、必要な記事が表示されるようにしています。
次に、情報は「届ける仕組み」がないと届かない。どんなに良い記事を書いても、検索に引っかからなければ、必要な人には読まれません。だからSEOやサイト設計にも力を入れています。
そして、情報発信は一方通行ではうまくいかない。保護者からの質問やフィードバックが、次の記事の題材になり、サイトの改善につながる。この循環が回り始めたとき、「みなとん」は僕のサイトではなく、利用者と一緒に育てるサイトになっていきました。
これからのこと#
「みなとん」はまだ完成していません。
給付金シミュレーター、受診判断トリアージ、予防接種スケジューラー。作りたい機能はたくさんあります。でも一番大切なのは、信頼できる情報を積み重ねていくことです。
小児科医として外来で患者さんを診ること。その延長線上で、外来に来られない人にも情報を届けること。この二つを続けていくことが、僕にできることだと思っています。
このサイトを読んでくださっている皆さん、ありがとうございます。「みなとん」は皆さんの声で育っています。これからもよろしくお願いします。
今号のまとめ#
- 外来の「伝えきれない」が出発点。一度書けば何千人にも届く
- 港区の充実した制度が知られていない。情報格差が支援格差を生んでいた
- 医学的な正確性と、保護者への寄り添いの両立。それが小児科医が作る意味
- 498本の記事と保護者のフィードバックで、サイトは育っている
- 聴診器もキーボードも、目の前の人を助けるための道具