夜中に突然「ウッ……」という声で目が覚める。お子さんが吐いてしまった、。保護者にとって最も慌てる瞬間の一つです。「水分をあげたほうがいい?」「吐き気止めは?」「病院に行くべき?」次々に疑問が浮かびます。
今回は、感染性胃腸炎(いわゆる「おなかの風邪」)のホームケアについて、エビデンスに基づいた正しい対処法をお伝えします。
感染性胃腸炎って何ですか? ノロウイルスとは違うんですか?#
よく「おなかの風邪」って言われますが、正確には何なんでしょう?
感染性胃腸炎とは、ウイルスや細菌が胃腸に感染して、嘔吐・下痢・腹痛などを引き起こす病気の総称です [1]
主な原因ウイルス:
| ウイルス | 特徴 | 流行時期 |
|---|---|---|
| ノロウイルス | 嘔吐が激しい。感染力が非常に強い | 冬(11〜3月) |
| ロタウイルス | 白っぽい水様便。乳幼児に多い | 冬〜春 |
| アデノウイルス | 下痢が主体。熱が出ることも | 通年 |
| エンテロウイルス | 夏に多い。手足口病の原因にも | 夏 |
ノロウイルスは感染性胃腸炎の代表的な原因の一つです。ノロウイルスについてはVol.006とVol.007で詳しく解説しましたが、今回はノロウイルスに限らず、すべての感染性胃腸炎に共通するホームケアの方法をお伝えします
ポイント
- 感染性胃腸炎はウイルス・細菌による胃腸感染の総称 [1]
- ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルスなどが代表的
- ホームケアの基本は原因にかかわらずほぼ同じ
吐いた後、いつから水分をあげていいですか?#
さっき子どもが吐きました。すぐに水分をあげたほうがいいですか?
お気持ちはよくわかりますが、吐いた直後は何も与えないでください。 これが最も大切です [2]
吐いた直後の対応(時系列):
Step 1: 吐いた直後〜30分#
- 何も与えない(水も飲ませない)
- 胃を完全に休ませる時間
吐いた直後の胃は非常に敏感な状態です。ここで水を飲ませると、また吐いてしまい、かえって脱水を悪化させます [3]。「何も与えない勇気」が大切なのです
Step 2: 30分〜1時間経過後#
- ごく少量の水分から再開
- 最初はスプーン1杯(5mL)から
- 5〜10分おきに、少しずつ増やす
推奨される飲み物(優先順):
- 経口補水液(OS-1など) [4]
- 脱水の予防・治療に最適
- 糖分と電解質のバランスが理想的
- 母乳・ミルク(乳児の場合)
- 無理に経口補水液に変える必要はない
- 麦茶・白湯
- 経口補水液がない場合
- りんごジュース(薄めたもの)
- 米国小児科学会も推奨 [5]
避けるべき飲み物:
- スポーツドリンク: 糖分が多すぎて逆効果
- 炭酸飲料: 胃を刺激して嘔吐を誘発
- オレンジジュースなど酸味の強いもの: 胃への刺激が強い
Step 3: 吐かなければ徐々に増量#
| 時間 | 量の目安 |
|---|---|
| 開始時 | スプーン1杯(5mL) |
| 10分後 | スプーン2杯(10mL) |
| 20分後 | 大さじ1杯(15mL) |
| 30分後 | 30mL |
| 1時間後 | 50mL |
ポイントは「少量頻回」です。一度に多く飲ませると吐いてしまいます。焦らず、少しずつが鉄則です [2]
吐き気止めや下痢止めは使っていいですか?#
子どもが何度も吐いて辛そうです。吐き気止めは使えませんか?
お子さんが辛そうだと、お薬を使いたくなるお気持ちはよくわかります。しかし、感染性胃腸炎に対して、吐き気止めや下痢止めは原則使いません [6]
1. 吐き気止め(制吐薬)#
- 小児への使用はガイドライン上推奨されていない [6]
- 一部の吐き気止め(プリンペラン、ナウゼリンなど)は副作用のリスク(錐体外路症状など)がある
- 例外: ナウゼリン坐薬は、医師の判断で使われることがある
2. 下痢止め(止痢薬)#
- 感染性胃腸炎の下痢は、ウイルス・細菌を体外に排出するための防御反応 [7]
- 下痢を無理に止めると、ウイルスや細菌が腸内に留まり、かえって症状が長引く
- 細菌性胃腸炎(サルモネラ、カンピロバクターなど)では合併症のリスクが上がる可能性
つまり、嘔吐も下痢も、体が悪いものを出そうとしている反応なのです。それを無理に止めるのは、医学的に正しくありません [7]。辛いのは事実ですが、自然に治まるのを待つのが最善です
使えるお薬:
- 整腸剤(ビオフェルミンなど): 腸内環境を整える。使用OK
- 解熱剤(アセトアミノフェン): 高熱で辛い場合のみ
- 亜鉛製剤: 下痢の期間を短縮する可能性(WHOも推奨) [8]
食事はどうすればいいですか?#
食事再開のタイミングと内容も大事なポイントです
食事再開のタイミング:
- 吐かずに水分が摂れるようになったら食事を再開してOK [9]
- 「丸1日絶食」は不要。早期の食事再開が推奨されている
推奨される食事(段階的に):
Phase 1: 吐き止まり後すぐ(軽食)#
| おすすめ | 理由 |
|---|---|
| おかゆ・うどん | 消化が良い |
| バナナ | カリウム補給、消化が良い |
| 食パン(トーストしたもの) | 脂質が少ない |
| すりおろしりんご | 食物繊維とペクチンが腸に優しい |
Phase 2: 症状が落ち着いてきたら#
- 鶏ささみ・白身魚
- 卵(ゆで卵、卵とじ)
- じゃがいも・かぼちゃ
Phase 3: 完全に治ったら#
- 通常の食事に戻す
避けるべき食事(回復期):
- 脂っこいもの(揚げ物、ラーメン、カレーなど)
- 乳製品(牛乳、ヨーグルト、アイスクリーム)
- 一時的な乳糖不耐症が起こりやすい [10]
- 甘いもの(ケーキ、チョコレートなど)
- 柑橘類(みかん、オレンジ)
BRAT dietという言葉を聞いたことがあるかもしれません。Banana(バナナ)、Rice(おかゆ)、Applesauce(りんごのすりおろし)、Toast(トースト)の頭文字です。以前は推奨されていましたが、現在は早期に通常食に戻すほうが回復が早いというエビデンスがあります [9]。無理に制限しすぎず、お子さんが食べられるものを食べさせて大丈夫です
脱水のサインを教えてください。どうなったら病院に行くべきですか?#
脱水が心配です。どうなったら病院に行くべきですか?
脱水のサインを知っておくことは非常に大切です [11]
脱水のサイン(すぐ受診):
| サイン | 説明 |
|---|---|
| おしっこが6時間以上出ない | 最も重要なサイン [11] |
| 口の中が乾いている | 唾液が少ない、唇がカサカサ |
| 泣いても涙が出ない | 体液が不足している証拠 |
| 目がくぼんでいる | 中等度以上の脱水 |
| 皮膚をつまんでも戻りにくい | 皮膚のハリがない |
| ぐったりしている | 活気がない、反応が鈍い |
| 意識がおかしい | 呼びかけに反応しない |
すぐに救急受診が必要なサイン:
- 意識がおかしい(呼びかけに反応しない、目線が合わない)
- けいれん
- 呼吸が苦しそう
- 血便(赤い便、黒いタール便)
- 激しい腹痛(お腹を抱えて泣き叫ぶ)
- 吐血(コーヒーのような茶色い嘔吐物)
翌朝受診でOKのケース:
- 嘔吐・下痢はあるが、水分が少しずつ摂れている
- おしっこが出ている
- 機嫌が悪くない、時々笑顔が見られる
判断に迷ったら、小児救急電話相談(#8000)に電話してください [12]。看護師や小児科医が対応してくれます。詳しくはVol.023 夜間受診の判断も参照してください
まとめ#
- 吐いた直後は30分〜1時間何も与えない。胃を休めることが最優先
- 水分再開はスプーン1杯から少量頻回。経口補水液が最適
- 吐き気止め・下痢止めは原則使わない。体の防御反応を妨げる
- 食事は水分が摂れたら早期に再開。おかゆ・うどん・バナナから
- 脱水のサイン(おしっこ6時間出ない、涙が出ない)を見逃さない
- 迷ったら#8000に相談