愛育病院 小児科おかもん だより Vol.7
「吐いたあと、どう消毒すればいいの?」、ノロウイルスの消毒と二次感染予防
今号のポイント
- 2ノロウイルスにはアルコール消毒が効きにくい。次亜塩素酸ナトリウム(家庭用塩素系漂白剤の主成分)または加熱処理が有効です
- 4嘔吐物の処理は使い捨て手袋・マスクを着用し、0.1%次亜塩素酸ナトリウムで広めに消毒。家族への二次感染を防ぐカギは「手洗い」です
- 6症状が治まった後も2週間以上ウイルスが排出されるため、手洗い・衛生管理の継続が大切です
こんにちは、愛育病院小児科のおかもん先生です。
冬になると保育園や幼稚園で流行するノロウイルス胃腸炎。「子どもが夜中に突然吐いて、家族全員にうつってしまった……」というお話を外来でもよく伺います。ノロウイルスは感染力が非常に強く、わずか10〜100個のウイルス粒子で感染が成立するとされています [1]。しかも、一般的なアルコール消毒が効きにくいという厄介な特徴があります。
今回は、嘔吐物の正しい処理方法、家庭での消毒のコツ、そして二次感染を防ぐためのポイントをお伝えします。
Q1.「アルコール消毒で手を拭けば大丈夫ですよね? なぜ効かないんですか?」
お父さん「保育園でノロウイルスが流行しています。家にあるアルコールジェルでこまめに消毒しているのですが、それで大丈夫でしょうか?」
残念ながら、アルコール消毒はノロにはあまり効きません。ウイルスの構造の問題です
お父さん「えっ、そうなんですか? インフルエンザにはアルコールが効くと聞いたのに……」
いい質問です。インフルやコロナはエンベロープ(脂質の膜)をまとっていて、アルコールはその膜を壊して失活させます。ところがノロウイルスはノンエンベロープウイルスで、壊すべき膜がそもそもありません [2][3]
お父さん「では、何を使えばいいんですか?」
ノロウイルスに有効な消毒方法は大きく2つあります。ひとつは次亜塩素酸ナトリウム(塩素系漂白剤)、もうひとつは加熱処理です [4][5]。次亜塩素酸ナトリウムは市販の家庭用塩素系漂白剤(ハイターやブリーチなど)に含まれている成分で、適切な濃度に薄めて使います。CDCも環境表面の消毒には塩素系漂白剤を推奨しています [1]。厚生労働省のノロウイルスに関するQ&Aでは、嘔吐物で汚染された場所の消毒には0.1%(1,000ppm)、日常的な環境消毒には0.02%(200ppm)の次亜塩素酸ナトリウム溶液が推奨されています [4]
お父さん「作り方を教えてもらえますか?」
市販の塩素系漂白剤(原液濃度約5〜6%)を基準にご説明しますね
- 0.1%(1,000ppm):水500mLに対してペットボトルのキャップ約2杯(約10mL)
- 0.02%(200ppm):水2.5Lに対してペットボトルのキャップ約2杯(約10mL)
「ただし、塩素系漂白剤は金属を腐食したり、色柄物を脱色したりしますので注意が必要です。また、酸性の洗剤と絶対に混ぜないでください。有毒な塩素ガスが発生します [4]。なお、手指には刺激が強いため使えません。手指の消毒はあくまで石けんと流水による手洗いが基本です [1][4]」
ポイント
- ノロウイルスはノンエンベロープウイルスのため、アルコール消毒が効きにくい [2][3]
- 有効な消毒法は次亜塩素酸ナトリウム(塩素系漂白剤)と加熱処理 [4][5]
- 嘔吐物の処理には0.1%(1,000ppm)、日常消毒には0.02%(200ppm)[4]
- 手指は石けんと流水で丁寧に洗う [1][4]
Q2.「子どもが夜中に吐きました。嘔吐物はどう処理すればいいですか?」
お父さん「昨夜、子どもが突然布団の上に吐いてしまって、慌ててタオルで拭いたんですが……正しい処理方法を教えてください」
嘔吐物の処理は二次感染を防ぐ一番の要です。嘔吐物1gに100万〜10億個のウイルス粒子が含まれることがあり、吐くときに飛沫やエアロゾル(空気中に漂う細かい粒子)が周囲に飛び散ります [6][7]。ホテルのレストランで一人の嘔吐から周囲の客に集団感染が広がった事例もあります [6]。次の手順で慎重に
お父さん「具体的な手順を教えてもらえますか?」
厚生労働省のノロウイルスに関するQ&Aの内容をもとに、ご家庭向けの手順をまとめますね [4]
【準備するもの】
- 使い捨て手袋(2枚重ね推奨)
- 使い捨てマスク
- 使い捨てエプロン(なければゴミ袋に穴を開けて代用)
- ペーパータオルまたは新聞紙
- ビニール袋(2枚)
- 0.1%(1,000ppm)次亜塩素酸ナトリウム溶液
【手順】
- 2窓を開けて換気する 、 嘔吐時に発生するエアロゾルを吸い込まないようにします [6][7]
- 4使い捨て手袋・マスク・エプロンを着用する
- 6嘔吐物をペーパータオルで外側から内側に向かって静かに拭き取る 、 こすったり、広げたりしないでください
- 8拭き取ったペーパータオルをビニール袋に入れる
- 10嘔吐物があった場所に0.1%次亜塩素酸ナトリウム溶液をかけ、ペーパータオルで覆って10分間置く [4][5]
- 1210分後にペーパータオルで拭き取り、ビニール袋に入れる
- 14ビニール袋の中にも次亜塩素酸ナトリウム溶液を少量入れて、口をしっかり縛る
- 16手袋・エプロンもビニール袋に入れて廃棄する
- 18最後に石けんと流水で丁寧に手を洗う(2回洗いが推奨)[4]
お父さん「嘔吐物の周りだけ拭けばいいですか?」
いいえ、嘔吐物があった場所から半径2メートル程度は汚染されている可能性があります [4]。飛沫は目に見えない範囲まで広がりますので、広めに消毒してください。また、処理中はお子さんを別の部屋に移動させて、処理する人以外は近づかないようにしましょう
ポイント
- 嘔吐物には大量のウイルスが含まれ、飛沫・エアロゾルとして飛散する [6][7]
- 使い捨て手袋・マスク・エプロンを必ず着用して処理する [4]
- 0.1%次亜塩素酸ナトリウムで消毒し、10分間浸す [4][5]
- 嘔吐物の周囲2メートルまで広めに消毒する [4]
Q3.「汚れた服や布団、カーペットはどうやって消毒すればいいですか?」
お父さん「嘔吐物がついた子どものパジャマや布団のシーツ、そしてカーペットにも染みてしまいました。洗濯機で普通に洗えばいいですか?」
嘔吐物や下痢便で汚れた衣類やリネン類は、そのまま洗濯機に入れてはいけません。洗濯槽を介して他の衣類にウイルスが広がる可能性があります [4]。まずは正しい前処理が必要です
お父さん「どうすればいいですか?」
2つの方法があります。まずは熱処理、そして次亜塩素酸ナトリウムによる消毒です
【方法1:熱処理】
- 汚れをあらかた取り除いたあと、85℃以上のお湯に1分以上浸すことでノロウイルスは失活します [4][5]
- 大きな鍋やバケツに熱湯を用意し、衣類を浸してください
- 浸したあとは通常通り洗濯できます
【方法2:次亜塩素酸ナトリウム浸漬】
- 0.02%(200ppm)の次亜塩素酸ナトリウム溶液に30分以上浸漬します [4]
- ただし、この方法は色落ちや素材の劣化が起こるため、白い衣類やタオルに向いています
お父さん「乾燥機を使うのはどうですか?」
よい着眼点ですね。ノロウイルスは熱に弱いため、家庭用衣類乾燥機の高温設定で30分以上乾燥させることも有効です。衣類乾燥機の高温モードは通常60〜80℃程度ですが、長時間かけることで十分な効果が期待できます。WHOの環境消毒ガイドラインでも、洗濯後の高温乾燥が推奨されています [5]。熱水洗濯(60℃以上)と高温乾燥を組み合わせるとより確実です [5][8]
お父さん「布団やカーペットなど、洗濯機に入らないものはどうすればいいですか?」
布団については、嘔吐物をまず先ほどの手順で丁寧に取り除いてから、以下の方法で対応してください
- スチームアイロン(100℃の蒸気)を汚染部分に当てる 、 表面温度85℃以上を1分以上維持 [4]
- 布団乾燥機を高温設定で使用する
- 可能であればクリーニング業者に「ノロウイルス汚染」であることを伝えて依頼する
「カーペットの場合は、嘔吐物を除去したあと0.02%次亜塩素酸ナトリウム溶液を染み込ませたペーパータオルで覆い、10分以上置いてから拭き取ります。ただし色落ちする可能性があるため、目立たない場所で試してから使用してください [4]」
ポイント
- 汚れた衣類はそのまま洗濯機に入れない。前処理が必要 [4]
- 85℃以上のお湯に1分以上浸すか、次亜塩素酸ナトリウムに30分浸漬 [4][5]
- 乾燥機の高温モードで30分以上の乾燥も有効 [5][8]
- 布団はスチームアイロンや布団乾燥機で熱処理 [4]
Q4.「家族にうつさないために、どんなことに気をつければいいですか?」
お父さん「上の子がノロウイルスと診断されました。下の赤ちゃんやママにうつさないか心配です。家庭内で気をつけることを教えてください」
ノロウイルスは家庭内での二次感染率が非常に高く、一緒に暮らす家族の約30%が感染するという報告もあります [9]。感染経路は主に、嘔吐物や便に触れた手からの接触感染、汚染された食品を介した経口感染、そして嘔吐時の飛沫やエアロゾルによる飛沫・空気感染です [1][6]。以下のポイントを押さえてください
【手洗いの徹底】
「最も大切なのは石けんと流水による手洗いです。石けん自体にノロウイルスを殺す力はありませんが、手の脂肪や汚れとともにウイルスを物理的に洗い流す効果があります [4]。指の間・爪の先・手首まで、少なくとも20秒以上かけて洗ってください。CDCも手洗いをノロウイルス予防の最も基本的な対策としています [1]」
お父さん「手洗いのタイミングはいつですか?」
以下のタイミングで必ず洗ってください
- トイレのあと
- おむつ交換のあと
- 嘔吐物・下痢便の処理のあと
- 食事の準備の前
- 食事の前
【トイレの使い方】
「ノロウイルスは便中に大量に排出されます。トイレを流すときに、蓋を開けたまま流すと、便器内の水しぶきとともにウイルスを含む飛沫が空気中に舞い上がることが研究で示されています [10]。これを「トイレ・プルーム(toilet plume)」と呼びます。必ずトイレの蓋を閉めてから流す習慣をつけてください [10]」
【タオル・食器の分離】
「感染しているお子さんのタオルは別にしてください。できれば使い捨てのペーパータオルを使うのが理想です。食器も別に洗い、洗ったあとに85℃以上のお湯をかけるか、次亜塩素酸ナトリウムで消毒すると安心です [4]」
お父さん「症状がおさまったら、もう感染力はないんですか?」
ここがとても重要なポイントです。ノロウイルスは症状が消失した後も、便中にウイルスが排出され続けます。研究によると、症状が消えたあとも2週間以上、場合によっては4週間以上にわたってウイルスが便から検出されることが示されています [11][12]。特に小児や高齢者では排出期間が長い傾向があります [12]。ですから、症状がおさまった後も手洗いの徹底とトイレ後の衛生管理を続けることが大切です
お父さん「そんなに長く! 知りませんでした」
はい。また、ノロウイルスは環境中でも長期間生存できます。乾燥した表面でも数日から数週間にわたって感染力を維持するという報告があります [13]。ドアノブ、手すり、リモコン、スマートフォンなど、よく触れる場所は0.02%次亜塩素酸ナトリウムで定期的に拭き取り消毒をしてください [4][5]
ポイント
- 家庭内の二次感染率は約30%と高い [9]
- 石けんと流水の手洗い(20秒以上)が最も基本的な予防策 [1][4]
- トイレは蓋を閉めてから流す(トイレ・プルーム対策)[10]
- 症状消失後も2〜4週間以上ウイルスが便中に排出される [11][12]
- 環境中で数日〜数週間生存するため、よく触れる場所の消毒を続ける [13]
Q5.「保育園にはいつから行けますか? 登園の基準を教えてください」
お父さん「症状はだいぶ良くなったのですが、保育園はいつから登園してよいのでしょうか? お休みの目安がわかりません」
ノロウイルス胃腸炎(感染性胃腸炎)は、学校保健安全法施行規則の中で『その他の感染症(第三種の感染症)』に分類されています [14]。インフルエンザ(第二種)のように法律で明確な出席停止期間が決まっているわけではなく、『病状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで』とされています [14]
お父さん「ということは、はっきりした日数の基準はないのですか?」
法的に一律の日数規定はありません。しかし、実際には多くの保育園・幼稚園が独自の基準を設けています。一般的な目安としては、嘔吐・下痢の症状が消失し、普通の食事が摂れるようになってから登園を検討してよいとされています。厚生労働省の『保育所における感染症対策ガイドライン(2018年改訂版)』では、登園の目安として『嘔吐・下痢等の症状が治まり、普段の食事がとれること』を挙げています [15]
お父さん「でも先ほど、症状がおさまっても2週間以上ウイルスが出ていると聞きましたよね。それだと2週間以上休まないといけないのでは……」
そのご心配はもっともです。Q4でお話ししたように、症状消失後も長期間ウイルスが排出されるのは事実です [11][12]。しかし、ウイルス排出がゼロになるまで出席停止にすることは現実的ではありません。社会全体としての対応は、症状消失後の手洗い・衛生管理の徹底で二次感染リスクを下げるという方針が取られています [1][4]。大切なのは以下の点です
- 2嘔吐・下痢が完全に止まっていること
- 4食欲が回復し、普段の食事が摂れること
- 6元気があり、通常の活動ができること
- 8保育園の規定を確認すること(園によっては医師の登園許可証が必要な場合があります)
お父さん「食事はいつ頃から普通に戻していいですか?」
嘔吐が止まったら、まず少量の水分(経口補水液やお茶)から始めて、おかゆ、うどんなど消化の良い食事に進めてください。脂っこいものや柑橘系のジュース、乳製品は胃腸に負担がかかるので、症状がしっかり落ち着いてから再開しましょう。登園後も、排便後の手洗いの徹底とおむつ交換時の衛生管理が大切ですので、保育園の先生にもお伝えください [4][15]
ポイント
- ノロウイルス胃腸炎は学校保健安全法で「その他の感染症」に分類。一律の出席停止期間はない [14]
- 登園目安:嘔吐・下痢が止まり、普段の食事が摂れること [15]
- ウイルス排出は長期間続くが、手洗い・衛生管理の徹底で対応 [1][4][11]
- 園の規定を事前に確認し、必要なら医師の登園許可証を取得する
今号のまとめ
- ノロウイルスはアルコール消毒が効きにくいノンエンベロープウイルスです。消毒には次亜塩素酸ナトリウム(塩素系漂白剤)または加熱処理を用いましょう [2][3][4]
- 嘔吐物の処理は使い捨て手袋・マスクを着用し、0.1%次亜塩素酸ナトリウムで消毒。周囲2メートルまで広めに対処してください [4][6]
- 汚れた衣類・リネンは85℃以上1分の熱処理か、次亜塩素酸ナトリウム浸漬で前処理してから洗濯を [4][5]
- 二次感染予防の基本は手洗い。トイレは蓋を閉めてから流し、タオルは個別に。症状消失後も2週間以上ウイルスが排出されることを忘れずに [1][10][11]
- 登園は嘔吐・下痢が止まり、食事が摂れるようになってから。園の規定も確認しましょう [14][15]
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