今号は少し趣向を変えて、絵本の話をさせてください。外来の待合室には絵本を置いています。体調が悪くて不安な子どもたち、待ち時間が長くてぐずる子どもたち。そんな子たちが絵本を手に取って、少しだけ表情が和らぐ瞬間があります。
僕自身、絵本が好きです。ここでは、待合室で特に手に取られることが多い絵本を10冊、年齢別にご紹介します。
0歳から1歳: 音とリズムの時期#
この時期の子どもは、物語の内容よりも音のリズムや色のコントラストに反応します [1]。
1冊目。松谷みよ子さんの「いないいないばあ」。1967年の刊行以来、日本で最も売れている絵本のひとつです。「いないいない」「ばあ」という繰り返しのリズムが、赤ちゃんの予測と喜びの回路を刺激します。待合室でも、お母さんが読み始めると泣き止む赤ちゃんを何度も見てきました。
2冊目。駒形克己さんの「ごぶごぶ ごぼごぼ」。色とりどりの丸と、意味のない音の羅列。大人が読むと「これで大丈夫?」と思うかもしれませんが、赤ちゃんはこの抽象的な音と形の組み合わせに夢中になります。
3冊目。柏原晃夫さんの「しましまぐるぐる」。高コントラストの色彩が0歳児の視覚発達に合っています。丈夫なボードブックなので、赤ちゃんがかじっても安心です。
2歳から3歳: 繰り返しと共感の時期#
この時期の子どもは「同じ本を何度も読んで」と言います。これは正常な発達の表れです。繰り返しによって言語パターンを内面化しているのです [2]。
4冊目。なかがわりえこさんの「ぐりとぐら」。大きなカステラを焼く場面は、何度読んでもわくわくします。「おりょうりすることと たべることが いちばんすき」という冒頭の一文は、多くの子どもにとって最初に暗唱する文章のひとつかもしれません。
5冊目。五味太郎さんの「きんぎょがにげた」。「きんぎょはどこ?」と探す遊びの要素があり、子どもが能動的に参加できる絵本です。待合室では、きょうだいで一緒に探している姿をよく見かけます。
6冊目。せなけいこさんの「ねないこだれだ」。おばけが怖いのに何度も読みたがる。怖さを安全な距離で体験することは、子どもの情緒発達にとって意味があります。
4歳から6歳: 物語を理解する時期#
この時期になると、起承転結のある物語を楽しめるようになります。登場人物の気持ちを想像したり、「次はどうなるの?」と展開を予測したりする力が育っています [3]。
7冊目。かこさとしさんの「からすのパンやさん」。いろんな形のパンが見開きいっぱいに描かれたページは、何歳になっても楽しいです。「どのパンが食べたい?」という会話が自然に生まれます。
8冊目。中川李枝子さんの「そらいろのたね」。きつねと男の子のやりとりから、欲張りすぎると失うものがあることを自然に学べます。
9冊目。レオ・レオニの「スイミー」。小さな魚たちが力を合わせて大きな魚を追い払う物語。「自分は小さくても何かできる」というメッセージは、入園や入学を控えた子どもの心に響きます。
10冊目。佐野洋子さんの「100万回生きたねこ」。大人が読んでも泣ける一冊です。子どもは表面的な物語を楽しみ、大人は深い意味を読み取る。そういう絵本が名作だと僕は思います。
待合室の絵本には意味がある#
小児科の待合室に絵本を置く理由は、暇つぶしだけではありません。
病院は子どもにとって不安な場所です。知らない大人がいて、痛いことをされるかもしれない。そんな場所で、お母さんやお父さんの膝の上に座って絵本を読んでもらう時間は、子どもに安心感を与えます [4]。
米国小児科学会は「Reach Out and Read」というプログラムを推進しています。小児科の健診時に保護者に絵本を手渡し、読み聞かせの大切さを伝えるプログラムです。参加した家庭では、子どもの語彙力と読書への関心が有意に向上したという報告があります [4]。
僕の外来でも、待合室で親子が絵本を読んでいる姿を見ると、少し嬉しくなります。スマホの画面ではなく、絵本を介して親子が同じものを見ている。そこには「一緒にいる」という体験があります。
今号のまとめ#
- 絵本は年齢に合ったものを選ぶと子どもの反応が変わる
- 0歳はリズムと色、2歳は繰り返し、4歳は物語
- 上手に読む必要はない。一緒に同じものを見る時間が大切
- 待合室の絵本は、不安な場所を安心の場所に変える役割がある
- 絵本の記憶は「誰と読んだか」とセットで残る