今回のテーマはアトピー性皮膚炎の最新治療です。
Vol.13では「ステロイド外用薬は正しく使えば安全」、Vol.17では「乳児湿疹とアトピーの見分け方」をお伝えしました。今号はその先、ステロイド以外にどんな治療があるのか、そして「治す」ための戦略としてのプロアクティブ療法について、最新の知見をお届けします。
「ステロイドだけでは限界を感じている」「新しい薬が気になる」というご家庭にとって、治療の見通しが明るくなるお話です。
プロアクティブ療法って何ですか? 今までの治療と何が違うんですか?#
湿疹が出たらステロイドを塗って、治ったらやめて、また出たら塗って……の繰り返しです。これでいいんでしょうか?
その方法はリアクティブ療法(症状が出てから対処する方法)と呼ばれます。悪くはないのですが、アトピー性皮膚炎の場合、見た目がきれいになっても皮膚の奥にはまだ炎症がくすぶっていることが多いんです [1]。だから、やめるとまた悪化する。この繰り返しを断ち切るのがプロアクティブ療法です
具体的にはどうするんですか?
まず、ステロイド外用薬でしっかり炎症を消す(寛解導入)。見た目がきれいになった後も、週に2〜3回、以前湿疹があった部位にステロイドやタクロリムス軟膏を予防的に塗り続ける。これがプロアクティブ療法です [1][2]
| 治療法 | 考え方 | 塗るタイミング | 再燃リスク |
|---|---|---|---|
| リアクティブ療法 | 症状が出てから対処 | 湿疹が出たら塗る | 高い(繰り返しやすい) |
| プロアクティブ療法 | 再燃を予防する | 見た目がきれいでも週2〜3回塗り続ける | 大幅に低下 [1][2] |
Wollenbergらのメタアナリシスでは、プロアクティブ療法により再燃までの期間が有意に延長し、再燃率が大幅に低下することが示されています [2]。Vol.13で『消火器の発想で初期消火』とお伝えしましたが、プロアクティブ療法は消火後の"見回り"に当たります。くすぶりを見逃さないことが大切なんです
ステロイド外用薬のランクはどう使い分けるんですか?#
Vol.13で5段階のランクがあると教えてもらいましたが、うちの子にはどのランクが合っているんでしょうか?
部位と重症度で使い分けるのが原則です [3]。お子さんの場合、特に注意すべきは部位による皮膚の薄さの違いです。同じランクのステロイドでも、薬の吸収率は部位によって大きく異なります [3]
| 部位 | 吸収率(前腕を1とした比率) | 推奨ランク |
|---|---|---|
| まぶた | 約42倍 | ウィーク〜マイルド |
| 頬・額 | 約6〜13倍 | マイルド |
| 首 | 約6倍 | マイルド |
| 腋窩・陰部 | 約3.6倍 | マイルド〜ストロング(短期間) |
| 体幹 | 約1〜2倍 | ストロング |
| 手足 | 約0.8〜1倍 | ストロング〜ベリーストロング |
| 手のひら・足の裏 | 約0.14〜0.83倍 | ベリーストロング |
まぶたは前腕の42倍も吸収するんですか!
はい。ですから顔、特に目の周りにはマイルドクラス以下を使うのが原則です [3]。逆に、手のひらや足の裏は吸収が悪いので、やや強めのランクが必要になることがあります。重症度別の目安もお伝えしますね [3][4]
| 重症度 | 症状の目安 | 治療の基本 |
|---|---|---|
| 軽症 | 乾燥・軽い赤み | 保湿 + マイルドクラス |
| 中等症 | 赤み・少しジュクジュク | ストロングクラス + 保湿 |
| 重症 | 広範囲の赤み・浸出液・苔癬化 | ベリーストロング + 専門医へ |
| 最重症 | 全身の強い炎症 | 専門医による集中治療(入院含む) |
大切なのは、最初に十分な強さのステロイドでしっかり消すこと。弱いランクで不十分な治療を続けるほうが、結果的にステロイドの総使用量が増えてしまいます [4]
ステロイド以外の塗り薬にはどんなものがありますか?#
ステロイドをなるべく減らしたいのですが、他に選択肢はあるんですか?
はい、現在はステロイド以外の外用薬が複数あります。ステロイドを減らす"出口戦略"としても重要な薬です [4][5][6]
| 薬剤名 | 一般名 | 対象年齢 | 特徴 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| プロトピック軟膏 | タクロリムス | 2歳以上(0.03%製剤) | ステロイドと異なる作用機序。皮膚萎縮なし [5] | 塗り始めにヒリヒリ感。顔・首に特に有用 |
| コレクチム軟膏 | デルゴシチニブ(JAK阻害薬) | 生後6ヶ月以上 | 新しいタイプの抗炎症薬。ヒリヒリ感が少ない [6] | 2020年発売。長期安全性データ蓄積中 |
| モイゼルト軟膏 | ジファミラスト(PDE4阻害薬) | 2歳以上 | ステロイド・タクロリムスと異なる作用。刺激感が少ない [7] | 2022年発売。比較的新しい薬 |
プロトピック軟膏はヒリヒリするって聞いたのですが……
はい、塗り始めの数日間はヒリヒリ・ほてり感を感じることがあります。ただし、これは炎症が強い部位に塗った場合に起きやすく、炎症をステロイドで十分に抑えた後に切り替えると軽減されます [5]。タクロリムスはカルシニューリン阻害薬に分類され、ステロイドのような皮膚萎縮(皮膚が薄くなる)の副作用がないため、長期使用が必要な顔や首の維持療法(プロアクティブ療法)に特に適しています [5]
JAK阻害薬のコレクチム軟膏は赤ちゃんにも使えるんですか?
はい。コレクチム軟膏(デルゴシチニブ)は生後6ヶ月から使用可能です [6]。JAK(ヤヌスキナーゼ)というかゆみや炎症のシグナルを伝える酵素を阻害する薬で、ステロイドともタクロリムスとも異なる新しい作用機序です。ヒリヒリ感が少ないのが特徴で、タクロリムスの刺激が気になるお子さんにも使いやすいです [6]
注射の治療(生物学的製剤)は子どもにも使えるんですか?#
テレビで"注射で治すアトピー治療"を見ました。子どもにも使えるんですか?
それはデュピルマブ(商品名: デュピクセント)のことですね。2018年に成人のアトピー性皮膚炎に対して承認されて以来、適応が広がっており、現在は生後6ヶ月以上のお子さんにも使えるようになっています [8][9]
赤ちゃんにも使えるんですか! どんな薬なんですか?
デュピルマブは生物学的製剤と呼ばれるタイプの注射薬です。アトピー性皮膚炎の炎症に関わるIL-4(インターロイキン4)とIL-13という物質のはたらきをピンポイントでブロックします [8]。従来の治療で十分にコントロールできない中等症〜重症のアトピー性皮膚炎が対象です
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 薬剤名 | デュピクセント(デュピルマブ)[8] |
| 投与方法 | 皮下注射(2〜4週間ごと)[8] |
| 対象年齢 | 生後6ヶ月以上(既存治療で効果不十分な中等症〜重症)[9] |
| 効果 | 16週時点でEASI-75(症状75%改善)達成率: 約40〜60% [8][10] |
| 主な副作用 | 注射部位反応、結膜炎 [8] |
| 費用 | 高額だが高額療養費制度・小児医療費助成の対象 |
小児を対象とした臨床試験(LIBERTY AD PEDS試験)では、6歳以上の中等症〜重症アトピー性皮膚炎のお子さんに対して、デュピルマブ投与群は16週時点でEASI-75達成率が約40%(プラセボ群約10%)と有意に改善しました [10]。その後の拡大試験で生後6ヶ月〜5歳にも適応が広がっています [9]
うちの子にも使えますか?
デュピルマブはステロイド外用薬やタクロリムス軟膏など既存の治療で十分にコントロールできない場合に検討する治療です [8]。いきなり使うものではなく、外用治療をきちんと行った上で、それでも難しい場合に専門医が判断します。まずは今の治療をしっかり続けることが大前提です
いろいろな薬があるのはわかりましたが、スキンケアはどのくらい大切ですか?#
新しい薬ができても、やっぱり保湿は続けなきゃダメですか?
保湿はすべての治療の土台です。どんなに優れた薬を使っても、保湿を怠ると効果は半減します [4][11]
どのくらいの量を、どのくらいの頻度で塗ればいいんですか?
| 項目 | 推奨 |
|---|---|
| 頻度 | 1日2回以上(朝と入浴後が基本)[11] |
| 量 | ティッシュが肌にくっつくくらい(FTUを目安に)[4] |
| タイミング | 入浴後5分以内が最も効果的 [11] |
| 入浴のコツ | ぬるめのお湯(38〜40℃)、石鹸は泡立てて優しく、ゴシゴシ洗わない [11] |
| 保湿剤の種類 | ヘパリン類似物質(ヒルドイド)、白色ワセリン、セラミド配合クリームなど [4] |
保湿がなぜ大切かというと、アトピー性皮膚炎のお子さんの肌はバリア機能(セラミドや天然保湿因子)が生まれつき弱い傾向があります [11][12]。このバリアの"穴"を保湿剤で埋めることで、外からの刺激やアレルゲンの侵入を防ぎます。Vol.17でお話しした経皮感作(荒れた肌から食物アレルゲンが侵入してアレルギー体質になる現象)の予防にもつながります
日本の研究(Horimukai et al., 2014)では、アトピーのリスクが高い新生児に生まれてすぐから毎日保湿剤を塗り続けたグループは、塗らなかったグループに比べてアトピー性皮膚炎の発症が約32%低下したと報告されています [12]
うちの子の治療、今後どう進めていけばいいですか?#
薬の選択肢が増えたのはありがたいですが、治療の全体像がイメージしにくくて……
アトピー性皮膚炎の治療はステップアップ方式です。軽症から重症に向かって、治療を段階的に強化していきます [4]
Step 1
保湿 + マイルドクラスのステロイド外用
軽症
Step 2
保湿 + ストロングクラスのステロイド外用 + プロアクティブ療法
中等症
Step 3
Step 2 + タクロリムス/JAK阻害薬外用の併用
中等症〜重症
Step 4
Step 3 + デュピルマブ(生物学的製剤)or シクロスポリン
重症〜最重症
大切なのは、Step 1をしっかりやらないまま"効かない"と判断しないことです。保湿の量が足りない、ステロイドの塗り方が不十分、プロアクティブ療法をしていない、こうした"治療の穴"を埋めるだけで大きく改善するお子さんはたくさんいます [4]
そして、もう一つ大切なことがあります。アトピー性皮膚炎は"治す"のではなく"うまく付き合う"という視点も持っていただきたい。適切なスキンケアと治療で症状をコントロールしながら、お子さんがかゆみに邪魔されず、ぐっすり眠れて、元気に遊べる生活を送れること。それが治療のゴールです [4]
ポイント
- 治療はステップアップ方式。軽症→重症に応じて段階的に強化 [4]
- まずStep 1〜2をきちんとやりきることが最優先
- 治療のゴールは「かゆみに邪魔されず、ぐっすり眠れて、元気に遊べる」こと
まとめ#
- プロアクティブ療法(寛解後も週2〜3回予防的に塗布)で再燃を大幅に減らせる [1][2]
- ステロイド外用薬は部位と重症度に応じてランクを使い分ける。顔にはマイルド、体幹にはストロング [3]
- ステロイド以外の選択肢: タクロリムス(2歳〜)、デルゴシチニブ(生後6ヶ月〜)、ジファミラスト(2歳〜) [5][6][7]
- 重症例にはデュピルマブ(生後6ヶ月〜)。既存治療で不十分な場合に専門医が判断 [8][9]
- すべての治療の土台は毎日の保湿。入浴後5分以内、1日2回以上 [4][11]
- 治療はステップアップ方式。まず基本治療をしっかりやりきることが最優先 [4]
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- Vol.013 ステロイド外用薬(ステロイドの正しい使い方の基本)
- Vol.017 乳児湿疹vsアトピー(アトピーの見分け方と早期治療の重要性)
- Vol.009 スキンケア基礎(保湿の基本)