愛育病院 小児科おかもん だより Vol.50
ARFID(回避・制限性食物摂取症)、「ただの偏食」とは違う摂食障害
今号のポイント
- 2ARFIDは「ただの偏食」ではなく、治療が必要な摂食障害
- 4体重減少・栄養不足・社会生活への支障が特徴
- 6早期発見・早期介入で予後は良好
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
「うちの子、食べられるものが3〜4種類しかなくて、給食も食べられません……」、これは単なる偏食でしょうか? 実は、ARFID(回避・制限性食物摂取症)という摂食障害の可能性があります [1]。ARFIDは、拒食症(神経性やせ症)や過食症とは異なる摂食障害であり、小児期に多く発症します [2]。
今回は、ARFIDの症状・診断・治療 についてお伝えします。
Q1.「ARFIDって、どんな病気ですか?」
——ARFIDという言葉を初めて聞きました。どんな病気なんでしょうか?
ARFIDは、Avoidant/Restrictive Food Intake Disorderの略で、日本語では回避・制限性食物摂取症といいます [1]。簡単に言うと、食べることに極端な困難があり、栄養不足や成長障害を起こす摂食障害です
ARFIDの基本情報:
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | Avoidant/Restrictive Food Intake Disorder(回避・制限性食物摂取症) [1] |
| 分類 | 摂食障害(DSM-5に2013年に追加) [1] |
| 好発年齢 | 乳幼児〜学童期(成人でも起こりうる) [3] |
| 男女比 | 男児にやや多い(男:女 = 1.5:1) [4] |
| 頻度 | 小児の約1〜5% [5] |
ARFIDは、2013年にDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)で新しく定義された摂食障害です [1]。それまでは「乳幼児期または小児期早期の摂食障害」と呼ばれていました
ARFIDと他の摂食障害の違い:
| 疾患 | 体型へのこだわり | 食べない理由 | 好発年齢 |
|---|---|---|---|
| ARFID | なし | 食感・味・見た目が嫌、食べると具合が悪くなる | 小児期 [1] |
| 神経性やせ症(拒食症) | あり(太りたくない) | 体重増加への恐怖 | 思春期以降 [6] |
| 神経性過食症(過食症) | あり | 過食→嘔吐 | 思春期以降 [6] |
つまり、ARFIDの子どもたちは、「太りたくない」とは思っていません [1]。食べたくても食べられない、または食べることに強い不安や嫌悪感がある、という状態です
ポイント
- ARFIDは 回避・制限性食物摂取症という摂食障害 [1]
- 体型へのこだわりはない(拒食症との違い) [1]
- 小児期に多く発症する [3]
- 小児の約 1〜5%に認められる [5]
Q2.「ARFIDの症状を教えてください」
——どんな症状があれば、ARFIDを疑えばいいですか?
ARFIDには、3つの主なタイプがあります [7]。お子さんによって、1つまたは複数のタイプが見られます
ARFIDの3つのタイプ:
タイプ1: 感覚回避型(Sensory-based avoidance)
特徴:
- 特定の食感・味・におい・見た目が受け入れられない [7]
- 食べられるものが極端に限られる
- 新しい食べ物を試すことを強く拒否
例:
- 「ドロドロしたものは絶対に食べられない」
- 「白いご飯しか食べない」
- 「野菜は見るだけで吐きそう」
タイプ2: 食欲低下型(Lack of interest in eating)
特徴:
- 食べることへの興味・関心がない [7]
- 空腹感を感じにくい
- 食事を忘れる、食事時間が苦痛
例:
- 「お腹が空いたという感覚がわからない」
- 「食べることより遊びたい」
- 「給食の時間が一番嫌い」
タイプ3: 恐怖回避型(Fear of aversive consequences)
特徴:
- 食べることで具合が悪くなることへの恐怖 [7]
- 過去の嘔吐・窒息・腹痛などの経験がきっかけ
- 特定の食べ物や食べる状況を避ける
例:
- 「前に吐いたから、あの食べ物は怖い」
- 「喉に詰まるかもしれないから、固形物は食べられない」
- 「給食で気持ち悪くなったから、学校では食べられない」
ARFIDの診断基準(DSM-5)[1]:
以下のすべてを満たす:
- 2
食事摂取の回避・制限があり、以下の1つ以上が当てはまる:
- 体重減少または成長不良
- 重大な栄養不足
- 経腸栄養や栄養補助食品への依存
- 社会機能への著しい障害(給食が食べられない、外食できないなど)
- 4
体型や体重への過度のこだわりはない
- 6
他の医学的疾患や精神疾患では説明できない
「偏食」との違いは、栄養不足・成長障害・社会生活への支障があるかどうかです [1]。単に好き嫌いが多いだけなら、体重も身長も標準範囲で、給食も何とか食べられます。しかし、ARFIDの子どもは、食べられるものが極端に少なく、社会生活に支障が出ます [8]
ポイント
- ARFIDには 3つのタイプがある: 感覚回避型、食欲低下型、恐怖回避型 [7]
- 体重減少、栄養不足、社会生活への支障がある [1]
- 体型へのこだわりはない(拒食症との違い) [1]
- 「偏食」との違いは 生活への支障の程度 [8]
Q3.「ARFIDの診断はどうやってするんですか?」
——うちの子がARFIDかどうか、どうやって診断するんですか?
ARFIDの診断は、問診・身体診察・検査を組み合わせて行います [9]。小児科医、精神科医、栄養士が協力して評価します
ARFIDの診断プロセス:
① 詳しい問診
聞き取る内容:
- 食事の内容(食べられるもの、食べられないもの)
- 食事量(1日の摂取カロリー)
- 食事への態度(嫌がる、拒否する、無関心)
- 過去の経験(嘔吐、窒息、腹痛など)
- 社会生活への影響(給食、外食、友人との食事)
- 発達歴、家族歴
② 身体診察と検査
身体測定:
- 体重、身長、BMI
- 成長曲線のプロット(成長障害がないか確認) [10]
血液検査:
- 栄養状態の評価: アルブミン、総蛋白、電解質、鉄、ビタミン [11]
- 貧血の有無: ヘモグロビン、フェリチン
- 甲状腺機能: TSH、FT4(体重減少の他の原因を除外)
ARFIDの診断で重要なのは、他の病気を除外することです [1]。例えば、消化器疾患(炎症性腸疾患、食物アレルギー)、甲状腺機能亢進症、自閉スペクトラム症などでも、食事摂取の困難が見られることがあります [12]
ARFIDと鑑別すべき疾患:
食べない理由
- 神経性やせ症(拒食症)
- 太りたくない
- 自閉スペクトラム症
- 感覚過敏、こだわり
- 食物アレルギー
- アレルギー反応が怖い
- 消化器疾患
- 腹痛、下痢
- 不安障害
- 食事場面での不安
鑑別ポイント
- 神経性やせ症(拒食症)
- 体型へのこだわりあり [6]
- 自閉スペクトラム症
- 他の自閉症状あり [13]
- 食物アレルギー
- IgE検査陽性
- 消化器疾患
- 器質的異常あり
- 不安障害
- 他の場面でも不安あり
特に、自閉スペクトラム症とARFIDは併存することが多いです [13]。自閉スペクトラム症の子どもの約50%に、何らかの摂食の問題があると報告されています [13]
ポイント
- 診断は 問診・身体診察・検査の組み合わせ [9]
- 成長曲線、栄養状態の評価が重要 [10][11]
- 他の病気(拒食症、自閉症、消化器疾患など)を除外する [12]
- 自閉スペクトラム症と 併存することが多い [13]
Q4.「ARFIDの治療はどうするんですか?」
——もしARFIDと診断されたら、どんな治療をするんですか?
ARFIDの治療は、多職種連携が基本です [14]。小児科医、精神科医、心理士、栄養士、作業療法士などがチームで関わります
ARFIDの治療アプローチ:
① 栄養療法
目標:
- 栄養不足を改善
- 成長を正常化
方法:
- 栄養補助食品: エンシュア、エレンタールなど [15]
- 経腸栄養: 重度の栄養不足では胃管栄養や経腸栄養を検討 [15]
- 食事指導: 管理栄養士による個別指導
② 行動療法
タイプ別のアプローチ:
感覚回避型:
- 系統的脱感作: 食べ物に徐々に慣れる [16]
- 見る → 触る → においを嗅ぐ → 舐める → 少量食べる → 増やす
- 食物連鎖法: 食べられるものから似たものへ広げる [17]
- 例: 白いご飯 → おにぎり → 具入りおにぎり → チャーハン
食欲低下型:
- 食事のルーティン化: 決まった時間・場所で食べる [18]
- 少量頻回食: 1回の量を減らし、回数を増やす
- 楽しい食事環境: ストレスを減らす
恐怖回避型:
- 認知行動療法(CBT): 恐怖を和らげる [19]
- 曝露療法: 恐れている食べ物や状況に段階的に慣れる [19]
- リラクゼーション: 不安を減らす技法
③ 家族支援
親へのサポート:
- 食事の無理強いは逆効果 [20]
- 食べられたことを褒める(褒賞強化)
- 家族全体のストレス管理
④ 環境調整
学校との連携:
- 給食への配慮(食べられるものを持参、量を減らすなど)
- クラスメートへの理解促進
- 食事場面でのプレッシャーを減らす
ARFIDの治療には時間がかかります [14]。数ヶ月〜数年かかることも珍しくありません。焦らず、小さな進歩を喜びながら、長期的に取り組むことが大切です
治療の成功のポイント:
- 2早期介入: 早く始めるほど予後が良い [21]
- 4多職種連携: チームで支える [14]
- 6家族の協力: 親の理解とサポートが不可欠 [20]
- 8個別化: 子どもに合わせたアプローチ [14]
ポイント
- 治療は 多職種連携が基本 [14]
- 栄養療法 + 行動療法 + 家族支援の組み合わせ [14]
- タイプ別にアプローチを変える [16][17][18][19]
- 早期介入が重要 [21]
Q5.「ARFIDは治りますか? 予後はどうですか?」
——ARFIDになったら、一生食べられないままなんでしょうか?
いいえ。早期に適切な治療を受ければ、多くの子どもは改善します [21]。ただし、治療には時間がかかり、長期的なサポートが必要です
ARFIDの予後:
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 改善率 | 部分入院プログラムで約60〜70%が改善(外来では報告が異なる可能性)[22] |
| 治療期間 | 数ヶ月〜数年 [14] |
| 完全寛解 | 約30〜40%が完全に食事制限がなくなる [22] |
| 部分寛解 | 約30〜40%は食事の幅が広がるが、一部制限が残る [22] |
| 難治例 | 約20〜30%は治療抵抗性 [22] |
予後を良くする要因:
- 早期発見・早期介入 [21]
- 軽症(食べられるものが比較的多い)
- 単独型(他の精神疾患の併存なし)
- 家族のサポートが良好 [20]
- 治療への動機づけが高い
予後を悪くする要因:
- 診断・治療の遅れ
- 重度の栄養不足・成長障害
- 自閉スペクトラム症などの併存 [13]
- 親子関係の問題
- 治療へのアクセスが悪い
ARFIDは、「治らない病気」ではありません [21]。ただし、放置すると、栄養不足・成長障害が悪化し、治療が難しくなります [23]。だからこそ、早期発見・早期介入が重要なのです [21]
ARFIDの長期的な影響(治療しない場合):
| 影響 | 内容 |
|---|---|
| 成長障害 | 低身長、低体重 [23] |
| 栄養不足 | 貧血、ビタミン欠乏、骨粗鬆症 [23] |
| 社会生活の制限 | 外食、修学旅行、友人との食事ができない [8] |
| 精神的問題 | 不安、抑うつ、孤立 [24] |
| 学業への影響 | 集中力低下、欠席増加 |
親へのメッセージ:
お子さんが食べないことで、保護者の方は「私の育て方が悪かったのか」と自分を責めてしまいがちです [20]。しかし、ARFIDは親の育て方のせいではありません [1]。脳の感覚処理や不安反応の違いが関係している医学的な疾患です [1]。一人で抱え込まず、専門家に相談してください
ポイント
- 適切な治療で 約60〜70%が改善 [22]
- 早期介入が予後を良くする [21]
- 放置すると 成長障害・社会生活の制限が悪化 [23]
- 親の育て方のせいではない [1]
まとめ
- ARFIDは 回避・制限性食物摂取症という摂食障害
- 体型へのこだわりはないが、食事摂取に極端な困難がある
- 体重減少、栄養不足、社会生活への支障が特徴
- 治療は 栄養療法 + 行動療法 + 家族支援の組み合わせ
- 早期発見・早期介入で約60〜70%が改善
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