愛育病院 小児科おかもん だより Vol.36
「うんちが出ない……」、子どもの便秘、正しい知識と対処法
今号のポイント
- 2小児の便秘は珍しくない。乳児期と幼児期に好発し、適切な治療で改善する
- 4便秘は「排便の回数」だけでなく、「便の硬さ」「排便時の痛み」も重要な判断基準
- 6下剤は怖くない。むしろ早期から適切に使うことで、便秘の悪循環を断ち切れる
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
「うんちが3日出ていません」「硬いうんちで出血しました」「トイレを嫌がって我慢してしまいます」。外来で本当によく聞くご相談です。
便秘は子どもにとってつらいだけでなく、放置すると悪循環に入り、慢性化することがあります [1]。逆に、正しい知識と適切な治療で、ほとんどの便秘は改善します。
今回は、知っておいてほしい子どもの便秘の基礎と対処法を整理します。
Q1.「子どもの便秘ってどのくらい多いんですか? どんな症状なら便秘ですか?」
——うちの子、3日に1回しかうんちが出ないんですが、これは便秘ですか?
よいご質問ですね。まず知っていただきたいのは、小児の便秘は決して珍しくないということです。小児科外来受診の約3〜5%が便秘に関する相談で [1]、人口ベースでは小児の約10〜15%が便秘を経験すると報告されています [2]。日本でも同様の頻度で、多くのお子さんが経験します
——3日に1回でも、本人が嫌がらずに出ていれば大丈夫なんでしょうか?
これが便秘診断の重要なポイントです。実は便秘の診断は『排便の回数』だけでは決まりません [3]。北米小児消化器肝臓栄養学会(NASPGHAN)とヨーロッパ小児消化器肝臓栄養学会(ESPGHAN)が作成した『Rome IV基準』という国際的な診断基準があります [3]
便秘(機能性便秘)の診断基準(Rome IV、4歳以上)[3]:
以下のうち2つ以上が1ヶ月以上続く場合:
- 2週に2回以下の排便
- 4トイレトレーニング後も、週1回以上の便失禁(おもらし)
- 6便を我慢する姿勢や行動がある
- 8排便時の痛みや硬い便
- 10直腸に大きな便塊(かたまり)がある
- 12トイレが詰まるほどの太い便
つまり、3日に1回でも、柔らかい便がスムーズに出ていて本人が痛がらなければ便秘ではありません。逆に、毎日出ていても、硬くて痛がったり、少量ずつしか出ていない場合は便秘の可能性があります [1][3]
——回数だけじゃないんですね。うちの子は毎日出ていますが、トイレで10分以上いきんでいて……
それは便秘のサインかもしれません。特に排便時の痛みは重要です。硬い便で肛門が切れる(裂肛)→痛くて排便を我慢する→便がさらに硬くなる→また痛い、という便秘の悪循環に陥ります [4]。この悪循環を早めに断ち切ることが大切です
ポイント
- 小児の便秘は約10〜15%が経験。小児科外来の3〜5%が便秘相談 [1][2]
- 便秘の診断は「回数」だけでなく「硬さ」「痛み」「我慢」も重要 [3]
- 排便時の痛み → 我慢 → さらに硬くなる悪循環に注意 [4]
Q2.「子どもの便秘の原因は何ですか? いつから始まることが多いですか?」
——なぜ便秘になるんでしょうか? 何か悪い病気が隠れているんじゃないかと心配です
まず安心していただきたいのは、子どもの便秘の95%以上は『機能性便秘』といって、腸の器質的な病気(ヒルシュスプルング病や腸の奇形など)がない便秘です [1]。つまり、ほとんどは腸の働きや排便習慣の問題で、治療で改善します
便秘が起こりやすい3つの時期 [1][5]:
① 離乳食の開始時(生後5〜6ヶ月頃)
- 母乳・ミルクから固形物に移行する時期
- 食物繊維や水分の摂取が不足しやすい
- 便の性状が変わる
② トイレトレーニング期(2〜4歳)
- 最も便秘が起こりやすい時期 [5]
- トイレへの恐怖、環境の変化(保育園入園など)
- 遊びに夢中で排便を我慢する
- 「いきみ方」がまだうまくできない
③ 学童期(小学校入学後)
- 学校のトイレを使いたがらない(恥ずかしい、汚い、時間がない)
- 排便を我慢する習慣がつく
——うちの子はトイレトレーニング中です。保育園に入ってから便秘になった気がします
まさに典型的なパターンです。トイレトレーニング期は便秘の最大のハイリスク期です [5]。この時期は、以下のような要因が重なります
便秘の悪循環のメカニズム [4]:
- 2トイレへの恐怖・環境の変化 → 排便を我慢
- 4便が直腸にたまる → 水分が吸収され、便がさらに硬くなる
- 6硬い便で排便時に痛い(裂肛) → ますます我慢
- 8直腸が便で伸びる → 便意を感じにくくなる(直腸の感覚低下)
- 10さらに便がたまる → 慢性便秘へ
この悪循環を断ち切るには、早期からの治療が重要です。『そのうち治るだろう』と放置すると、慢性化して治療に時間がかかります [1]
ポイント
- 子どもの便秘の95%以上は機能性便秘(器質的疾患なし)[1]
- トイレトレーニング期(2〜4歳)が最大のハイリスク期 [5]
- 痛み → 我慢 → 硬化 → 痛み の悪循環が慢性化につながる [4]
- 早期治療で悪循環を断ち切ることが重要 [1]
Q3.「家でできる便秘対策を教えてください。食事や生活習慣でできることは?」
——薬を使う前に、家でできることがあれば知りたいです
もちろんです。便秘治療の基本は生活習慣の改善です。特に食事、水分、排便習慣の3つが重要です [6]
① 食事:食物繊維と水分
食物繊維の目標摂取量 [6]:
- 年齢 + 5〜10g/日(例:3歳なら8〜13g/日)
食物繊維が豊富な食材:
- 果物: りんご、バナナ、プルーン、キウイ
- 野菜: ブロッコリー、にんじん、さつまいも
- 穀物: 玄米、全粒粉パン、オートミール
- 豆類: 納豆、枝豆、ひよこ豆
水分摂取:
- こまめに水やお茶を飲ませる(ジュースは糖分が多いので注意)
- 目安: 1日に体重×50〜100mL(例:15kgの子なら750〜1,500mL)
——プルーンがいいと聞いたことがあります。本当ですか?
はい、プルーンは食物繊維が豊富で、さらにソルビトールという天然の緩下作用(便を柔らかくする効果)のある糖が含まれています [7]。プルーンジュースやドライプルーンは、便秘の補助療法として有効です。ただし、食事だけで便秘が治るわけではないことも知っておいてください [6]
② 排便習慣の確立
トイレトレーニング中のお子さん:
- 食後20〜30分後にトイレに座らせる(胃結腸反射=食事で腸が動きやすくなるタイミングを利用)[1]
- 1日2回(朝食後と夕食後)、5〜10分座らせる
- 出なくても「座れたね」とほめる(排便への恐怖を減らす)
- 足が床につかない場合は踏み台を使う(いきみやすくなる)[8]
学童期のお子さん:
- 学校でトイレに行くことへの抵抗を減らす工夫
- 朝食をしっかり食べる時間を確保(朝の排便習慣をつける)
③ 運動
- 適度な運動は腸の動きを促進 [6]
- 特別な運動は不要。外遊び、公園で走り回る程度でOK
——食事や生活習慣を改善しても治らない場合は?
その場合は薬物療法(下剤)を併用します。『まず食事、それでダメなら薬』と段階的に考える必要はありません。すでに便秘が続いている場合は、生活習慣の改善と薬を同時にスタートするのが標準的な治療です [1][6]
ポイント
- 食物繊維: 年齢 + 5〜10g/日。果物・野菜・穀物・豆類を [6]
- 水分: こまめに。体重×50〜100mL/日が目安
- 食後20〜30分後にトイレに座る習慣づけ(1日2回、5〜10分)[1]
- 食事だけで治らない場合は薬を併用。段階的に考える必要なし [1][6]
Q4.「下剤は怖いイメージがあります。子どもに使っても大丈夫ですか?」
——下剤は癖になると聞いたことがあります。子どもに使っても安全なんですか?
これは便秘治療で最も多い誤解です [9]。結論から言うと、小児に使用される下剤(緩下剤)は安全で、癖になりません [1][6]。むしろ、下剤を使わずに放置するほうが、便秘が慢性化して治療が難しくなります [1]
小児便秘治療で使われる主な薬 [1][6][10]:
① 浸透圧性下剤(第一選択)
酸化マグネシウム(マグミット):
- 便に水分を引き込んで柔らかくする
- 長期使用でも安全。癖にならない [10]
- 用量: 小児で概ね30〜60mg/kg/日(0.03〜0.06g/kg)を1日1〜3回に分けて投与し、便の性状に応じて増減 [10](腎機能低下例では高マグネシウム血症に注意)
ポリエチレングリコール(PEG、モビコール):
- 欧米では第一選択薬 [6]
- 便を柔らかくし、腸の動きを促進
- 最も効果と安全性のエビデンスが豊富 [11]
- 日本では2018年に成人適応で承認、2020年に小児適応(2歳以上)が追加承認
② 刺激性下剤(補助的使用)
センナ、ピコスルファート(ラキソベロン):
- 腸の蠕動運動を刺激
- 頓用または短期間の使用に限る
- 長期使用は避ける(耐性ができる可能性)[1]
③ 浣腸・坐薬(便塊除去)
グリセリン浣腸:
- 硬い便が直腸にたまっている場合に使用
- 治療開始時の便塊除去に有効 [1]
——酸化マグネシウムは長期間飲んでも大丈夫なんですか?
はい。酸化マグネシウムやポリエチレングリコールは浸透圧性下剤といって、腸を刺激するのではなく、物理的に便に水分を引き込んで柔らかくする薬です [10]。腸の働きを鈍らせることはなく、長期使用でも安全です。NASPGHANとESPGHANのガイドラインでも、浸透圧性下剤は小児便秘の第一選択薬として推奨されています [6]
便秘治療の流れ [1][6]:
- 2初期治療(便塊除去): 浣腸などで硬い便を出す
- 4維持治療: 浸透圧性下剤を継続し、柔らかい便を維持
- 6治療期間: 通常数ヶ月〜1年以上継続が必要 [1]
- 8減量・中止: 便が柔らかく、痛みなく出る状態が数ヶ月続いたら、徐々に減量
——そんなに長く飲むんですか?
これが便秘治療の最も重要なポイントです。多くの保護者が『少し良くなったから薬をやめよう』と自己判断で中止してしまい、再発します [9]。便秘は再発しやすい病気です。直腸が伸びて便意が鈍くなった状態を元に戻すには、数ヶ月〜1年以上、柔らかい便が出続けることが必要です [1][12]。焦らず、主治医と相談しながら減量してください
ポイント
- 小児に使う下剤(浸透圧性下剤)は安全で、癖にならない [1][6][10]
- 酸化マグネシウム・ポリエチレングリコールが第一選択 [6]
- 治療期間は数ヶ月〜1年以上必要。早期中止は再発リスク [1][12]
- 自己判断で中止せず、主治医と相談しながら減量を [9]
Q5.「病院を受診したほうがいい便秘と、様子を見てよい便秘の違いは?」
——家で様子を見ていてよいのか、病院に行くべきなのか、判断がつきません
便秘のほとんどは機能性便秘ですが、すぐに受診すべきサイン(レッドフラッグ)があります [1][13]。以下に当てはまる場合は、早めに受診してください
すぐに受診すべき便秘のサイン(レッドフラッグ)[1][13]:
① 新生児期からの便秘
- 生後24〜48時間以内に胎便が出ない
- ヒルシュスプルング病(腸の神経細胞がない病気)の可能性 [13]
② 発達・成長の遅れ
- 体重増加不良、身長の伸びが悪い
- 甲状腺機能低下症などの可能性
③ 血便(鮮血ではなく黒いタール便)
- 裂肛による鮮血は機能性便秘でもよくある
- 黒いタール便は上部消化管出血のサイン
④ 嘔吐、強い腹痛、腹部膨満
- 腸閉塞など外科的疾患の可能性
⑤ 発熱、全身状態不良
- 単なる便秘では発熱しない
⑥ 下半身の神経症状
- 足の麻痺、尿失禁
- 脊髄疾患の可能性
——レッドフラッグがない場合は、どのくらいで受診すればいいですか?
以下のような場合は、緊急ではありませんが受診をお勧めします
受診をお勧めするタイミング:
- 1週間以上排便がない [1]
- 排便時に強く痛がる、出血する(裂肛)
- 便を我慢する行動が続く(足を交差させる、つま先立ちする、隠れる)
- 便失禁(おもらし)が週1回以上
- 家での対処(食事・水分・排便習慣)で2週間改善しない
便秘は早期に治療を始めるほど、治りやすいです [1][12]。『もう少し様子を見よう』と放置すると、悪循環が強まり、治療に時間がかかります。心配なときは、遠慮なくかかりつけ医に相談してください
ポイント
- 新生児期からの便秘、発達遅れ、黒いタール便、嘔吐・強い腹痛はすぐ受診 [1][13]
- 1週間以上排便なし、強い痛み・出血、便失禁は受診を [1]
- 早期治療ほど治りやすい。放置すると慢性化 [1][12]
- 心配なときは遠慮なく相談を
まとめ
- 小児の便秘は約10〜15%が経験。「回数」だけでなく「硬さ」「痛み」「我慢」が診断基準 [1][2][3]
- 便秘の95%以上は機能性便秘。トイレトレーニング期(2〜4歳)が最大のハイリスク期 [1][5]
- 食物繊維(年齢+5〜10g/日)、水分、食後のトイレ習慣が基本 [6]
- 浸透圧性下剤(酸化マグネシウム・PEG)は安全で癖にならない。第一選択薬 [1][6][10]
- 治療期間は数ヶ月〜1年以上。自己判断で中止せず、主治医と相談を [1][12]
- 早期治療が重要。レッドフラッグがあればすぐ受診 [1][13]
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