出産後、赤ちゃんに「ビタミンK2シロップ」を飲ませると説明を受けたことがあるかと思います。甘い透明なシロップを口に垂らすだけの簡単な予防ですが、これが防いでいるのは「頭蓋内出血」という重大な病気です。今号では、なぜビタミンKが必要なのか、そして投与回数が変わった背景をお伝えします。
ビタミンKと血液凝固の関係#
ビタミンKは、血液を固める「凝固因子」を肝臓で作るために欠かせないビタミンです。ビタミンKが不足すると凝固因子が十分に作られず、出血が止まりにくくなります。
新生児がビタミンK欠乏に陥りやすい理由は3つあります。まず、ビタミンKは胎盤を通りにくいため、赤ちゃんの体内備蓄がもともと少ないこと。次に、出生直後の腸内細菌が少なく、腸内でのビタミンK産生が十分でないこと。そして、母乳に含まれるビタミンKの量がミルクに比べて少ないことです [1]。
ビタミンK欠乏性出血症(VKDB)とは#
ビタミンK欠乏による出血症状は、発症時期によって3つに分類されます [2]。
早発型(生後24時間以内)は、母親が抗てんかん薬などを服用している場合にまれに起こります。古典型(生後1-7日)は、臍や消化管からの出血が多く、ビタミンK投与で効果的に予防できます。
最も恐ろしいのが遅発型(生後2週-6ヶ月)です。遅発型VKDBの30-60%は頭蓋内出血として発症します [2]。頭蓋内出血は死亡や重篤な神経学的後遺症につながる可能性があり、何としても防がなければなりません。遅発型はほぼ完全母乳の赤ちゃんに発生し、まれに胆道閉鎖症などの肝胆道系疾患が背景にあることがあります。
「3回法」から「3ヶ月法」へ#
従来、日本では以下の3回投与(3回法)が標準でした。出生時(哺乳確立時)、生後1週間(退院時)、1ヶ月健診時の計3回です。
しかし、3回法を行った赤ちゃんの中にも遅発型VKDBによる頭蓋内出血の発症例が報告されました [3]。日本小児科学会の調査では、3回法を受けた児のうち、特に胆道閉鎖症など肝胆道系の基礎疾患がある児で頭蓋内出血が発生していたのです。
これを受けて、現在は「3ヶ月法」への移行が進んでいます。具体的には、出生時と生後1週間の投与に加え、その後は生後3ヶ月まで週1回、合計約13回の投与を行う方法です [3]。3ヶ月法を受けた児からはビタミンK欠乏による頭蓋内出血の報告がなく、より確実な予防効果が確認されています。
よくある質問#
「ミルクにはビタミンKが入っているから、混合栄養なら不要では?」というご質問をいただくことがあります。確かに人工乳にはビタミンKが強化されていますが、日本小児科学会は栄養方法に関わらずすべての新生児にビタミンK投与を推奨しています [3]。母乳の割合が変わることもありますし、安全マージンを取ることが大切です。
「飲ませ忘れた場合はどうすれば?」という場合は、気づいた時点で飲ませてください。1回抜けたからといって直ちに危険になるわけではありませんが、次の投与からは忘れないよう、カレンダーなどで管理しましょう。
今号のまとめ#
- 新生児はビタミンKの体内備蓄が少なく、欠乏性出血症(VKDB)のリスクがある [1]
- 遅発型VKDBの30-60%は頭蓋内出血。死亡や後遺症のリスクが高い [2]
- 日本では3回法から3ヶ月法(週1回、合計約13回)への移行が進んでいる [3]
- 栄養方法に関わらず、すべての新生児にビタミンK投与が推奨される