愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.195
「いびきがすごいんですが……」、扁桃肥大・アデノイド肥大を知ろう
今号のポイント
- 2扁桃・アデノイドは免疫組織であり、3〜7歳で生理的に最も大きくなる
- 4病的な肥大は「いびき・睡眠時無呼吸・滲出性中耳炎」を引き起こすことがある
- 6手術の適応は明確な基準があり、必要な場合は安全かつ有効な治療法である
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
「うちの子、すごくいびきをかくんです」「口を開けて寝ているのが気になる」「風邪を引くと扁桃が腫れて高熱が出る」、こんなお悩みをお持ちではありませんか?
子どもの扁桃肥大やアデノイド肥大は、小児科・耳鼻科の外来でとてもよく相談される問題です。多くは成長とともに自然に小さくなりますが、中には睡眠や発育に影響を及ぼす場合もあります。
今回は、扁桃とアデノイドについて、保護者の方からよくいただく質問にお答えします。
Q1.「扁桃とアデノイドって何ですか?どんな役割がありますか?」
——扁桃腺は知っていますが、アデノイドって聞いたことがありません。どこにあるのですか?
扁桃もアデノイドも、のどの周りにある免疫組織です。場所が違うだけで、役割は似ています。
| 名称 | 正式名称 | 場所 | 確認方法 |
|---|---|---|---|
| 扁桃(扁桃腺) | 口蓋扁桃 | のどの奥、左右に1つずつ | 口を開けると見える [1] |
| アデノイド | 咽頭扁桃 | 鼻の奥(上咽頭) | 口を開けても見えない [1] |
扁桃とアデノイドはワルダイエル咽頭輪(Waldeyer's ring)と呼ばれるリンパ組織の一部で、鼻や口から入ってくる細菌やウイルスに対する最初の免疫防御の役割を果たしています [1][2]。
年齢による大きさの変化:
| 年齢 | 扁桃・アデノイドの状態 |
|---|---|
| 出生〜2歳 | 徐々に大きくなり始める [2] |
| 3〜7歳 | 生理的肥大のピーク(最も大きい)[2][3] |
| 8〜12歳 | 徐々に縮小し始める [2] |
| 思春期以降 | 多くの場合、小さくなる [2] |
つまり、3〜7歳頃に扁桃やアデノイドが大きいこと自体は正常な発達過程です。問題は、その大きさが気道をふさいだり、繰り返し感染を起こしたりする場合です [3]。
ポイント
- 扁桃は口を開けると見えるが、アデノイドは鼻の奥にあり見えない [1]
- どちらも免疫組織(ワルダイエル咽頭輪の一部)[1][2]
- 3〜7歳が生理的肥大のピーク。大きいこと自体は正常なことが多い [2][3]
Q2.「どんな症状が出たら心配すべきですか?」
——5歳の子がいつも口を開けて寝ています。いびきもひどいです。これは扁桃が大きいせいですか?
いびきと口呼吸は、扁桃・アデノイド肥大の代表的な症状です。以下のような症状がないか、チェックしてみましょう。
扁桃・アデノイド肥大の症状チェックリスト:
具体的な症状
- 睡眠
- いびき、睡眠中の無呼吸、苦しそうな呼吸
- 呼吸
- 口呼吸、鼻閉感、鼻声
- 食事
- 飲み込みにくい、食事に時間がかかる、偏食
- 耳
- 聞こえが悪い、中耳炎を繰り返す
- 顔貌
- 口が常に開いている、面長な顔つき
- 成長・行動
- 体重増加不良、日中の眠気、集中力の低下
関連する問題
- 睡眠
- 睡眠時無呼吸症候群(OSA)[4]
- 呼吸
- アデノイド肥大による鼻咽腔閉塞 [3]
- 食事
- 扁桃肥大による嚥下困難 [3]
- 耳
- 滲出性中耳炎の合併 [5]
- 顔貌
- アデノイド顔貌 [6]
- 成長・行動
- OSAによる成長障害 [4]
アデノイド顔貌(adenoid facies)とは:
長期間のアデノイド肥大によって口呼吸が続くと、以下のような特徴的な顔つきになることがあります [6]。
- 常に口が開いている
- 面長な顔つき
- 上顎の歯列が狭い(V字型の歯列弓)
- 出っ歯になりやすい
- 上唇が短く見える
これらは歯並びや顎の発達にも影響するため、早めの対応が望ましいとされています [6]。
ポイント
- いびき・口呼吸・睡眠時無呼吸は扁桃・アデノイド肥大の代表的症状 [3][4]
- 滲出性中耳炎の合併にも注意。「聞こえが悪い」と感じたら耳の検査も [5]
- 長期の口呼吸はアデノイド顔貌(面長、出っ歯)の原因になることがある [6]
Q3.「手術が必要になるのはどんな時ですか?」
——耳鼻科で『扁桃が大きいですね』と言われました。手術が必要になることもあるのでしょうか?
はい。明確な手術の適応基準があります。大きく分けて2つの理由で手術を検討します。
手術の適応:
1. 閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)がある場合
小児のOSAの最も多い原因はアデノイド・扁桃肥大であり、手術(アデノイド・扁桃摘出術)が第一選択の治療です [4][7]。
手術を検討する所見:
- 睡眠中の無呼吸エピソードが確認される
- 終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)で閉塞性無呼吸低呼吸指数(AHI)が1回/時以上 [4]
- いびき、口呼吸、日中の眠気、成長障害がある
2. 扁桃炎を繰り返す場合(Paradise基準)
Paradise基準 [8]:
| 基準 | 頻度 |
|---|---|
| パターン1 | 1年間に7回以上の扁桃炎 |
| パターン2 | 過去2年間で年5回以上 |
| パターン3 | 過去3年間で年3回以上 |
※ いずれも、38.3℃以上の発熱、頸部リンパ節腫脹、扁桃の滲出物、溶連菌陽性のうち1つ以上を伴うエピソードであること [8]。
その他の手術適応:
- 扁桃周囲膿瘍の既往 [7]
- 扁桃肥大による嚥下困難や成長障害 [3]
- 滲出性中耳炎に対するアデノイド切除(鼓膜チューブ留置と併用)[5]
ポイント
- 手術の最も多い適応は睡眠時無呼吸(OSA)と反復する扁桃炎 [4][7][8]
- Paradise基準: 1年に7回、2年間で年5回、3年間で年3回以上の扁桃炎 [8]
- OSAの詳しい解説は次号(Vol.196 睡眠時無呼吸症候群)でお伝えします
Q4.「手術は安全ですか?免疫に影響はありませんか?」
——扁桃は免疫の役割があると聞きました。取ってしまって大丈夫なのでしょうか?
とてもよく聞かれる質問です。結論から言うと、扁桃・アデノイドを摘出しても、全身の免疫機能に臨床的に問題のある影響はないとされています [9]。
免疫への影響に関するエビデンス:
| 項目 | 研究結果 |
|---|---|
| 免疫グロブリン値 | 術後一時的にわずかに低下するが、3〜6ヶ月で正常化 [9] |
| 短期の感染症リスク | 術後短期の免疫指標は大きく変動せず、日常的な感染症頻度に著明な増加はみられないとの報告 [9] |
| 長期の疾患リスク | デンマーク全国コホート(約120万人、Byars 2018)では、9歳未満で扁桃・アデノイド摘出を受けた群で呼吸器・アレルギー・感染症疾患の長期相対リスク上昇が報告されており、適応は慎重に判断する必要がある [10] |
扁桃・アデノイドはワルダイエル咽頭輪の一部にすぎず、全身には他にも多数のリンパ組織(腸管関連リンパ組織、脾臓、リンパ節など)があるため、摘出後も免疫機能全体は大部分補われます [9]。一方で、Byars 2018のような観察研究では一部疾患の長期リスク増加が示唆されており、手術適応は必要性とリスクを個別に評価したうえで決めることが大切です [10]。
手術の安全性:
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 手術時間 | 通常30〜60分程度 [7] |
| 入院期間 | 日帰り〜数日(施設により異なる)[7] |
| 主な合併症 | 術後出血(約2〜4%)、脱水、咽頭痛 [7] |
| 重篤な合併症 | 非常にまれ(0.1%未満)[7] |
| 術後の痛み | 7〜14日程度で軽快(鎮痛薬で管理)[7] |
ポイント
- 扁桃・アデノイド摘出後も全身の免疫機能に臨床的な問題はない [9][10]
- 手術は比較的安全で、術後出血が主な合併症(約2〜4%)[7]
- 術後の痛みは7〜14日程度で、鎮痛薬で管理できます [7]
Q5.「手術後はどうなりますか?いびきは治りますか?」
——手術を受けたら、いびきや無呼吸はすぐに良くなるのですか?
多くのお子さんで劇的に改善します。ただし、いくつか知っておいていただきたいこともあります。
手術後の効果:
改善率
- いびきの消失・改善
- 約80〜90% [4][11]
- OSAの改善(PSGで確認)
- 約70〜80% [11]
- 行動・学習面の改善
- 有意に改善 [12]
- 成長の改善
- 改善例が多い [4]
- 滲出性中耳炎の改善
- 約50〜60% [5]
備考
- いびきの消失・改善
- ほとんどのお子さんで改善
- OSAの改善(PSGで確認)
- 肥満児ではやや低い [11]
- 行動・学習面の改善
- 注意力・学業成績の向上が報告
- 成長の改善
- 成長ホルモン分泌の正常化
- 滲出性中耳炎の改善
- アデノイド切除で改善
手術後の注意点:
- 術後1〜2週間は柔らかい食事にする [7]
- 辛いもの、酸っぱいものは避ける
- 激しい運動は2週間程度控える [7]
- 術後の出血に注意(特に術後5〜7日目は痂皮が剥がれやすい)[7]
- 発熱は術後数日間はよくみられ、多くは正常な反応
手術後もOSAが残る場合:
- 肥満児では手術だけでは改善しないことがある [11]
- 減量や、場合によってはCPAP(持続陽圧呼吸療法)が追加で必要 [4]
- 術後の再評価(PSG)が推奨される [4]
ポイント
- アデノイド・扁桃摘出術でいびきは約80〜90%改善、OSAは約70〜80%改善 [4][11]
- 行動面・学習面・成長面でも改善が期待できる [4][12]
- 肥満児では手術だけでは不十分なことがあり、追加治療が必要な場合がある [11]
- 次号(Vol.196)では、子どもの睡眠時無呼吸症候群についてさらに詳しく解説します
まとめ
扁桃・アデノイド肥大のポイントを最後に整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 扁桃・アデノイドの役割 | 免疫組織(ワルダイエル咽頭輪の一部)[1][2] |
| 生理的肥大のピーク | 3〜7歳。大きいこと自体は正常なことが多い [2][3] |
| 病的肥大の症状 | いびき、睡眠時無呼吸、口呼吸、嚥下困難、滲出性中耳炎 [3][4][5] |
| アデノイド顔貌 | 口呼吸の持続で面長・出っ歯になることがある [6] |
| 手術の適応 | OSA、反復する扁桃炎(Paradise基準)、嚥下困難 [4][7][8] |
| 手術の安全性 | 免疫への臨床的な悪影響はなし。合併症は軽微が多い [7][9][10] |
| 手術後の効果 | いびき80〜90%改善、OSA 70〜80%改善、行動・成長面も改善 [4][11][12] |
お子さんの「いびきがひどい」「いつも口が開いている」が気になったら、一度ご相談ください。必要な場合は耳鼻科と連携して、最善の対応を考えます。
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