愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.90
斜視・弱視のスクリーニング、早期発見で「見える力」を守る5つのQ&A
今号のポイント
- 2弱視は「メガネをかけても見えにくい状態」。視覚の感受性期(6歳頃まで)に発見・治療すれば回復が見込める
- 43歳児健診の視力検査は弱視発見の最重要スクリーニング。家庭での練習が精度を左右する
- 6スポットビジョンスクリーナーなどのフォトスクリーナーの導入で、乳幼児でも客観的なスクリーニングが可能に
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
今回のテーマは斜視と弱視のスクリーニングです。
お子さんの目の発達について、「うちの子、目がちょっと寄っている気がする」「3歳児健診の視力検査が上手にできなかった」「弱視って何?」といった相談をよくいただきます。
まず安心していただきたいのは、弱視は早期に発見すれば治療可能な状態だということです。 しかし、発見が遅れると治療効果が大幅に低下するため、適切な時期のスクリーニングが非常に重要です [1][2]。
今号では、斜視・弱視について保護者の方に知っておいていただきたい5つのQ&Aをお届けします。
Q1.「弱視って何ですか? 視力が悪いこととは違うんですか?」
——3歳児健診で『弱視の疑いがある』と言われました。弱視って、目が悪いということですか? メガネをかければ見えるようになりますか?
弱視は、単に『視力が悪い』こととは少し違います。弱視とは、メガネやコンタクトレンズで矯正しても、十分な視力が得られない状態のことです [1][2]
——メガネをかけても見えにくい……? なぜそうなるんですか?
人間の視力は生まれた時には完成しておらず、生後から6歳頃まで(特に生後〜3歳が最も感受性が高い)の『視覚の感受性期』に、目から脳へ正常な視覚情報が送られることで発達します [1][2]。この時期に何らかの原因で正常な視覚入力が妨げられると、脳の視覚を処理する部分が十分に発達せず、弱視になります
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 弱視の定義 | 眼球自体に異常がないのに、矯正視力が十分に出ない状態 [1] |
| 発症時期 | 視覚の感受性期(生後〜6歳頃)に発症 [1][2] |
| 頻度 | 小児の約2〜3%に見られる [2][3] |
| 原因 | 斜視、強い屈折異常(遠視・乱視など)、不同視(左右の度数差)、眼瞼下垂・白内障など [1][2] |
| 治療可能年齢 | 6歳頃までに治療を開始すれば回復が見込める。遅くなるほど効果は低下 [2][3] |
弱視の原因で最も多いのは屈折異常(特に遠視と乱視)と斜視です [2]。遠視が強いと常にピントが合わない状態で視覚情報が脳に送られ、脳の視覚発達が妨げられます。重要なのは、弱視は目の病気ではなく、脳の視覚発達の問題だということです [1]。だからこそ、感受性期のうちに見つけて治療することが決定的に重要なのです
ポイント
- 弱視はメガネでも矯正できない視力低下。脳の視覚発達の問題 [1][2]
- 小児の約2〜3%に見られ、決してまれではない [2][3]
- 6歳頃までの早期発見・早期治療で回復が見込める [2][3]
- 最多の原因は屈折異常(遠視・乱視)と斜視 [1][2]
Q2.「斜視にはどんな種類がありますか? 赤ちゃんの寄り目は心配ですか?」
——うちの子(8ヶ月)、時々目が内側に寄って見えることがあるんです。斜視でしょうか?
赤ちゃんの目の寄りは、よくご相談いただきます。まず、斜視の種類を整理しましょう [4][5]
目の向き
- 内斜視
- 目が内側に寄る
- 外斜視
- 目が外側に寄る
- 上下斜視
- 目が上下にずれる
- 偽内斜視
- 斜視に見えるが正常
特徴
- 内斜視
- 乳児内斜視(生後6ヶ月以内発症)、調節性内斜視(遠視が原因、2〜3歳で発症)が代表的 [4]
- 外斜視
- 間欠性外斜視(疲れた時や遠くを見た時に外れる)が多い [4]
- 上下斜視
- 頻度は少ないが、頭を傾ける癖がサインになることがある [4]
- 偽内斜視
- 実は最もよくあるパターン [5]
——偽内斜視って何ですか?
赤ちゃんは鼻が低く、目と目の間が広いため(内眼角贅皮=蒙古ひだ)、正面を見ている時でも目が内側に寄って見えることがあります。これが偽内斜視(ぎないしゃし)です [5]。実際には目の位置は正常で、斜視ではありません。成長とともに鼻が高くなると目立たなくなります
偽内斜視
- 目の寄り方
- 常に両目ともに見える
- 鼻の付け根の皮膚
- 鼻が低く、目頭の白目が隠れて見える [5]
- ペンライトの反射
- 両目の瞳孔の中央に反射がある [5]
- カバーテスト
- 片目を隠しても目の動きがない
真の内斜視
- 目の寄り方
- 片目だけ寄っている、または左右交互に寄る [5]
- 鼻の付け根の皮膚
- 鼻の高さとは無関係
- ペンライトの反射
- 反射の位置が左右でずれている
- カバーテスト
- 片目を隠すと隠された目が動く [4]
偽内斜視か真の斜視かは、外来でペンライトの角膜反射(ヒルシュベルグテスト)やカバーテストで判別できます [4][5]。お子さんの目の寄りが気になる場合は、写真を撮って受診していただくと参考になります。フラッシュ写真で両目の光の反射の位置が対称かを確認するのも簡便な方法です
——写真で確認できるんですね。斜視だった場合、弱視になるんですか?
斜視があると、脳が二重に見えるのを避けるために片方の目の情報を無視するようになります(抑制)[4]。これが長期間続くと、無視された側の目の視力が発達せず、斜視弱視になる可能性があります [1][4]。そのため、斜視は早期発見・早期治療が重要なのです
ポイント
- 斜視の種類は内斜視、外斜視、上下斜視 [4]
- 赤ちゃんの「寄り目」は偽内斜視(正常)のことが多い [5]
- 見分け方: ペンライト反射の位置が左右対称か [5]
- 斜視が続くと斜視弱視になる可能性。早期対応が重要 [1][4]
Q3.「3歳児健診の視力検査のコツを教えてください」
——もうすぐ3歳児健診なんですが、視力検査がうまくできるか心配です。どう準備すればいいですか?
とても大切な質問です。3歳児健診の視力検査は、弱視を発見する最も重要な機会です [2][6]。しかし、お子さんがランドルト環(Cの字)の検査方法を理解していないと、正確な結果が得られません。事前の練習が非常に重要です
家庭での練習方法
方法
- ① ランドルト環に慣れる
- 健診のお知らせに同封されている練習用のランドルト環を使う
- ② 指さし練習
- 「上」「下」「右」「左」を指さしで答える練習
- ③ 片目を隠す練習
- ティッシュやお母さんの手で片目を隠す練習
- ④ 2.5mの距離で練習
- 実際の検査距離で見えるか確認
ポイント
- ① ランドルト環に慣れる
- 「Cの字の穴が開いている方向はどっち?」と遊び感覚で
- ② 指さし練習
- 言葉で言えなくても、指さしでOK [6]
- ③ 片目を隠す練習
- 嫌がるお子さんが多いので、遊びの中で慣れさせる [6]
- ④ 2.5mの距離で練習
- 0.5のランドルト環が見えるかチェック [6]
検査を正確に行うためのポイント
| 注意点 | 理由 |
|---|---|
| 片目ずつ検査する | 両目一緒だと弱視を見逃す。片目だけ視力が悪いケース(不同視弱視)が最も発見しにくい [2][6] |
| 隠した目から覗かない | 子どもは隠した目を開けて覗く癖がある。しっかり隠す [6] |
| 片目を隠した時に嫌がる場合 | 弱視のサインの可能性がある(見えるほうの目を隠されると見えにくくなるため嫌がる)[6] |
| 機嫌が良い時に行う | 眠い時、空腹時は集中できない |
| 答えがわからない=「見えない」の可能性 | 「ふざけている」と決めつけない。見えていない可能性を考慮する [6] |
3歳児健診は、法律で定められた視覚スクリーニングの唯一の機会です [6]。ここで弱視が見つかれば、治療の最も効果的な時期に介入できます。健診を受けないと、弱視に気づかないまま学童期を迎えるリスクがあります。必ず受診してください
——健診で『要精密検査』と言われたらどうすれば?
必ず眼科を受診してください [6]。『要精密検査』の結果が出ても、約半数は精密検査で問題なしとなります。しかし、残りの約半数は何らかの治療が必要です [6]。『まだ小さいから様子を見よう』は禁物です。様子を見ている間に治療のゴールデンタイムが過ぎてしまいます
ポイント
- 3歳児健診の視力検査は弱視発見の最重要機会 [2][6]
- 事前にランドルト環の練習をしておくと精度が上がる [6]
- 片目ずつの検査が必須。不同視弱視の見逃し防止 [2][6]
- 「要精密検査」が出たら必ず眼科受診。「様子見」は危険 [6]
Q4.「スポットビジョンスクリーナーって何ですか?」
——乳幼児健診で『目の機械の検査をしますね』と言われて、カメラみたいなもので検査されました。あれは何ですか?
それはスポットビジョンスクリーナー(SVS)と呼ばれるフォトスクリーナーです [7][8]。近年、多くの小児科や健診施設で導入が進んでいる画期的なスクリーニング機器です
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | Spot Vision Screener(Welch Allyn社製)[7] |
| 原理 | 両目に赤外線を当て、瞳孔からの反射光のパターンを解析して屈折異常(近視・遠視・乱視)、不同視、斜視を検出する [7][8] |
| 検査時間 | 数秒〜1分。非接触式 [7] |
| 対象年齢 | 生後6ヶ月から検査可能 [7] |
| お子さんの協力 | ランドルト環を読む必要なし。機器を見るだけでOK [7] |
| 検査結果 | 「パス(正常範囲)」または「要紹介(要精密検査)」を自動判定 [7] |
——赤ちゃんでもできるんですか? すごいですね
はい、これがスポットビジョンスクリーナーの最大の利点です。従来の視力検査(ランドルト環)は3歳以上でないとできませんでしたが、SVSは生後6ヶ月の赤ちゃんでも検査可能です [7]。お子さんが機器の光を数秒見つめるだけで、屈折異常の有無を自動で判定してくれます
| SVSの精度(メタアナリシスの結果) | 数値 |
|---|---|
| 感度(弱視リスク因子の検出率) | 約85〜90% [8][9] |
| 特異度(正常を正常と判定する率) | 約75〜90% [8][9] |
| 偽陽性率 | 約10〜25%(正常なのに「要紹介」となるケース)[8] |
SVSは非常に有用ですが、万能ではありません [8][9]。いくつかの注意点があります
| 注意点 | 説明 |
|---|---|
| 偽陽性がある | 「要紹介」でも実際には問題ないケースが10〜25%ある [8] |
| 軽度の異常は見逃すことがある | 感度は100%ではないため、SVSで「パス」でも3歳児健診の視力検査は必ず受ける [8][9] |
| 斜視の検出には限界がある | 間欠性外斜視など、検査時に斜視が出ていないと検出できない [9] |
| 視力そのものは測定しない | 屈折異常のスクリーニングであり、視力検査の代わりにはならない [7] |
現在、SVSは全国の乳幼児健診に急速に導入が広がっています [10]。当院でも乳幼児健診で使用しています。SVSのスクリーニング + 3歳児健診のランドルト環視力検査を組み合わせることで、弱視の見逃しを最小限にすることが目標です [9][10]
ポイント
- スポットビジョンスクリーナーは生後6ヶ月から使える屈折スクリーニング機器 [7]
- 数秒で検査完了。ランドルト環を読む必要なし [7]
- 感度85〜90%で弱視リスク因子を検出 [8][9]
- SVSは便利だが視力検査の代わりにはならない。3歳児健診も必ず受ける [8][9]
Q5.「弱視や斜視の治療はどうするんですか?」
——もし弱視や斜視が見つかった場合、どんな治療をするんですか? 手術が必要ですか?
治療法は原因によって異なりますが、大きく3つの方法があります [2][3][11]
治療法の概要
| 治療法 | 対象 | 内容 | 効果 |
|---|---|---|---|
| ① メガネ(屈折矯正) | 屈折異常弱視、調節性内斜視 | 遠視・乱視をメガネで矯正し、正しい視覚入力を脳に送る [2][3] | 弱視の最も基本的な治療。メガネだけで視力が改善するケースも多い [3] |
| ② 遮蔽法(アイパッチ) | メガネだけで改善しない弱視 | 良いほうの目にアイパッチ(眼帯)を貼り、弱視の目を積極的に使わせる [2][11] | 弱視眼の視力を発達させる。1日2〜6時間が目安 [11] |
| ③ 手術 | 斜視(非調節性内斜視、外斜視など) | 目を動かす筋肉の位置を調整して目の向きを矯正する [4] | 目の位置の改善。弱視の直接的な治療ではないが、両眼視の回復に寄与 [4] |
メガネによる治療
——こんな小さい子にメガネをかけるんですか?
はい。弱視の治療メガネは、視力発達のための『医療器具』です [3]。おしゃれのためではなく、脳に正しい視覚情報を送るために必要なものです [2][3]。遠視が強いお子さんの場合、メガネをかけることで網膜にきちんとピントが合うようになり、脳の視覚発達が促されます
| メガネ治療のポイント | 内容 |
|---|---|
| 装用時間 | 起きている間ずっと(入浴・水遊び以外)[3] |
| 効果が出るまで | 数ヶ月〜1年。焦らず継続が大切 [3] |
| メガネの選び方 | 軽くて壊れにくい素材。ずれ防止のバンドも有効 |
| 治療用メガネの補助 | 9歳未満の弱視治療用メガネは健康保険の適用あり [12] |
遮蔽法(アイパッチ)
——アイパッチって、嫌がりませんか?
正直に言うと、多くのお子さんは最初嫌がります [11]。でも、ここが治療の正念場です。以下のコツを試してみてください
| アイパッチのコツ | 詳細 |
|---|---|
| 遊びながら装着 | お絵描き、パズル、DVDなど目を使う遊びの時間に [11] |
| 可愛いデザインのパッチ | キャラクター入りなど、お子さんが喜ぶものを選ぶ |
| ご褒美シール | カレンダーにシールを貼る方式で達成感を |
| 家族のサポート | 「かっこいいね」「頑張ってるね」とポジティブな声かけ |
| 保育園・幼稚園への説明 | 治療であることを先生に伝え、協力を依頼 |
治療のタイムリミット
弱視治療で最も重要なのはタイミングです [2][3]。視覚の感受性期は6歳頃まで。この時期を逃すと、治療効果は大きく低下します
| 治療開始年齢 | 治療効果 |
|---|---|
| 3歳以下 | 最も効果的。完全な視力回復が期待できるケースが多い [2][3] |
| 4〜6歳 | 効果あり。多くのケースで改善が見込める [3] |
| 7〜8歳 | 効果は減弱するが、改善が見られる場合もある [3][11] |
| 9歳以降 | 効果は限定的。治療が非常に困難になる [2] |
繰り返しになりますが、弱視は早く見つけるほど治りやすいのです [2][3]。3歳児健診で見つかれば、最も効果的な時期に治療を開始できます。健診の視力検査を『面倒だから』『うまくできないだろうから』とスキップすることは、お子さんの一生の視力を左右しかねません
ポイント
- 弱視治療の基本はメガネ + アイパッチ。手術が必要なのは斜視の場合 [2][3][4]
- 治療用メガネは9歳未満なら健康保険適用 [12]
- 弱視治療は6歳頃までが効果的。早期発見が決定的に重要 [2][3]
- アイパッチは嫌がっても遊びの工夫とご褒美で継続を [11]
今号のまとめ
- 弱視はメガネでも矯正できない視力低下。小児の約2〜3%に見られる [1][2]
- 弱視の治療は6歳頃までが効果的。タイムリミットがある [2][3]
- 3歳児健診の視力検査は弱視発見の最重要機会。事前にランドルト環の練習を [6]
- スポットビジョンスクリーナーは生後6ヶ月から使える客観的スクリーニング機器 [7][8]
- 治療はメガネ、アイパッチ、手術の3つ。早く始めるほど効果が高い [2][3][11]
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