愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.186
「足の付け根が膨らんでいます」、鼠径ヘルニアの基礎知識
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
鼠径ヘルニア(脱腸)は、小児外科で最も多い手術の対象疾患です。鼠径部(足の付け根)に、泣いた時やいきんだ時に膨らみが出るのが特徴です。自然に治ることはほとんどなく、嵌頓(はまり込み)のリスクがあるため、手術が推奨されます。今回は、小児の鼠径ヘルニアについてお伝えします。
Q1.「鼠径ヘルニアとは?」
——おむつ替えの時に、足の付け根の膨らみに気づきました
鼠径ヘルニアは、お腹の中の臓器(腸や卵巣)が鼠径部の隙間から飛び出す病気です [1]。
| 基本情報 | 詳細 |
|---|---|
| 頻度 | 小児の約1-5% |
| 男女比 | 男児に多い(3-10:1) |
| 好発時期 | 乳児期に発見されることが多い |
| 右左差 | 右側60%、左側25%、両側15% |
| 原因 | 胎児期の腹膜鞘状突起が閉鎖しなかったため |
ポイント
- 小児の1-5%に見られる
- 男児に多い
- 自然治癒はほとんどない
Q2.「どんな症状が出ますか?」
——どういう時に膨らみが出ますか?
鼠径ヘルニアの症状は以下の通りです [2]。
| 症状 | 特徴 |
|---|---|
| 鼠径部の膨らみ | 泣いた時、いきんだ時、立った時に出る |
| 還納性 | 横になると自然に戻る(押すと戻る) |
| 痛み | 通常は痛みなし |
| 男児 | 陰嚢まで膨らむことがある |
| 女児 | 大陰唇が腫れる(卵巣が出ることがある) |
| 嵌頓(かんとん)の症状(緊急) |
|---|
| 膨らみが硬くなり、戻らない |
| 激しく泣く、不機嫌 |
| 嘔吐 |
| 皮膚が赤くなる |
「嵌頓(飛び出した臓器が戻らなくなる状態)は緊急事態です。膨らみが硬く戻らない場合は、すぐに救急外来を受診してください。」
ポイント
- 泣いた時に出て、安静にすると戻る
- 嵌頓(戻らなくなる)は緊急事態
- 膨らみが硬く戻らなければ即受診
Q3.「手術は必要ですか?」
——自然に治りますか?
鼠径ヘルニアは自然に治ることはほとんどなく、手術が標準治療です [3]。
| 手術の方法 | 特徴 |
|---|---|
| 従来法(鼠径部切開) | 鼠径部を小さく切開して修復。実績が多い |
| 腹腔鏡手術 | 臍の小さな傷から。両側の確認が可能 |
| 手術のタイミング | 推奨 |
|---|---|
| 乳児(1歳未満) | 嵌頓リスクが高いため、診断後早めに手術 |
| 幼児以降 | 予定手術。嵌頓歴がなければ待機可能 |
「乳児期は嵌頓のリスクが高いため、診断されたら早めの手術をお勧めします。システマティックレビューでは小児全体で7%前後、乳児では11〜12%、早産児では最大31%の嵌頓リスクが報告されています [3]。手術時間は30〜60分程度で、多くの場合日帰り手術が可能です。」
ポイント
- 自然治癒はほとんどない
- 手術が標準治療
- 乳児は嵌頓リスクが高く早めの手術を
Q4.「手術後の経過は?」
——手術後はどうなりますか?
手術後は早期に通常の生活に戻れます [4]。
| 術後の経過 | 詳細 |
|---|---|
| 痛み | 数日程度。鎮痛剤で対応 |
| 入浴 | 翌日からシャワー可能 |
| 食事 | 当日から通常通り |
| 活動制限 | 激しい運動は1-2週間控える |
| 登園 | 術後3-7日で可能 |
| 再発 | 1-2%と低い |
ポイント
- 多くは日帰り手術
- 術後数日で日常生活に復帰
- 再発率は1-2%と低い
Q5.「臍ヘルニアとの違いは?」
——おへその出っ張りも同じですか?
臍ヘルニア(でべそ)と鼠径ヘルニアは、場所も対応も異なります [5]。
鼠径ヘルニア
- 場所
- 足の付け根
- 自然治癒
- ほとんどない
- 嵌頓リスク
- あり(特に乳児)
- 手術の必要性
- 原則必要
臍ヘルニア
- 場所
- おへそ
- 自然治癒
- 1-2歳までに約80%が自然閉鎖
- 嵌頓リスク
- 非常にまれ
- 手術の必要性
- 2歳過ぎても閉じない場合に検討
ポイント
- 鼠径ヘルニアは原則手術、臍ヘルニアは経過観察が多い
- 臍ヘルニアは80%が自然に治る
- 嵌頓リスクは鼠径ヘルニアに高い
今号のまとめ
- 鼠径ヘルニアは小児の1-5%に見られる疾患です
- 泣いた時に鼠径部が膨らみ、安静にすると戻るのが特徴
- 嵌頓は緊急事態。膨らみが硬く戻らなければ即受診
- 手術が標準治療。日帰り手術が可能
- 自然治癒はほとんどないため、診断されたら手術を
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