愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.432
「髪の毛を抜きます」、抜毛症(トリコチロマニア)を知る
今号のポイント
- 2抜毛症は子どもの1-2%に見られ、不安障害との関連が深い
- 4幼児の抜毛は一過性のことが多い
- 6学童期以降は専門的な行動療法が有効
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
自分の髪や眉毛を抜く行為を「抜毛症(トリコチロマニア)」と呼びます。DSM-5では「強迫症および関連症群(OCRD)」に分類されており、生涯有病率はおよそ1〜3%と報告されています [1]。子どもでも珍しい行動ではありません。
どんな行動ですか?
| 特徴 | 内容 |
|---|---|
| 抜く場所 | 頭髪が最多、次いで眉毛・睫毛 |
| タイミング | 就寝前、集中時、退屈時 |
| 本人の認識 | 無意識のことが多い |
| 伴う行動 | 抜いた毛を触る・口に入れる |
抜いた毛を飲み込む「トリコファジア」があると、胃内で毛髪塊(ラプンツェル症候群)を形成することがあります。腹痛・嘔吐・体重減少がある場合はすぐ受診を。
ポイント
- 頭髪・眉毛・睫毛が主な対象
- 無意識行動が多い
- 毛を飲み込む場合は重症化リスク
原因と背景は?
抜毛症は「身体集中反復行動(BFRB)」の代表格で、強迫関連症のスペクトラムに位置づけられています。不安や緊張が引き金になることが多く、抜く行為そのものが一時的な安心感をもたらしているケースも少なくありません [2]。
| 背景 | 説明 |
|---|---|
| 不安・ストレス | 学校・家庭環境 |
| 強迫傾向 | 完璧主義 |
| 孤独・退屈 | 一人の時間に増える |
| 遺伝要因 | 家族歴のことも |
| 自己鎮静 | 触覚的な安心感を得る |
ポイント
- BFRBの代表疾患 [2]
- 不安・強迫傾向が背景
- 自己鎮静が機能的意味
年齢別の特徴
特徴
- 2-5歳
- 無意識・一過性
- 6-12歳
- 不安と関連
- 思春期
- 慢性化しやすい
経過
- 2-5歳
- 多くは自然軽快
- 6-12歳
- 専門治療を検討
- 思春期
- CBT・薬物療法
幼児期の抜毛は「癖」の延長線上にあることが多く、数か月で自然に消えていく子がほとんどです。一方、学童期以降に始まった抜毛は慢性化しやすいので、早めに相談していただくほうが結果的に楽になります [3]。
ポイント
- 幼児期は一過性が多い
- 学童期以降は慢性化しやすい
- 早期介入が予後を改善
家庭での対応
| 対応 | 内容 |
|---|---|
| 気づきの訓練 | 「触っているよ」と穏やかに |
| 代替行動 | 髪ゴム・ストレスボール |
| 環境調整 | 髪を短く・帽子で物理的ブロック |
| 入眠儀式 | 絵本・スキンシップ |
| ストレスケア | 日々の話を聞く |
| 避けたい対応 |
|---|
| 叱責・恥じらせる |
| 手を縛る |
| 「やめないと禿げるよ」と脅す |

おかもん先生より
外来で抜毛のお子さんを診るとき、私がまず家族に伝えるのは「責めないでください」ということ。本人は止めたくても止められません。叱るほど不安が増し悪化します。「抜く代わりに触れるもの」を一緒に探すだけで、1-2か月で落ち着く子をたくさん見てきました。
ポイント
- 叱責は厳禁
- 気づき→代替→安心の順
- 入眠儀式の工夫が有効
受診の目安
| 受診の目安 | 科 |
|---|---|
| 脱毛範囲が広がる | 小児科・皮膚科 |
| 毛を飲み込む | 小児科(消化器) |
| 強い不安・抑うつ | 児童精神科 |
| 登校しぶり | 小児科・心理 |
| 家庭内介入で改善しない | 小児科→専門医 |
治療の柱は習慣逆転法(HRT)を含む認知行動療法(CBT)です。薬物療法はN-アセチルシステインなどが検討されますが、子どもへのエビデンスはまだ限定的で、第一選択にはなりません [4]。
ポイント
- 範囲拡大・嚥下・精神症状で受診
- 第一選択はHRT/CBT [4]
- 薬物は補助的
まとめ
- 抜毛症はBFRBの代表で不安と関連
- 幼児期は一過性、学童期以降は専門介入を
- 家庭では叱責を避け気づき・代替行動を
- 毛嚥下は消化器合併症のリスク
- 早期受診が予後を改善
あわせて読みたい
- Vol.429「爪噛みの理由」
- Vol.428「指しゃぶり、いつまでOK?」
愛育病院 小児科 おかもん先生
本メルマガの内容は一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。