愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.154
「とりあえず抗生物質」は卒業しよう、抗菌薬が効く病気・効かない病気
今号のポイント
- 2風邪の90%はウイルス性。抗菌薬(抗生物質)はウイルスには一切効かない
- 4「念のため抗菌薬」が耐性菌(AMR)を生み出す最大の原因。世界で年間127万人が死亡
- 6溶連菌・尿路感染症・細菌性肺炎など「本当に必要なケース」を知ることで、正しく使える
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
Vol.12「風邪に抗生物質の誤解」では、風邪に抗菌薬は不要であること、そして「念のため」の処方が耐性菌を生む危険性についてお伝えしました。あれから多くのお問い合わせをいただき、「じゃあ、どんな時に抗菌薬が必要なの?」「子どもが高熱で辛そうな時に、本当に抗菌薬なしで大丈夫?」という声が寄せられました。
今号では、Vol.12の内容をさらに深掘りし、抗菌薬が効く病気と効かない病気を整理します。正しい知識があれば、「出してもらえなかった」という不安ではなく、「出さなくてよかった」という安心に変わります。
Q1.「そもそも抗菌薬って何に効くんですか?もう一度整理してほしいです」
——抗生物質がウイルスに効かないのはVol.12で理解しました。でも改めて、どういう仕組みなのか教えてほしいです
いい質問ですね。復習を兼ねて整理しましょう。抗菌薬(=抗生物質)は細菌の細胞壁の合成を阻害したり、タンパク質合成を妨げたりすることで細菌を殺す薬です [1]。一方、ウイルスは細胞壁を持たず、自分だけでは増殖できない(ヒトの細胞に寄生して増える)ため、抗菌薬の攻撃ポイントがありません
ウイルス
- 大きさ
- 20〜300 nm
- 細胞壁
- なし
- 自己増殖
- できない(宿主の細胞を利用)
- 抗菌薬の効果
- 効かない
- 代表的な病気
- 風邪、インフルエンザ、胃腸炎の大半
細菌
- 大きさ
- 1〜10 μm(ウイルスの10〜100倍)
- 細胞壁
- あり
- 自己増殖
- 自力で増殖可能
- 抗菌薬の効果
- 効く
- 代表的な病気
- 溶連菌、尿路感染症、細菌性肺炎
つまり、『その病気の原因がウイルスか細菌か』が抗菌薬を使うかどうかの判断の根幹です [1][2]。風邪の原因の約90%はウイルスですから、風邪に抗菌薬は効きません
ポイント
- 抗菌薬は細菌の構造(細胞壁等)を攻撃する薬。ウイルスにはその構造がない [1]
- 「原因がウイルスか細菌か」で使うかどうかが決まる
- 風邪の約90%はウイルス性。だから風邪に抗菌薬は不要 [2]
Q2.「風邪をひくと鼻水が黄色くなります。それでも抗菌薬は要らないんですか?」
——黄色い鼻水=細菌感染だと聞いたことがあるんですが……
これは非常によくある誤解です。黄色や緑色の鼻水は、ウイルス感染でも普通に起こります [3]。風邪の経過で白血球(好中球)が増え、その酵素によって鼻水が黄色〜緑色に変わるのは正常な免疫反応です。鼻水の色だけで細菌感染かどうかを判断することはできません
意味
- 透明・水っぽい
- 風邪の初期、アレルギー
- 黄色・緑色
- 免疫細胞が働いている証拠(ウイルスでも細菌でも起こる)
- 黄色+10日以上持続
- 急性副鼻腔炎の可能性 [3]
- 黄色+いったん改善後に再悪化
- 二次的細菌感染の疑い [2]
抗菌薬
- 透明・水っぽい
- 不要
- 黄色・緑色
- 色だけでは判断できない
- 黄色+10日以上持続
- 医師の判断で必要な場合あり
- 黄色+いったん改善後に再悪化
- 医師の判断で必要な場合あり
つまり、鼻水が黄色くても10日以内に改善傾向があれば、ウイルス性の風邪と考えてよいケースがほとんどです [2][3]。逆に10日以上まったく改善しない場合や、一度良くなりかけてから再び悪化した場合は副鼻腔炎を疑い、受診をお勧めします
ポイント
- 黄色い鼻水=細菌感染、は誤解。ウイルスでも黄色くなる [3]
- 鼻水の色ではなく、持続期間と経過が判断の鍵 [2]
- 10日以上持続 or いったん改善後に再悪化 → 受診を
Q3.「『念のため抗菌薬』がダメな理由を、もう少し詳しく教えてください」
——Vol.12で耐性菌の話は聞きましたが、子どもにとって具体的にどう困るのかイメージしにくくて……
では、具体的にお話ししますね。まず、AMR(Antimicrobial Resistance=薬剤耐性)とは、抗菌薬が効かなくなる現象のことです。不要な抗菌薬を使うと、体内の常在菌(腸内細菌など)の中で耐性を持つ細菌が選択的に生き残り、増殖します [4]。これが繰り返されると、いざ本当に抗菌薬が必要な感染症にかかった時に、効く薬がなくなるのです
| 「念のため抗菌薬」の具体的リスク | 説明 |
|---|---|
| 腸内細菌叢の破壊 | 下痢・腹痛の原因。乳児では腸内フローラの発達にも影響 [5] |
| 耐性菌の選択・増殖 | 体内で耐性菌が優勢になる [4] |
| Clostridioides difficile感染 | 抗菌薬関連の重症腸炎。小児でも起こりうる [5] |
| アレルギー反応 | 薬疹、アナフィラキシーのリスク [6] |
| 将来の治療選択肢の減少 | 本当に必要な時に効く薬がない [4] |
WHOは2019年にAMRを『世界の公衆衛生に対する最大の脅威のひとつ』と宣言し、Murrayらの2022年の分析では世界で年間約127万人がAMRに直接起因して死亡しているとされます [4][7]。日本でも厚生労働省がAMR対策アクションプランを策定し、不要な抗菌薬使用の削減に取り組んでいます [2]。お子さん一人ひとりの"念のため"が積み重なって、社会全体のAMR問題につながっているのです
ポイント
- 不要な抗菌薬は腸内細菌叢の破壊、耐性菌の増殖、アレルギーなどのリスクがある [5][6]
- AMRは世界で年間127万人の死亡に関与 [7]
- 個人の「念のため」が社会全体のAMR問題に直結する [4]
Q4.「抗菌薬が本当に必要な病気を教えてください」
——効かない病気はわかりました。逆に、『これは絶対に抗菌薬が必要』という病気は何ですか?
大事なポイントですね。細菌が原因であることが確認された、または強く疑われる感染症には、抗菌薬は命を救う大切な薬です [2]。子どもで代表的なものをまとめます
特徴
- 溶連菌感染症
- 高熱+激しい喉の痛み、咳・鼻水なし [8]
- 尿路感染症
- 乳児では発熱のみの場合も。幼児では頻尿・排尿痛 [9]
- 細菌性肺炎
- 高熱+咳+呼吸困難。胸部X線で確認
- 急性中耳炎(重症例)
- 耳痛+鼓膜の発赤・膨隆 [2]
- 百日咳
- 特有の咳発作。乳児は重症化リスク大
- 細菌性髄膜炎
- 高熱+嘔吐+意識障害
抗菌薬の役割
- 溶連菌感染症
- リウマチ熱予防。10日間内服必須
- 尿路感染症
- 腎盂腎炎への進展予防
- 細菌性肺炎
- 重症化・合併症予防
- 急性中耳炎(重症例)
- 軽症は経過観察可。重症は抗菌薬
- 百日咳
- 周囲への感染拡大予防にも重要
- 細菌性髄膜炎
- 緊急。即座の治療が必要
溶連菌は迅速検査で5〜10分で診断でき(Vol.51参照)、尿路感染症は尿検査で確認できます。つまり、『本当に必要なケース』は検査で確認してから使うのが原則です [2][8]。検査なしに『とりあえず出す』のは適正使用とは言えません
ポイント
- 溶連菌、尿路感染症、細菌性肺炎、重症中耳炎などには抗菌薬が不可欠 [2]
- 検査で細菌感染を確認してから使うのが適正使用の原則
- 溶連菌は迅速検査、尿路感染症は尿検査で確認可能 [8][9]
Q5.「医師に抗菌薬を求めてしまう保護者の気持ちも理解してほしいのですが……」
——正直、子どもが高熱で辛そうにしていると、『何か薬を出してあげて!』と思ってしまいます
そのお気持ちは当然です。お子さんが辛そうなのを見て何もしてあげられないのは、ご両親にとって一番つらいことですよね。ただ、知っていただきたいのは、抗菌薬を出さないことは『何もしない』のではなく、『不要な害を与えない』という積極的な医療判断だということです [2]
——受診の時に何を聞けばいいですか?
こんな質問をしていただけると、医師としてもとてもありがたいです
| 受診時に使える質問 | 期待できる回答 |
|---|---|
| 「これはウイルスですか?細菌ですか?」 | 原因微生物についての説明 |
| 「抗菌薬は必要ですか?」 | 必要/不要の理由の説明 |
| 「何日くらい続いたら再受診すべきですか?」 | 経過観察の目安と再受診のタイミング |
| 「家でできることはありますか?」 | ホームケアの具体策 |
そしてもうひとつ。もし抗菌薬が処方されたら、必ず処方された日数分を飲み切ってください。途中で『元気になったからやめよう』とすると、生き残った細菌が耐性を獲得するリスクが高まります [10]。出す時はしっかり飲み切る、出さない時は出さない理由を理解する。これが抗菌薬適正使用の両輪です
ポイント
- 抗菌薬を出さないのは「不要な害を与えない」積極的な医療判断 [2]
- 受診時は「ウイルスか細菌か」「何日続いたら再受診か」を質問する
- 処方されたら必ず飲み切る。出す時も出さない時も、理由を理解することが大切 [10]
Q6.「Vol.12からアップデートされた情報はありますか?」
——Vol.12を読んだのがかなり前なので、最新の状況も知りたいです
日本のAMR対策は着実に進んでいます。厚生労働省のAMR対策アクションプラン(2023-2027)では、2027年までに外来における抗菌薬処方量のさらなる削減目標が掲げられています [11]。小児科領域でも、日本小児科学会と日本小児感染症学会が共同で小児抗菌薬適正使用支援(AS: Antimicrobial Stewardship)の推進を呼びかけており [12]、『風邪に抗菌薬を出さない』ことは現在の小児医療の標準です
Vol.12時点(2019年頃)
- 厚生労働省の手引き
- 第二版(2019年)
- AMR対策アクションプラン
- 2016-2020
- 小児のAS推進
- 始まったばかり
- 外来抗菌薬処方量
- 削減傾向開始
- 国民の認知度
- 低い
現在
- 厚生労働省の手引き
- 第三版も視野に [2][11]
- AMR対策アクションプラン
- 2023-2027に更新 [11]
- 小児のAS推進
- 学会主導で全国的に展開 [12]
- 外来抗菌薬処方量
- さらなる削減を達成中 [11]
- 国民の認知度
- 徐々に向上。でもまだ道半ば
『風邪に抗菌薬は不要』は、もはや一部の先進的な医師の考えではなく、国を挙げた取り組みの中核です。保護者の皆さんが正しい知識を持つことが、AMR対策の最前線を支えています
ポイント
- 日本のAMR対策は2023-2027アクションプランで新段階に [11]
- 「風邪に抗菌薬は不要」は小児医療の標準になっている [12]
- 保護者の正しい理解がAMR対策の最前線を支える
まとめ
- 風邪の約90%はウイルスが原因。抗菌薬はウイルスには効かない [1][2]
- 黄色い鼻水=細菌感染は誤解。持続期間と経過で判断する [3]
- 「念のため抗菌薬」は耐性菌(AMR)を生む最大の原因。世界で年間127万人が死亡 [4][7]
- 溶連菌、尿路感染症、細菌性肺炎など、本当に必要なケースでは抗菌薬は命を救う [2][8]
- 処方されたら必ず飲み切る。出さないと言われたら理由を理解し、再受診の目安を確認する [10]
- 「風邪に抗菌薬は不要」は国を挙げた取り組みの中核 [11][12]
あわせて読みたい
- Vol.12「風邪に抗生物質の誤解」
- Vol.51「溶連菌感染症」
- Vol.42「子どもの中耳炎」
- Vol.62「マイコプラズマ肺炎」
- Vol.85「百日咳」
ご質問・ご感想
「以前は抗菌薬を出してもらえないと不安だった」「この記事を読んで考えが変わった」など、ご感想やご質問がございましたら、お気軽にお寄せください。保護者の皆さんの理解が、お子さんの未来の健康を守ります。
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