愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.117
見えにくいSOSに気づくために、発達障害の二次障害
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
発達障害は本人の脳の特性です。ただ、その特性が周囲にうまく受け止められないまま時間が経つと、不安・抑うつ・不登校・自己肯定感の低下といった「二次障害」が後からついてきます。二次障害はあとから生まれるものなので、早く気づけば十分に予防できます。今回はそのポイントをお話しします。
Q1.「二次障害とは何ですか?」
——発達障害の二次障害という言葉を聞きました。どういう意味ですか?
二次障害は、発達障害そのものの症状ではありません。周囲の対応や環境が本人の特性と合わないまま時間が経った結果、後から出てくる心理・行動面の問題のことです [1]。たとえばADHDのお子さんが、学校で毎日のように叱られ続けると、『自分はダメだ』と思い込むようになる。やがて意欲が落ちたり、学校に行けなくなったりします。
| 分類 | 具体例 |
|---|---|
| 内在化障害 | 不安障害、抑うつ、心身症、自己肯定感の低下 |
| 外在化障害 | 反抗挑戦性障害、素行障害、暴力、非行 |
| 社会的問題 | 不登校、引きこもり、いじめ被害・加害 |
ポイント
- 二次障害は発達障害そのものではなく、環境との不一致から生じる
- 内在化(不安・抑うつ)と外在化(反抗・非行)の2タイプがある
- 二次障害は適切な対応で予防できる
Q2.「なぜ二次障害が起こるのですか?」
——どうして発達障害があると二次障害が起きやすいのですか?
発達障害のあるお子さんは、同じことをやるにも他の子の何倍も努力が要ります。それなのに結果が出にくい。この経験を繰り返し積み重ねてしまうのです [2]。ADHDの子は、注意を持続させること自体が脳の特性として難しい。なのに『集中しなさい』と繰り返し叱られる。ASDの子は、空気や暗黙のルールを直感で読み取るのが難しい。なのに『空気を読みなさい』と求められる。『頑張っているのに認められない』経験が積み重なると、自己肯定感がじわじわ削れていき、二次障害につながります [3]。
| リスク因子 | 説明 |
|---|---|
| 叱責の蓄積 | 毎日繰り返される否定的なフィードバック |
| 失敗体験の積み重ね | 努力しても結果が出ない経験 |
| 孤立 | 友人関係の困難、いじめ |
| 過剰適応 | 無理に周囲に合わせ続けることによる疲弊 |
| 診断の遅れ | 特性が理解されないまま不適切な対応が続く |
ポイント
- 「頑張っているのに認められない」経験の蓄積が原因
- 叱責・失敗・孤立・過剰適応がリスク因子
- 診断の遅れが二次障害のリスクを高める
Q3.「二次障害のサインはどう見分けますか?」
——二次障害が始まっているサインを見分ける方法はありますか?
以下のような変化が見られたら、二次障害の可能性を考えてください [4]。
| 注意すべきサイン | 具体的な変化 |
|---|---|
| 意欲の低下 | 「どうせ自分には無理」という発言が増える |
| 身体症状 | 頭痛・腹痛・朝起きられないなどの心身症 |
| 行動の変化 | 攻撃的になる、反抗が激しくなる |
| 退行 | 以前できていたことができなくなる |
| 回避 | 学校や特定の活動を避けるようになる |
「一番の手がかりは、『以前と比べて変わった』という親御さんの直感です。『最近なんだか元気がない』『急に怒りっぽくなった』、この感覚は外来でも大切にしています。」
ポイント
- 意欲低下、身体症状、行動変化、退行、回避がサイン
- 「以前と比べて変わった」という直感を大切に
- 早期発見が早期対応につながる
Q4.「二次障害を予防するにはどうすればいいですか?」
——二次障害を防ぐために、家庭でできることはありますか?
二次障害予防の鍵は、『安全基地』としての家庭環境を整えることです [5]。具体的には以下の3つが重要です。
| 予防の柱 | 具体的な方法 |
|---|---|
| ①ありのままを認める | 結果ではなくプロセスを褒める。「頑張ったね」「工夫したね」 |
| ②環境を調整する | 苦手なことを減らし、得意なことを伸ばす環境づくり |
| ③相談先を確保する | 療育、スクールカウンセラー、ペアレントトレーニングの活用 |
「叱る回数を減らし、褒める回数を増やす。これがいちばん効きます。ペアレントトレーニングの現場では『肯定的な声かけを否定的な声かけより多めに』と指導するのが通例です [6]。叱らざるをえない場面でも、行動を叱る。人格は否定しない。ここを分けるだけで、お子さんの受け止め方が変わります。」
ポイント
- 家庭を「安全基地」にすることが最大の予防
- 肯定的な声かけを否定的な声かけより多めにすることを目指す(要確認:5:1などの具体的な比率はペアトレ現場の経験則で、強いエビデンスはない)
- 人格ではなく行動に焦点を当てる
Q5.「すでに二次障害が出ている場合はどうしますか?」
——すでに不登校が始まっています。どうすればいいですか?
まず前提として、お子さんはエネルギーが底をついている状態です [7]。無理に登校させようとしないでください。休息と安心の確保、ここが最優先です。
| ステップ | 対応 |
|---|---|
| ①休息 | 安全な環境で心身を休ませる |
| ②つながり | 信頼できる大人(カウンセラー、医師)とつながる |
| ③環境調整 | 学校との連携、合理的配慮の相談 |
| ④段階的復帰 | 別室登校、短時間登校など柔軟な対応 |
「二次障害の治療では、原因になっている環境要因を整えることが欠かせません。お子さん本人を『治す』のではなく、周りの環境のほうを変える。これが本質です。必要があれば児童精神科にもおつなぎします。」
ポイント
- まず休息と安心の確保が最優先
- お子さんではなく環境を変えることが治療の本質
- 段階的な復帰と専門家との連携が重要
今号のまとめ
- 二次障害は発達障害そのものではなく、環境との不一致から生じる予防可能な問題です
- 叱責の蓄積、失敗体験、孤立、過剰適応がリスク因子です
- 「以前と比べて変わった」という保護者の直感を大切にしてください
- 家庭を安全基地にし、褒める回数を増やすことが最大の予防策です
- すでに二次障害がある場合は、休息と環境調整が最優先です
あわせて読みたい
- Vol.101「ADHD(注意欠如・多動症)の基礎」
- Vol.099「自閉スペクトラム症(ASD)の基礎」
- Vol.134「発達障害と不登校」
- Vol.138「ペアレントトレーニング」
ご質問・ご感想
「うちの子も二次障害かもしれない」「こうやって回復しました」など、ご経験やご質問がございましたら、お気軽にお寄せください。
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