出産後、涙が止まらなくなったり、赤ちゃんのお世話をする気力が湧かなくなったりした経験はありませんか。それは決して「甘え」ではありません。今号では、産後うつの早期発見に役立つスクリーニングツール「EPDS」と、いつ受診すべきかの判断基準をお伝えします。
マタニティブルーズと産後うつの違い#
出産後の気分の変化には、大きく分けて2つのパターンがあります。
マタニティブルーズ
- 発症時期
- 産後3〜5日
- 持続期間
- 2週間以内に自然軽快
- 頻度
- 30〜50%の産婦
- 治療
- 経過観察で改善
産後うつ
- 発症時期
- 産後2週〜数か月
- 持続期間
- 2週間以上持続
- 頻度
- 約14.3%(日本のメタ解析) [1]
- 治療
- 専門的な介入が必要
マタニティブルーズはホルモンの急激な変動による一過性の反応で、多くの場合は自然に収まります。一方、産後うつ病は日常生活に支障をきたす持続的な状態であり、放置すると母子関係や子どもの発達にも影響が及ぶことが報告されています [2]。
EPDSとは何ですか#
エジンバラ産後うつ病質問票(Edinburgh Postnatal Depression Scale: EPDS)は、産後うつのスクリーニングに世界で最も広く使われている自己記入式の質問票です [3]。10項目の質問に0〜3点で回答し、合計点で評価します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 質問数 | 10問 |
| 所要時間 | 約5分 |
| 対象 | 産後の母親(父親用の研究もあり) |
| 日本語版カットオフ | 9点以上で産後うつの可能性 [1] |
| 感度 | 75%、特異度 93%(日本語版) [1] |
日本産婦人科医会は産後健診でのEPDS実施を推奨しており、産後2週間健診や1か月健診で行われることが増えています。
受診の目安はどこにありますか#
以下のような状態が2週間以上続く場合は、産婦人科やかかりつけ医、精神科への相談をおすすめします。
- 理由もなく涙が出る、悲しくなる
- 赤ちゃんに愛情を感じられない
- 眠れない(赤ちゃんが寝ていても寝つけない)
- 食欲の著しい変化
- 強い不安感や焦燥感が続く
- 「自分は母親失格だ」と繰り返し考える
- 集中できない、判断ができない
リスク因子としては、うつ病の既往、妊娠中の不安やうつ症状、社会的サポートの不足、睡眠不足、経済的困難などが挙げられています [4]。ただし、リスク因子がなくても発症することはあります。
相談先を整理します#
| 相談先 | 特徴 |
|---|---|
| 産婦人科(出産した施設) | 産後の経過を把握しているため話が早い |
| かかりつけ小児科 | 乳児健診の機会に相談できる |
| 精神科・心療内科 | 薬物療法が必要な場合の専門対応 |
| 保健センター・保健師 | 訪問相談や地域の支援につないでもらえる |
| #8000(小児救急電話相談) | 子どもの症状と合わせて相談可能 |
軽症から中等症では認知行動療法(CBT)や対人関係療法(IPT)が有効であり、中等症から重症では抗うつ薬(SSRI)の使用も検討されます。授乳中でも比較的安全に使える薬剤があり、主治医と相談のうえ授乳を続けながら治療できるケースが多いです [5]。