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「朝起きられないのは怠けじゃない」、起立性調節障害(OD)を知っていますか
Vol.78心臓・血管

「朝起きられないのは怠けじゃない」、起立性調節障害(OD)を知っていますか

起立性調節障害(OD)は自律神経の調節不全。思春期に多く、「怠け」ではない

心臓・血管6〜12歳16
おかもん先生小児科専門医愛育病院 小児科

参考文献 12·Q&A 5問収録

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この記事のポイント

  • 起立性調節障害(OD)は自律神経の調節不全。思春期に多く、「怠け」ではない
  • 新起立試験で客観的に診断できる。4つのサブタイプがある
  • 治療の基本は非薬物療法(水分・塩分・生活指導)。学校との連携が鍵

愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.78

「朝起きられないのは怠けじゃない」、起立性調節障害(OD)を知っていますか

今号のポイント

  1. 2
    起立性調節障害(OD)は自律神経の調節不全。思春期に多く、「怠け」ではない
  2. 4
    新起立試験で客観的に診断できる。4つのサブタイプがある
  3. 6
    治療の基本は非薬物療法(水分・塩分・生活指導)。学校との連携が鍵

こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。

「毎朝起こしても起きられない」「午前中はぐったりしているのに、夕方から元気になる」、こうしたお子さんの姿を見て、「怠けているんじゃないか」「学校に行きたくないだけなのでは」と悩んでいる保護者の方は少なくありません。

しかし、こうした症状の背景に起立性調節障害(OD: Orthostatic Dysregulation)という、自律神経の病気が隠れていることがあります。ODは思春期の子どもに非常に多く、日本の中学生の約10%が該当するともいわれています [1]。今回は、ODについて詳しくお伝えします。

Q1.「起立性調節障害って何ですか?うちの子は怠けているだけですか?」

——中学生の息子が、毎朝起きられなくて学校に遅刻ばかりです。夕方になると元気なので、怠けているだけなのかと思ってしまいます……

お気持ちはよくわかります。でも、起立性調節障害(OD)は、自律神経の調節がうまくいかなくなる、れっきとした身体の病気です [1][2]。怠けでも、気持ちの問題でもありません

人間は立ち上がると、重力によって血液が下半身に移動します。通常は自律神経がすぐに反応して、心拍数を上げたり末梢の血管を収縮させたりして、脳への血流を維持します [1]。しかしODのお子さんは、この自律神経の調節がうまく働かず、立ち上がった時に脳への血流が十分に保てないのです [1][2]。その結果、朝起きられない、立ちくらみ、めまい、頭痛、倦怠感といった症状が出ます

項目内容
疾患名起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation: OD)[1]
病態自律神経による循環調節の障害 [1][2]
好発年齢10〜16歳(思春期)[1][3]
有病率小学生の約5%、中学生の約10% [1]
性差女子にやや多い(男女比 1:1.5〜2)[3]
本質身体の病気であり、怠けや精神的な問題ではない [1][2]
ODの主な症状 [1][2]特徴
朝起きられない自律神経の覚醒が遅れる
立ちくらみ・めまい脳血流の低下
頭痛午前中に強い
倦怠感・疲れやすさ特に午前中
動悸立ち上がった時に心拍数が過剰に上昇
食欲不振・腹痛午前中に多い
午後〜夕方に改善自律神経の調節が追いつく

特に大事なのは、"夕方になると元気"は怠けの証拠ではなく、ODの典型的な特徴であるということです [1]。自律神経の調節は1日の中で変動し、午後になるにつれて改善するため、夕方は比較的元気に見えるのです

ポイント

  • ODは自律神経の調節不全による身体の病気 [1][2]
  • 思春期に多く、中学生の約10%に見られる [1]
  • 朝起きられず夕方元気なのは「怠け」ではなくODの特徴 [1]

Q2.「ODにはいくつかの種類があると聞きました」

——検査で"体位性頻脈"と言われたのですが、ODにも種類があるのですか?

はい。ODには4つのサブタイプがあります [1][3][4]。どのタイプかによって症状の出方や治療の優先順位が少し変わります

特徴

起立直後性低血圧(INOH)
立ち上がった直後に血圧が急激に低下し、回復が遅い [1][4]
体位性頻脈症候群(POTS)
立ち上がると心拍数が異常に上昇する(35bpm以上の増加 or 115bpm以上)[1][4]
血管迷走神経性失神(VVS)
長時間の起立で血圧が急低下し、失神する [1][4]
遅延性起立性低血圧(delayed OH)
起立後3〜10分以上経ってから血圧が低下する [1][4]

頻度

起立直後性低血圧(INOH)
最も多い
体位性頻脈症候群(POTS)
多い
血管迷走神経性失神(VVS)
やや少ない
遅延性起立性低血圧(delayed OH)
少ない

最も多いのは起立直後性低血圧(INOH)で、立った瞬間に血圧がガクッと下がるタイプです [1]。次に多いのが体位性頻脈症候群(POTS)で、心拍数が跳ね上がるタイプです。お子さんの場合はPOTSですね

サブタイプ血圧の変化心拍数の変化主な症状
INOH起立直後に低下軽度上昇立ちくらみ、ふらつき [4]
POTS正常〜軽度低下著明に上昇動悸、息切れ、疲労感 [4]
VVS起立中に急低下急低下(徐脈)失神 [4]
delayed OH起立後しばらくして低下様々遅れて出る立ちくらみ [4]

複数のサブタイプが重複することもあります [3]。また、同じお子さんでも体調や季節によって症状の出方が変わることがあります

ポイント

  • ODには4つのサブタイプがある [1][4]
  • 最も多いのは起立直後性低血圧(INOH) [1]
  • サブタイプによって症状の出方が異なるため、正確な診断が重要 [3][4]

Q3.「どうやって診断するんですか?」

——ODかどうか、検査でわかるものですか?

はい。新起立試験(Active Standing Test)という検査で診断します [1][5]。この検査は、小児心身医学会のガイドラインで推奨されている標準的な検査方法です [5]

新起立試験の手順 [1][5]:

内容

1. 安静臥位
ベッドに仰向けで横になり、安静にする
2. 臥位の測定
血圧と心拍数を測定する
3. 起立
ベッドから自力で立ち上がる
4. 起立後の測定
立った直後、1分後、3分後、5分後、7分後、10分後に血圧・心拍数を測定 [5]
5. 症状の評価
めまい、ふらつき、動悸、気分不良などを記録

時間

1. 安静臥位
10分間
2. 臥位の測定
3. 起立
4. 起立後の測定
10分間
5. 症状の評価

起立後の血圧の変動と心拍数の変動を見ることで、ODかどうか、どのサブタイプかを判定します [5]。自覚症状だけでなく、客観的なデータで診断できるのがこの検査の良いところです

診断基準の例 [1][5]数値
INOH起立直後の収縮期血圧が臥位より20mmHg以上低下、または回復に25秒以上
POTS起立後の心拍数増加が35bpm以上、または心拍数が115bpm以上
VVS起立中に急激な血圧低下+徐脈→失神
delayed OH起立後3〜10分以上経ってから収縮期血圧が15%以上低下

加えて、他の病気を除外することも重要です [3]。貧血、甲状腺疾患、心疾患、てんかんなどが似た症状を出すことがあるため、血液検査や心電図なども行います [3][5]

除外すべき疾患 [3]検査
鉄欠乏性貧血血液検査(Hb、フェリチン)
甲状腺疾患TSH、FT4
心疾患(不整脈など)心電図、心エコー
てんかん脳波(失神を繰り返す場合)
副腎不全コルチゾール

ポイント

  • 新起立試験(10分間の血圧・心拍モニタリング)で客観的に診断 [1][5]
  • サブタイプごとに診断基準が異なる [5]
  • 貧血や甲状腺疾患など、他の病気の除外も必要 [3]

Q4.「治療はどうするんですか?」

——ODと診断されたら、どんな治療をするのですか?

ODの治療の第一歩は、薬ではなく、生活指導(非薬物療法)です [1][5][6]。地味に感じるかもしれませんが、これが治療の土台であり、非常に重要です

非薬物療法(第一選択)[1][5][6]:

具体的な内容

水分摂取
1日1.5〜2リットルの水分を意識して摂る [1][6]
塩分摂取
1日10g程度の塩分を意識して摂る [1][6]
起立訓練
壁に背中をつけて立ち、毎日少しずつ起立時間を延ばす [5]
急に立たない
起床時は30秒以上かけてゆっくり立つ。頭を下げながら立つ [1]
弾性ストッキング(圧迫靴下)
医療用の着圧ソックスを着用 [5][6]
規則正しい生活
日中は横にならない。夜は23時までに就寝 [1]
軽い運動
散歩、水泳など(脱水に注意)[6]

目的

水分摂取
循環血液量を増やす
塩分摂取
循環血液量を増やす
起立訓練
起立耐性を高める
急に立たない
急激な血圧低下を防ぐ
弾性ストッキング(圧迫靴下)
下肢への血液貯留を防ぐ
規則正しい生活
自律神経のリズムを整える
軽い運動
下肢筋力を維持し静脈還流を改善

水分2リットル、塩分10gは、一般的な健康指導とは逆のアドバイスに聞こえるかもしれませんが、ODのお子さんは循環血液量が少ない傾向があるため、積極的な水分・塩分補給が必要なのです [1][6]

薬物療法(非薬物療法で改善しない場合)[1][5][6]:

作用

ミドドリン塩酸塩(メトリジン)
末梢血管を収縮させ、血圧を維持 [1][6]
プロプラノロール
心拍数を抑える [6]
ドロキシドパ
ノルアドレナリン前駆体、血圧維持 [5]
フルドロコルチゾン
循環血液量を増加 [6]

適応

ミドドリン塩酸塩(メトリジン)
起立直後性低血圧(INOH)が中心
プロプラノロール
体位性頻脈症候群(POTS)
ドロキシドパ
重症例
フルドロコルチゾン
海外で使用されることがある

薬物療法はあくまで補助的なものです [5]。非薬物療法をしっかり続けた上で、改善が不十分な場合に薬を追加するというのが基本的な考え方です。ミドドリン(メトリジン)が最もよく使われ、朝の症状を和らげる効果があります [1][6]

ポイント

  • 治療の基本は非薬物療法(水分2L、塩分10g、起立訓練、圧迫靴下)[1][5][6]
  • 薬物療法は補助的。第一選択はミドドリン(メトリジン)[1][6]
  • 非薬物療法を続けることが最も大切 [5]

Q5.「学校に行けない日が増えています。不登校とはどう違うのですか?」

——朝起きられないので学校に遅刻や欠席が増えています。先生に"怠けでは?"と言われてしまい、本人もつらそうです

ODのお子さんにとって、学校との関係は治療と同じくらい重要な問題です [1][7]。まず大前提として、ODは身体の病気であり、朝起きられないのは"怠け"でも"気持ちの問題"でもありません [1][2]。このことを、学校の先生方にも理解していただく必要があります

ODと不登校の関係 [1][7][8]内容
ODと不登校の合併OD患者の約30〜40%が不登校を経験する [7]
ODが先か、不登校が先かODの身体症状→学校に行けない→二次的に精神的問題が加わる、というパターンが多い [7]
心理的要因の合併ODの長期化により、不安、抑うつ、自己肯定感の低下が生じることがある [7][8]
予後適切な対応で多くは数年以内に改善するが、一部は成人後も持続 [1][3]

学校との連携で大切なポイントをお伝えします

学校への具体的な働きかけ [1][7][8]:

対応具体的な内容
診断書の活用「起立性調節障害」の診断書を学校に提出し、遅刻・欠席が疾患によるものであることを伝える [7]
午後からの登校朝がつらい場合は午後からの登校を認めてもらう [1][7]
保健室登校まずは保健室に来ることから始める [7]
体育の配慮長時間の起立(朝礼など)を免除してもらう [1]
試験の配慮午前の試験が受けられない場合、別室・別日での受験を相談 [8]
担任・養護教諭との連携定期的に情報共有し、お子さんの状態を理解してもらう [7]

『行けるときに行く』という柔軟な姿勢が大切です [7]。全日登校にこだわると、お子さんも保護者も疲弊してしまいます。午後から2時間だけ、保健室だけ、好きな授業だけ、どんな形でも学校との接点を保つことが、長期的な回復につながります [7][8]

そして忘れないでほしいのは、ODの予後は比較的良好だということです [1][3]。軽症例の約80%は適切な治療と生活指導で数年以内に改善します [1]。中等症〜重症でも、成長とともに自律神経が成熟し、徐々に良くなっていくケースが多いです。焦らず、お子さんのペースを尊重してあげてください

ODの予後 [1][3]内容
軽症約80%が数年以内に改善
中等症〜重症改善に時間がかかるが、多くは成長とともに軽快
成人への持続一部の患者では成人後も症状が残ることがある
心理的サポート二次的な不安・抑うつへの対応も重要 [7][8]

ポイント

  • ODによる遅刻・欠席は疾患によるもの。学校への説明が重要 [1][7]
  • 午後からの登校、保健室登校など柔軟な対応を [7]
  • ODの予後は比較的良好。焦らず、お子さんのペースを尊重 [1][3]

まとめ

  • 起立性調節障害(OD)は自律神経の調節不全による身体の病気 [1][2]
  • 思春期に多く、中学生の約10%に見られる。怠けではない [1]
  • 新起立試験で客観的に診断でき、4つのサブタイプがある [1][4][5]
  • 治療の基本は非薬物療法(水分2L、塩分10g、起立訓練、圧迫靴下)[1][5][6]
  • 学校との連携が鍵。午後からの登校、保健室登校など柔軟な対応を [7]
  • 予後は比較的良好。焦らず、長い目で見守ることが大切 [1][3]

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