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学習障害(LD)の基礎、読み書き計算の困難の理解と早期発見
Vol.107発達

学習障害(LD)の基礎、読み書き計算の困難の理解と早期発見

- 知的に遅れがないのに特定の学習が著しく困難な状態

発達全年齢10
おかもん先生小児科専門医愛育病院 小児科

参考文献 8·Q&A 5問収録

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この記事のポイント

  • - 知的に遅れがないのに特定の学習が著しく困難な状態
  • - 「やる気の問題」「練習不足」ではありません
  • - 脳の情報処理の特性(神経発達的な原因)です

愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.107

学習障害(LD)の基礎、読み書き計算の困難の理解と早期発見

こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。

「勉強ができない」と言われる子の中に、知的には問題ないのに特定の学習だけが極端に難しい子がいます。これが学習障害(LD / SLD: Specific Learning Disorder)です。やる気や努力不足と誤解されやすいですが、原因は脳の情報処理の特性で、本人の頑張りだけでは解決しません。今回は全体像をお話しします。

Q1.「学習障害とはどんな状態ですか?」

——小学2年生の息子は、算数は得意なのに国語のテストだけ極端にできません。これは学習障害なのでしょうか?

非常に典型的なご相談です。学習障害(限局性学習症)は、全般的な知的発達に遅れがないにもかかわらず、読み・書き・計算のいずれか(または複数)の習得と使用に著しい困難がある状態です [1][2]

DSM-5-TRでは『限局性学習症(Specific Learning Disorder: SLD)』と呼ばれ、以下のように分類されます。」

困難の領域

読字の困難を伴う
正確な単語の読み、読みの流暢性、読解
書字表出の困難を伴う
綴り、文法・句読点、文章構成
算数の困難を伴う
数の概念、計算、数学的推論

一般的な呼び方

読字の困難を伴う
ディスレクシア(読字障害)
書字表出の困難を伴う
ディスグラフィア(書字障害)
算数の困難を伴う
ディスカリキュリア(算数障害)

日本では文部科学省の令和4年(2022年)調査で、通常学級に在籍する小中学生の6.5%に学習面で著しい困難があると報告されています [3]。30人のクラスに2人前後いる計算です。

大切なのは、学習障害は『勉強全般ができない』のではなく、特定の領域に限定した困難であることです。息子さんのように算数は得意だけど読み書きが苦手、というパターンは典型的です [2]。」

ポイント

  • 知的に遅れがないのに特定の学習が著しく困難な状態
  • 「やる気の問題」「練習不足」ではありません
  • 脳の情報処理の特性(神経発達的な原因)です

Q2.「学習障害はいつ頃気づくことが多いですか?」

——もっと早く気づけたのでしょうか?振り返ると幼稚園の頃から兆候があったように思います。

学習障害が最も気づかれやすいのは小学校1〜2年生の時期です。文字の読み書きや計算の学習が本格的に始まるため、同級生との差が目立ち始めます [4]

ただし、振り返ってみると幼児期にも兆候が見られることがあります。」

時期気づきのサイン
幼児期(3〜5歳)しりとりが苦手、文字への興味が薄い、数の概念が入りにくい、手遊び歌で言葉がついていけない
小1〜2ひらがなの習得が遅い、文字を鏡文字で書く、繰り上がりの計算が定着しない
小3〜4教科書の音読が極端に遅い、漢字が覚えられない、文章問題が解けない
小5以降学習の遅れが他教科にも波及、勉強への意欲低下、自己肯定感の低下

特に注意していただきたいのは、知的に高いお子さんほど発見が遅れることです。理解力や記憶力で補ってしまうため、低学年では問題が表面化しにくく、学年が上がって学習量が増えてから急に困難が目立つことがあります。これを『マスキング効果』と呼びます [4]

ポイント

  • 小1〜2年生が最も気づかれやすい時期
  • 幼児期にも「音韻意識」の弱さとして兆候がある場合がある
  • 知的に高いお子さんほど発見が遅れやすい

Q3.「学習障害の検査はどのように行うのですか?」

——学校から『検査を受けてみては』と言われました。どのような検査をするのですか?

学習障害の評価は、複数の検査を組み合わせて総合的に行います [2][5]

代表的な検査

知能検査
WISC-V(ウィスク・ファイブ)
読み書きの検査
STRAW-R(ストロー・アール)
読みの流暢性
多層指導モデルMIMの検査
算数の検査
標準学力検査、KABC-IIの習得尺度
視覚認知検査
WAVES、フロスティッグ視知覚検査
聴覚情報処理
音韻意識検査

内容

知能検査
全般的な知的水準と認知プロフィールの評価
読み書きの検査
読み書きの正確性と流暢性の評価
読みの流暢性
読みの速度と正確性のスクリーニング
算数の検査
数処理・計算能力の評価
視覚認知検査
視覚情報処理の評価
聴覚情報処理
音の操作・識別能力の評価

WISC-Vでは、全体の知能指数(IQ)だけでなく、5つの認知領域のバランスを見ることが重要です。

例えば、『言語理解』や『流動性推理』が高いのに『処理速度』が低い場合、頭では理解しているのに書くスピードが追いつかない、という状態が推測されます。

検査結果から、『このお子さんは何が得意で、何が苦手なのか』を明確にし、具体的な支援方法を考える手がかりにすることが最も大切です [5]。」

ポイント

  • IQの数値だけでなく、認知プロフィール(得意・不得意のバランス)が重要
  • 検査は「レッテルを貼る」ためではなく「支援を考える」ために行います
  • 検査結果は学校と共有し、合理的配慮につなげましょう

Q4.「学習障害の子どもにはどんな支援が必要ですか?」

——検査で学習障害と分かった場合、どのような支援を受けられるのですか?

学習障害への支援は、大きく分けて『直接的な指導・訓練』と『合理的配慮(環境調整)』の2つがあります [5][6]

  1. 2
    直接的な指導・訓練
困難の領域主な支援方法
読みの困難音韻意識トレーニング、多感覚学習法(見て・聞いて・触って学ぶ)
書きの困難なぞり書き、視覚的手がかり、タブレットの活用
計算の困難具体物の操作、数直線、視覚化ツール
  1. 2
    合理的配慮の例
場面配慮の内容
授業中板書の写真撮影、拡大プリント、タブレット使用許可
テスト時間延長、問題の読み上げ、別室受験
宿題量の調整、代替課題(音声入力でのレポートなど)
進学入試の特別措置(時間延長、PC使用等)

2016年の障害者差別解消法の施行により、学校での合理的配慮は法的に義務化されています。お子さんに必要な配慮を学校に求めることは、保護者の当然の権利です。

大切なのは、ICT(情報通信技術)の活用です。読み書きが苦手でも、タブレットの読み上げ機能や音声入力を使えば、学習内容の理解そのものは十分にできるお子さんがたくさんいます。眼鏡をかけるのと同じように、ICTは学習のバリアフリーツールです [6]。」

ポイント

  • 合理的配慮は「ずるい」のではなく「公平にする」ためのもの
  • ICTの活用で学習のバリアは大幅に下げられる
  • 学校との連携が成功の鍵。個別の教育支援計画を作成してもらいましょう

Q5.「親として気をつけることはありますか?」

——家庭でどのように接すればよいでしょうか?つい『もっと頑張って』と言ってしまいます。

お気持ちはとてもよく分かります。でも、学習障害のお子さんにとって『もっと頑張れ』は、すでに全力で頑張っている子に対してさらに頑張れと言っているのと同じです [7][8]

学習障害のお子さんは、毎日の授業でみんなと同じようにできないつらさを抱えています。家庭が安心できる場所であることが、何より大切です。」

保護者の方にお願いしたいこと:

  1. 2

    苦手な部分より得意な部分に注目する

    • できたことを具体的に褒める
    • 好きなこと・得意なことを伸ばす機会を作る
  2. 4

    比較しない

    • きょうだいやクラスメートと比べない
    • 過去のその子自身との成長を見る
  3. 6

    学習障害についてお子さん自身にも説明する

    • 年齢に応じた説明で自分の特性を理解させる
    • 「頭が悪い」のではなく「脳の得意不得意がある」と伝える
  4. 8

    学校・専門家と積極的に連携する

    • 担任、特別支援コーディネーター、スクールカウンセラーとつながる
    • 必要に応じて通級指導教室の利用を検討する
  5. 10

    二次障害を予防する

    • 自己肯定感の低下、不登校、うつなどの兆候に注意する
    • 困っていることを言える親子関係を大切にする

学習障害のあるお子さんの中には、大人になって社会で大活躍している方がたくさんいます。スティーブン・スピルバーグ監督やリチャード・ブランソン氏もディスレクシアであることを公表しています。苦手なことがあっても、得意なことを伸ばすことで、豊かな人生を送ることは十分に可能です [8]

ポイント

  • 「頑張れ」より「大丈夫、一緒に方法を考えよう」
  • 家庭は安心して過ごせる場所であることが最優先
  • お子さんの自己肯定感を守ることが、長い目で見て最も大切です

今号のまとめ

  • 学習障害は知的に遅れがないのに特定の学習が著しく困難な状態
  • 読み・書き・計算の3つの下位分類がある
  • 通常学級の6.5%と決してまれではない(30人クラスで2人前後)
  • 合理的配慮とICT活用で学習のバリアを下げることが可能
  • 家庭では苦手な部分より得意な部分を見つけ、自己肯定感を守る

あわせて読みたい

  • Vol.108「読字障害(ディスレクシア)」
  • Vol.109「書字障害(ディスグラフィア)」
  • Vol.110「算数障害(ディスカリキュリア)」

ご質問・ご感想

学習面の困難についてお悩みのことがありましたら、お気軽にご相談ください。次回の Vol.108 からは、読字障害・書字障害・算数障害について一つずつ詳しくお話しします。

愛育病院 小児科 おかもん先生

本メルマガの内容は一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。お子さまの症状についてはかかりつけの小児科医にご相談ください。

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