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前回の Vol.111 では感覚過敏と感覚鈍麻についてお話ししました。今回は、感覚の特性とも深く関わる「偏食と発達障害」をテーマにお伝えします。 Vol.93 で子どもの一般的な偏食についてお話ししましたが、発達障害に伴う偏食は性質が異なります。 「好き嫌いが激しい」のではなく、食べることそのものに困難があるお子さんへの理解を深めましょう。
発達障害の偏食は普通の偏食とどう違うのですか?#
5歳の息子はASDの診断を受けていますが、白いご飯とパンとポテトしか食べません。普通の偏食とは違うのでしょうか?
発達障害に伴う偏食は、一般的な食べ物の好き嫌いとは質的に異なることが多いです [1][2]。
| 特徴 | 一般的な偏食 | 発達障害に伴う偏食 |
|---|---|---|
| 食べられる食品数 | 限られるがある程度の幅がある | 極端に少ない(10品目以下のことも) |
| 特定の食品へのこだわり | 緩やかな好み | 同じメーカー、同じ色、同じ温度でないと食べない |
| 年齢とともに | 徐々に改善する傾向 | 改善しにくい、または新たなこだわりが出現 |
| 新しい食品への反応 | 嫌がるが説得で試すことがある | パニック、嘔吐反射など強い拒否反応 |
| 食事場面の困難 | 食品の好き嫌いが中心 | 食器、場所、一緒に食べる人なども影響 |
特徴
食べられる食品数
一般的な偏食
限られるがある程度の幅がある
発達障害に伴う偏食
極端に少ない(10品目以下のことも)
特徴
特定の食品へのこだわり
一般的な偏食
緩やかな好み
発達障害に伴う偏食
同じメーカー、同じ色、同じ温度でないと食べない
特徴
年齢とともに
一般的な偏食
徐々に改善する傾向
発達障害に伴う偏食
改善しにくい、または新たなこだわりが出現
特徴
新しい食品への反応
一般的な偏食
嫌がるが説得で試すことがある
発達障害に伴う偏食
パニック、嘔吐反射など強い拒否反応
特徴
食事場面の困難
一般的な偏食
食品の好き嫌いが中心
発達障害に伴う偏食
食器、場所、一緒に食べる人なども影響
ASDのある子どもの約70〜90%に何らかの食行動の問題があるとされています。これは一般の子どもの偏食率(約20〜30%)と比べて非常に高い割合です [1]。
発達障害に伴う偏食の背景には、感覚の特性、こだわり、不安、口腔運動の問題など、複数の要因が絡み合っています [2]。」
なぜ特定のものしか食べないのですか?#
なぜここまで頑固に拒否するのか理解できません。原因はなんですか?
偏食の原因は一つではなく、いくつかの要因が組み合わさっていることが多いです [2][3]。
- 感覚過敏(最も多い要因)
| 感覚 | 偏食への影響 |
|---|---|
| 触覚(食感) | ドロドロ、粒々、ぬるぬるなど特定の食感が耐えられない |
| 味覚 | 苦味、酸味など特定の味に極端に敏感 |
| 嗅覚 | 食品の匂い、調理中の匂いで気持ち悪くなる |
| 視覚 | 食品の色、形、盛り付けが少しでも違うと拒否 |
| 口腔内触覚 | 温度(熱い・冷たい)への過敏 |
感覚偏食への影響
触覚(食感)
ドロドロ、粒々、ぬるぬるなど特定の食感が耐えられない
味覚
苦味、酸味など特定の味に極端に敏感
嗅覚
食品の匂い、調理中の匂いで気持ち悪くなる
視覚
食品の色、形、盛り付けが少しでも違うと拒否
口腔内触覚
温度(熱い・冷たい)への過敏
- こだわり・同一性保持
- 同じメーカーの同じ商品しか食べない
- パッケージが変わると食べなくなる
- 食べる順番が決まっている
- 食器や食べる場所が変わると食べない
- 口腔運動の問題
- 咀嚼(噛む力)が弱い
- 舌の動きが未熟で食品を奥歯に運べない
- 飲み込みの協調が苦手
- 不安・新奇恐怖(ネオフォビア)
- 見たことのない食品への強い恐怖
- 過去の嫌な経験(嘔吐等)の記憶による回避
- 内受容感覚の問題
- 空腹や満腹の感覚が分かりにくい
- 食べるタイミングのリズムが作りにくい
お子さんの偏食がどの要因によるものかを理解することが、適切な対応の第一歩です。例えば、食感が原因なら調理法の工夫が有効ですし、視覚のこだわりが原因なら見た目を変えずに栄養を工夫する方法があります [3]。
栄養面が心配です。大丈夫でしょうか?#
白いものばかり食べていて、野菜や肉はほとんど食べません。成長に影響しますか?
栄養面のご心配はもっともです。極端な偏食が続くと、いくつかの栄養素が不足するリスクがあります [4][5]。
| 不足しやすい栄養素 | 偏食パターン | 影響 |
|---|---|---|
| 鉄分 | 肉・魚を食べない | 鉄欠乏性貧血、集中力低下 |
| カルシウム | 乳製品を食べない | 骨の発達への影響 |
| ビタミンD | 魚・卵を食べない | 骨代謝への影響 |
| 食物繊維 | 野菜・果物を食べない | 便秘 |
| ビタミンA | 緑黄色野菜を食べない | 免疫力への影響 |
| 亜鉛 | 食品の種類が極端に少ない | 味覚障害、成長遅延 |
不足しやすい栄養素
鉄分
偏食パターン
肉・魚を食べない
影響
鉄欠乏性貧血、集中力低下
不足しやすい栄養素
カルシウム
偏食パターン
乳製品を食べない
影響
骨の発達への影響
不足しやすい栄養素
ビタミンD
偏食パターン
魚・卵を食べない
影響
骨代謝への影響
不足しやすい栄養素
食物繊維
偏食パターン
野菜・果物を食べない
影響
便秘
不足しやすい栄養素
ビタミンA
偏食パターン
緑黄色野菜を食べない
影響
免疫力への影響
不足しやすい栄養素
亜鉛
偏食パターン
食品の種類が極端に少ない
影響
味覚障害、成長遅延
ただし、全員が栄養不足になるわけではありません。お子さんが食べられるものの中で、ある程度の栄養バランスが取れていることもあります。
心配な場合は、以下のステップをお勧めします。
- 食事記録(3〜7日間) をつけて、実際に何をどのくらい食べているか把握する
- 血液検査 で鉄、亜鉛、ビタミンDなどの状態を確認する
- 成長曲線 で身長・体重の推移を確認する
- 不足が明らかな場合は、サプリメントや栄養補助食品の使用を検討する
栄養補助の選択肢としては、小児用マルチビタミン、鉄剤、経腸栄養剤(エンシュアなど)があります。かかりつけの小児科で相談してください [5]。」
偏食への対応で気をつけることはありますか?#
給食を残すと先生に注意されるようで、学校に行きたがりません。
まず最も大切なのは、無理に食べさせないということです [5][6]。
やってはいけない対応:
- 食べるまで席を立たせない
- 「一口だけ食べなさい」を強要する
- 食べないことを叱る・罰を与える
- 他の子と比較する
- 食べたらご褒美をあげる(食事自体がネガティブな体験になる)
効果的な対応:
| 段階 | アプローチ | 例 |
|---|---|---|
| 第1段階 | 同じテーブルに存在を許容 | お皿の上に載っているだけでOK |
| 第2段階 | 触る・匂いを嗅ぐ | フォークで突く、近くに置くだけ |
| 第3段階 | 唇に触れる | 舐めるだけ、吐き出してOK |
| 第4段階 | 口に入れる | 噛まなくてOK、吐き出してOK |
| 第5段階 | 噛んで飲み込む | ごく少量から |
段階
第1段階
アプローチ
同じテーブルに存在を許容
例
お皿の上に載っているだけでOK
段階
第2段階
アプローチ
触る・匂いを嗅ぐ
例
フォークで突く、近くに置くだけ
段階
第3段階
アプローチ
唇に触れる
例
舐めるだけ、吐き出してOK
段階
第4段階
アプローチ
口に入れる
例
噛まなくてOK、吐き出してOK
段階
第5段階
アプローチ
噛んで飲み込む
例
ごく少量から
この段階的アプローチはフードチェイニングと呼ばれます。食べられるものから少しずつ広げていく方法です [6]。
例えば、フライドポテトしか食べないお子さんなら: フライドポテト → 焼きポテト → マッシュポテト → ポテトスープ → かぼちゃスープ
のように、食感や味が近いものに少しずつ広げていきます。
また、食事環境の調整も重要です。食事中のテレビを消す、食器を統一する、食事時間を決める、楽しい雰囲気で食卓を囲むなど、食事場面自体がストレスにならない工夫をしましょう。」
専門家の支援は受けられますか?#
家庭だけでは限界を感じています。どこに相談すればいいですか?
偏食が極端で栄養面や体重増加に影響がある場合、あるいは家庭での対応に限界がある場合は、専門家の支援を受けることをお勧めします [7][8]。
| 相談先 | 支援内容 |
|---|---|
| 小児科主治医 | 栄養状態の評価、血液検査、成長のモニタリング |
| 言語聴覚士(ST) | 口腔運動の評価と訓練、摂食指導 |
| 作業療法士(OT) | 感覚の評価、感覚統合療法 |
| 管理栄養士 | 食事内容の分析、栄養指導 |
| 心理士 | 食事への不安や恐怖への対応(CBT等) |
| 摂食外来 | 包括的な摂食の評価と介入 |
相談先支援内容
小児科主治医
栄養状態の評価、血液検査、成長のモニタリング
言語聴覚士(ST)
口腔運動の評価と訓練、摂食指導
作業療法士(OT)
感覚の評価、感覚統合療法
管理栄養士
食事内容の分析、栄養指導
心理士
食事への不安や恐怖への対応(CBT等)
摂食外来
包括的な摂食の評価と介入
特に以下の場合は、早めに専門家に相談してください。
- 体重が減少している、または成長曲線から逸脱している
- 食べられる食品が10品目以下に限られている
- 水分しか摂れない状態が続いている
- 食事のたびにパニックや嘔吐がある
- ARFID(回避・制限性食物摂取症)が疑われる場合(Vol.50参照)
なお、ARFID は DSM-5-TR で定義された摂食障害の一つで、体重や外見へのこだわりはないものの、感覚過敏やネオフォビアなどにより著しい栄養不足や体重減少を引き起こす状態です [8]。」
今号のまとめ#
- 発達障害に伴う偏食は一般的な好き嫌いとは質的に異なる
- 感覚過敏・こだわり・口腔運動・不安など複数の要因がある
- 無理に食べさせることは逆効果。段階的なアプローチが大切
- 栄養面が心配な場合は食事記録と血液検査で客観的に評価する
- 極端な偏食には多職種チームでの専門的支援が有効