愛育病院 小児科おかもん だより Vol.40
「突然の高熱と、のどの奥の水ぶくれ……」、ヘルパンギーナの正しい知識
今号のポイント
- 2ヘルパンギーナは夏に流行する「夏かぜ」の代表で、突然の高熱が特徴
- 4のどの奥(軟口蓋)の水疱が診断のポイント。痛くて食べられないことも
- 6特効薬はなく、対症療法が基本。ほとんどは3〜4日で自然治癒する
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
「朝は元気だったのに、昼から急に40℃まで上がってしまって。のどが痛くて何も食べません」、夏の外来でよく聞くやりとりです。これ、ヘルパンギーナの典型です。
ヘルパンギーナは夏に流行する代表的な感染症で、手足口病と並んで「夏かぜ」と呼ばれています [1]。突然の高熱とのどの奥の水疱が目印で、乳幼児では脱水に注意が必要です [2]。
今回は症状・経過・ホームケアをまとめました。
Q1.「ヘルパンギーナってどんな病気ですか? 手足口病と何が違うんですか?」
——ヘルパンギーナという病名を初めて聞きました。どんな病気なんですか?
ヘルパンギーナ(herpangina)は、エンテロウイルスというウイルスによる感染症で、のどの奥に水疱ができる夏かぜです [1]。手足口病と同じエンテロウイルス属のウイルスが原因ですが、症状が異なります [2]
ヘルパンギーナの基本情報:
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原因ウイルス | 主にコクサッキーウイルスA群(A2, A4, A6, A10など)。まれにコクサッキーB群やEV71も [1][3] |
| 好発年齢 | 5歳以下、特に1〜4歳 [1] |
| 流行時期 | 夏(6月〜8月)がピーク [1][4] |
| 潜伏期間 | 3〜6日 [1] |
| 患者数 | 日本で年間約5〜10万人(小児科定点報告)[4] |
| 再感染 | 原因ウイルスが複数あるため、何度でも感染する [3] |
——手足口病とどう違うんですか? 両方ともエンテロウイルスが原因なんですよね?
よい質問ですね。確かに両方ともエンテロウイルスが原因ですが、発疹の場所と発熱の程度が異なります [2]
ヘルパンギーナ vs 手足口病 [2][5]:
ヘルパンギーナ
- 原因ウイルス
- 主にコクサッキーA群
- 発熱
- 高熱(38〜40℃)が突然出る
- 発疹の場所
- のどの奥のみ(軟口蓋、口蓋垂)
- 発疹の数
- 2〜10個程度(少ない)
- 経過
- 3〜4日で解熱、回復早い
手足口病
- 原因ウイルス
- コクサッキーA16, A6, EV71など
- 発熱
- 微熱(37〜38℃)または発熱なし
- 発疹の場所
- 口の中全体 + 手のひら + 足の裏
- 発疹の数
- 多数(10個以上)
- 経過
- 7〜10日かけて回復
——ヘルパンギーナのほうが熱が高いんですね
はい。ヘルパンギーナの最大の特徴は突然の高熱です [1][2]。朝は元気だったのに、昼から急に40℃近い熱が出る、というのが典型的です。一方、手足口病は微熱か、発熱しないことも多いです
ポイント
- ヘルパンギーナの原因は 主にコクサッキーウイルスA群(まれにB群やEV71も)[1][3]
- 5歳以下、特に1〜4歳。夏(6〜8月)がピーク [1][4]
- 手足口病との違い: 高熱が突然出る、発疹はのどの奥のみ [2][5]
- 何度でも感染する(原因ウイルスが複数あるため)[3]
Q2.「ヘルパンギーナの症状と経過を教えてください」
——どんな症状が出ますか? どうやって診断するんですか?
ヘルパンギーナの診断は臨床症状(発熱とのどの奥の水疱)で行います [1]。検査は通常不要です
ヘルパンギーナの典型的な症状 [1][2][6]:
① 突然の高熱(ほぼ100%)
- 38〜40℃の高熱が突然出る [1]
- 朝は元気でも、昼から急に発熱
- 2〜4日間続く(ピークは1〜2日目)
- 3〜4日目に急に解熱(ストンと下がる)[2]
② のどの奥の水疱(必発)
最も特徴的な所見 [1][6]:
- のどの奥(軟口蓋、口蓋垂=のどちんこ)に2〜10個の水疱
- 大きさ: 2〜5mm
- 水疱が破れると潰瘍(白い膜)になる
- 非常に痛い
- 2〜3日がピーク、5〜7日で治癒
場所がポイント:
- ヘルパンギーナ: のどの奥のみ(軟口蓋、扁桃周囲)
- 手足口病: 口の中全体(舌、頬の内側、前のほう)
③ のどの痛み・食欲不振(ほぼ100%)
- 食事・水分がとれない [2]
- 唾を飲み込むのも痛い
- よだれが増える(乳幼児)
- 脱水のリスク
④ その他の症状
- 全身倦怠感(だるさ)
- 頭痛
- 嘔吐(約10〜20%)[6]
- 腹痛(まれ)
——水疱はどこにできるか見てもいいですか?
もちろんです。ただし、のどの奥なので見えにくいです [6]。懐中電灯で照らして、『あー』と大きく口を開けてもらうと、のどちんこの奥に赤い粘膜に白っぽい水疱が見えることがあります。ただし、無理に見ようとして嘔吐することもあるので、受診して医師に診てもらうのが確実です
ヘルパンギーナの経過 [1][2]:
- 潜伏期間: 3〜6日
- 発症: 突然の高熱(38〜40℃)
- 1日目: 高熱、のどの奥に水疱出現
- 2〜3日目: 高熱続く、のどの痛みピーク、食事困難
- 3〜4日目: 急に解熱(ストンと下がる)
- 5〜7日目: のどの痛み改善、食事が摂れるように
- 合併症なく自然治癒
——3〜4日で急に解熱するんですね。それまでずっと高熱が続くんですか?
はい。ヘルパンギーナの特徴は、2〜4日間、高熱が続いた後、急に解熱することです [2]。保護者の方は『いつまで熱が続くんだろう』と不安になりますが、4日目くらいにストンと下がるのが典型的です。それまでは解熱剤で熱を下げても、またすぐ上がります
ポイント
- 典型的な症状: 突然の高熱(38〜40℃)+ のどの奥の水疱 [1][2]
- 水疱はのどの奥(軟口蓋)のみ。2〜10個程度 [1][6]
- のどの痛みで食事・水分がとれない。脱水に注意 [2]
- 2〜4日間高熱が続き、3〜4日目に急に解熱 [2]
- 5〜7日で自然治癒 [1]
Q3.「ヘルパンギーナの治療はどうするんですか? 高熱が続いて心配です」
——40℃の熱が3日も続いています。脳に障害が残らないか心配です
その心配はよくわかりますが、熱の高さ自体が脳にダメージを与えることはありません [7](vol.011参照)。ヘルパンギーナに特効薬はなく、治療の基本は対症療法です [1][2]
ヘルパンギーナの治療とホームケア [1][2][8]:
① 解熱剤の使用
- アセトアミノフェン(カロナール)またはイブプロフェン(ブルフェン) [7]
- 高熱でつらいときのみ使用
- 解熱剤は病気を治す薬ではなく、一時的に熱を下げて楽にする薬 [7]
- 「熱を下げないと治らない」は誤解
——解熱剤を使っても、すぐまた熱が上がります。意味がないんじゃないですか?
解熱剤の効果は4〜6時間です [7]。薬が切れれば、体内のウイルスと免疫が戦っている限り、熱は上がります。解熱剤の目的は『治すこと』ではなく『つらさを和らげること』です。熱が上がっても慌てず、水分補給を続けてください
② 水分補給(最重要)
脱水予防が最も重要 [2][8]:
- こまめに少量ずつ飲ませる
- 冷たい麦茶、イオン飲料、経口補水液(OS-1など)
- ストローやスポイトを使うと飲みやすい
- 8時間以上おしっこが出ない場合は受診 [8]
③ 食事の工夫
食べやすいもの [8]:
OK(痛みが少ない):
- 冷たいもの: アイスクリーム、シャーベット、ゼリー、プリン
- 柔らかいもの: おかゆ、うどん(細かく切る)、豆腐
- のどごしのよいもの: ヨーグルト、茶碗蒸し
- 栄養補助食品: 経口補水液、栄養ドリンク(子ども用)
NG(痛みが増す):
- 酸っぱいもの: オレンジジュース、トマト、みかん
- しょっぱいもの: 塩辛い食事
- 辛いもの: カレー、香辛料
- 硬いもの: せんべい、パン
- 熱いもの: 熱いスープ
——何も食べなくても大丈夫ですか?
3〜4日間食べなくても、水分さえ摂れていれば命に関わることはありません [8]。栄養より、まず水分補給を優先してください。アイスクリームでもゼリーでも、口から何か入れることが大切です
④ 薬
- 咳止め、痰切り: 症状に応じて
- 口腔内用軟膏: デキサメタゾン軟膏など(のどの痛み緩和)
- 抗生物質: ウイルス感染なので効かない [1]
⑤ 入浴
- 熱が下がって元気なら入浴OK [1]
- 高熱でつらいときは無理せず、体を拭く程度に
⑥ 保育園・幼稚園
- 発熱がなく、食事がとれて元気なら登園可能 [9]
- 学校保健安全法では出席停止期間の定めなし [9]
ポイント
- ヘルパンギーナに特効薬はなく、対症療法が基本 [1][2]
- 解熱剤は辛いときのみ。熱の高さ自体は脳に無害 [7]
- 水分補給が最重要。8時間以上尿なしは受診 [8]
- 冷たいものが食べやすい。アイスクリーム、ゼリーOK [8]
- 酸っぱいもの、しょっぱいもの、熱いものはNG [8]
- 抗生物質は効かない(ウイルス感染症のため)[1]
- 発熱なし、食事OK、元気なら登園可能 [9]
Q4.「合併症はありますか? 高熱が続いて心配です」
——40℃の熱が3日も続いています。何か悪い病気じゃないか心配です
ヘルパンギーナはほとんどが合併症なく自然治癒します [1]。ただし、まれに脱水や熱性けいれんを起こすことがあります [2][10]
ヘルパンギーナの合併症 [1][2][10]:
① 脱水(最も注意すべき)
- のどの痛みで飲食できず、脱水になる
- 特に乳幼児は脱水に陥りやすい [2]
脱水のサイン [8]:
- 8時間以上おしっこが出ない
- 泣いても涙が出ない
- 唇が乾いている
- ぐったりしている
- 皮膚をつまんで離しても戻らない
② 熱性けいれん
- 高熱で熱性けいれんを起こすことがある [10]
- ヘルパンギーナ特有ではなく、高熱を伴う他の病気でも起こる
- 対応: 横向き、口に何も入れない、時間を測る、5分超なら119番(vol.014参照)
③ 無菌性髄膜炎(まれ)
- 原因ウイルス(エンテロウイルス)による髄膜炎 [10]
- 症状: 頭痛、嘔吐、首が硬い
- ほとんどは後遺症なく治る
④ 心筋炎(非常にまれ)
- エンテロウイルスによる心筋炎 [10]
- 症状: 胸痛、呼吸困難、顔色不良
——どんなサインが出たら、すぐ病院に行くべきですか?
以下のサインがあれば、すぐに受診してください [2][8][10]
すぐに受診すべきサイン [2][8][10]:
緊急(救急車):
- 意識がもうろうとしている、呼びかけに反応しない
- けいれん(5分以上、または繰り返す)
- 呼吸困難(ゼーゼー、唇が紫色)
- ぐったりしている
当日受診:
- 8時間以上おしっこが出ない(脱水)
- 水分がまったく摂れない
- 頭痛がひどい、何度も嘔吐する
- 首が硬い(あごが胸につかない)
- 高熱が5日以上続く(他の病気の可能性)
翌日受診:
- のどの痛みがひどくて、まったく食べられない
- 発熱が4日以上続く
——高熱が4日続いたら受診すべきですか?
ヘルパンギーナは通常2〜4日で解熱します [2]。もし5日以上高熱が続く場合は、ヘルパンギーナ以外の病気(中耳炎、尿路感染症、川崎病など)の可能性を考えて、再度受診してください [10]
ポイント
- ほとんどは合併症なく自然治癒 [1]
- 最も注意すべき合併症は脱水 [2][8]
- まれな合併症: 熱性けいれん、無菌性髄膜炎、心筋炎 [10]
- 8時間以上尿なし、水分がまったく摂れない → すぐ受診 [8]
- 意識障害、けいれん5分以上 → 救急車 [10]
- 高熱が5日以上続く → 再受診(他の病気の可能性)[10]
Q5.「ヘルパンギーナはうつりますか? どうやって予防すればいいですか?」
——ヘルパンギーナはうつりますか? 兄弟にうつらないようにできますか?
ヘルパンギーナは感染力があり、特に保育園や幼稚園で広がりやすいです [1]。完全に予防するのは難しいですが、感染リスクを減らす方法はあります
感染経路 [1][11]:
① 飛沫感染
- 咳やくしゃみで飛び散る飛沫を吸い込む
② 接触感染
- ウイルスが付着した手、おもちゃ、タオルを介して感染
③ 糞口感染
- 便の中にウイルスが排泄される [11]
- おむつ替え後の手洗い不足で感染
- 症状が治まった後も2〜4週間、便中にウイルスが排泄される [11]
——症状が治まった後も感染力があるんですか!?
はい。手足口病と同じく、症状が消えても、便中には2〜4週間ウイルスが排泄され続けます [11]。そのため、完全に感染を防ぐのは不可能です。学校保健安全法でも出席停止期間が定められていないのは、このためです [9]
家庭内での感染予防 [1][11]:
① 手洗い(最重要)
- 石けんで15秒以上こすり洗い
- 特におむつ替え後、食事前、トイレ後
- アルコール消毒はエンテロウイルスに効きにくい [11]
② おむつ替えの注意
- 使い捨て手袋を使う
- おむつはビニール袋に入れて密閉
- おむつ替え後は石けんで手洗い
③ タオル・食器の共用を避ける
- 特にハンドタオル、バスタオル
- 食器は別々に洗う
④ おもちゃの消毒
- 塩素系消毒液(次亜塩素酸ナトリウム)で拭く
- アルコールは効きにくい [11]
⑤ 換気
- こまめに換気する
——予防接種やワクチンはないんですか?
現在、ヘルパンギーナのワクチンはありません [1]。原因ウイルスが複数あるため、ワクチン開発は困難です。感染予防の基本は手洗いです [11]
大人もうつりますか?
はい。大人も感染します [1]。ただし、大人は過去に同じウイルスに感染して免疫を持っていることが多いため、感染しても軽症か無症状のことが多いです [1]。まれに大人でも高熱とのどの強い痛みが出ることがあります
登園・登校の目安 [9]:
- 発熱がなく、食事がとれて元気なら登園可能
- 学校保健安全法では出席停止期間の定めなし [9]
- ただし、園によっては「解熱後24時間」など独自の基準がある場合も
- 回復後も便中にウイルスが排泄されるため、長期の出席停止は意味がない [9]
ポイント
- ヘルパンギーナは感染力がある(飛沫・接触・糞口感染)[1][11]
- 症状が治まった後も2〜4週間、便中にウイルス排泄 [11]
- 手洗いが最も重要(特におむつ替え後)[11]
- アルコール消毒は効きにくい。塩素系消毒液を使う [11]
- ワクチンはない [1]
- 発熱なし、食事OK、元気なら登園可能 [9]
- 大人も感染するが、軽症か無症状のことが多い [1]
まとめ
- ヘルパンギーナは主にコクサッキーウイルスA群が原因(まれにB群やEV71も)で、夏に流行。5歳以下に多い [1][3][4]
- 典型的な症状: 突然の高熱(38〜40℃)+ のどの奥の水疱 [1][2]
- 2〜4日間高熱が続き、3〜4日目に急に解熱 [2]
- 特効薬はなく、対症療法。解熱剤は辛いときのみ [1][7]
- 水分補給が最重要。冷たいもの(アイスクリーム、ゼリー)が食べやすい [8]
- 最も注意すべき合併症は脱水。8時間以上尿なし → すぐ受診 [2][8]
- 手洗いが最重要。症状消失後も2〜4週間は便中にウイルス排泄 [11]
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