愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.408
赤ちゃん返り 、 上の子のサイン
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
下のお子さんが生まれて少し経つと、「上の子がおもらしするようになった」「急に指しゃぶりが戻った」「夜泣きが復活した」と外来でご相談いただくことが増えます。これは「赤ちゃん返り(regression)」と呼ばれる現象で、発達心理学の総説でも弟妹の誕生後に一部の子に睡眠の乱れや退行行動が見られると報告されています。ただし頻度や程度には個人差が大きく、全員に出るわけではありません [1][2]。
今回は、赤ちゃん返りのメカニズムと上の子へのかかわり方についてお伝えします。
赤ちゃん返りはなぜ起こるのですか
上の子はそれまで両親の愛情を独占していました。そこに下の子が加わると、物理的にも心理的にも親の関心が分散します。上の子にとってこれは「自分の安全基地が揺らぐ」体験で、愛着システムが活性化します [1][3]。
退行行動は「赤ちゃんのように扱ってもらえば、また愛情をもらえるのではないか」という無意識の戦略です。決してわがままや悪意ではありません。
| よくみられる退行行動 | 具体例 |
|---|---|
| トイレの後退 | おもらし、夜尿の再発 |
| 指しゃぶり・おしゃぶり | やめていたのに再開 |
| 赤ちゃん言葉 | 「だっこ」「まんま」など幼い話し方 |
| 哺乳瓶・母乳要求 | 「ぼくもミルク飲みたい」 |
| 睡眠の乱れ | 夜泣き、寝付きの悪化 |
| 分離不安 | 親から離れたがらない |
| 攻撃性 | 下の子をつねる、おもちゃを取る |
Volling (2012) のシステマティックレビューでは、退行行動が出るかどうか・強さには大きな個人差があり、全員が「危機状態」になるわけではないと整理されています [1]。臨床的な実感としても、出産直後〜数週間で目立ち、多くは数か月で落ち着いていきます。
退行行動は、上の子が自分の気持ちを言葉にできない代わりに身体で訴えるサインです。叱るのではなく、受け止めるのが第一歩です。
ポイント
- 赤ちゃん返りは愛着システムの正常な反応 [1]
- 個人差が大きく、強く出る子も出ない子もいる [1][2]
- 多くは数か月で軽快していく
上の子へはどうかかわればよいですか
Kramer (2014) の研究では、下の子誕生後に「上の子と1対1の時間」を意識的に確保した家庭では、きょうだい間の攻撃行動が有意に減少したと報告されています [4]。短時間でも「この時間はあなただけのもの」というメッセージが重要です。
| 効果的なかかわり | 内容 |
|---|---|
| 1対1の時間 | 1日10〜15分でよい。絵本、散歩、お風呂など |
| 気持ちの代弁 | 「寂しかったんだね」「ママを取られた気がするね」 |
| 選択肢を与える | 「絵本とブロック、どっちにする?」と主導権を渡す |
| 役割を頼む | 「おむつ取ってくれる?」と小さなお手伝い |
| スキンシップ | ハグや頭をなでるを意識的に増やす |
逆にやってはいけないのは、「お兄ちゃんでしょ」「お姉ちゃんなんだから我慢して」という年齢を理由にした抑圧です。これは退行を悪化させるだけでなく、長期的に自己肯定感を下げることが示されています [5]。
年齢を理由に我慢を強いる言葉は、上の子から「ありのままの自分は受け入れられていない」というメッセージに変換されます。

おかもん先生より
外来で「上の子が赤ちゃんを叩いてしまって怖い」と泣きながら相談されるお母さんがたくさんいます。僕はいつも「大丈夫、その子はちゃんと発達している証拠です」と伝えます。愛されたいと感じているから退行する。それは健全さの証なんです。
ポイント
- 1対1の時間は短くても毎日 [4]
- 気持ちを代弁して受け止める
- 「お兄ちゃんだから」は使わない [5]
赤ちゃんに手を出すとき、どうしたら
上の子が下の子を叩く、つねる、おもちゃで叩こうとする、これは赤ちゃん返りの一形態で、攻撃性として現れるタイプです [6]。大切なのは「行動は止める、気持ちは認める」の原則です。
| 場面 | 対応例 |
|---|---|
| 叩こうとした瞬間 | 手を優しく止めて「叩くのはダメ」と短く |
| 止めたあと | 「悲しい気持ちだったんだね」と気持ちを言語化 |
| 落ち着いたあと | 「嫌な時はママに言ってね」と代替行動を提示 |
| やさしくできた時 | 大げさに褒める(「ありがとう、助かったよ」) |
小さな子ほど、否定の言葉より「代わりにどうすればいいか」を教えることが効果的です [6]。
| 絶対に避けたい対応 | 理由 |
|---|---|
| 赤ちゃんと二人きりにする | 予期せぬ事故のリスク |
| 「ひどい子」「意地悪」とレッテル | 自己像の悪化 |
| 比較する(「赤ちゃんの方がいい子」) | 嫉妬の増幅 |
| 厳罰で抑え込む | 表面化は消えるが、陰で続く |
ポイント
- 行動は止める、気持ちは認める [6]
- 代替行動を教える
- 二人きりにせず、やさしくできた時を褒める
どのくらい続いたら心配ですか
多くの赤ちゃん返りは3〜6か月で自然軽快します [1]。ただし以下のような場合は、単なる退行以上の支援が必要かもしれません。
| 受診・相談の目安 | 詳細 |
|---|---|
| 6か月以上続く | 家族全体の関係性を見直す |
| 眠れない・食べられない | 心身症状が強い |
| 自分を傷つける | 自傷傾向は早めの相談を |
| 保育園で集団に入れない | 分離不安の強化 |
| 親が追いつめられている | 親のケアが最優先 |
大事なのは「親が一人で抱え込まない」ことです [5]。保健師さん、かかりつけ医、子育て支援センターなど、話せる場所を複数持っておくだけで、親子のしんどさはかなり軽くなります。
疲れきった親から優しさは出ません。自分の休息を罪悪感なく取ってください。
ポイント
- 多くは3〜6か月で軽快 [1]
- 6か月以上続く、心身症状が強い時は相談
- 親自身のケアが子どものケアの前提
下の子が生まれる前にできる準備はありますか
Feinberg ら (2016) のランダム化比較試験では、妊娠中から「上の子向けの準備プログラム」を受けた家庭は、出産後のきょうだい葛藤が有意に少なかったと報告されています [7]。準備のポイントは「予告」と「役割」です。
| 準備 | 具体的な方法 |
|---|---|
| 赤ちゃんの話をする | お腹を触らせる、エコー写真を見せる |
| 絵本を読む | 「お兄ちゃんになる」をテーマにした絵本 |
| 病院訪問 | 入院先や健診に一緒に行く |
| 生活の変化を予告 | 「ママは数日入院するよ」と事前に伝える |
| 祖父母との練習 | 入院中に預ける場合、事前に慣らす |
| 役割を与える | 「赤ちゃんのお世話、手伝ってね」 |
ただし、「赤ちゃんが来たら楽しいよ」と良いことばかり強調するのは逆効果です [7]。「赤ちゃんが泣いてママが忙しくなる日もあるよ」と、現実を正直に伝える方が、上の子は混乱しません。
ポイント
- 妊娠中からの準備が出産後の葛藤を減らす [7]
- 良いことだけでなく、現実も正直に伝える
- 役割を与えることで「必要とされている」実感を
今号のまとめ
- 赤ちゃん返りは愛着システムの正常な反応であり、上の子の健全な発達のサイン
- 多くは3〜6か月以内に自然軽快する
- 1対1の時間、気持ちの代弁、スキンシップが効果的
- 「お兄ちゃんだから」で我慢を強いない
- 行動は止める、気持ちは認める
- 6か月以上続くときは抱え込まず相談を
あわせて読みたい
- Vol.412「二人目出産、上の子のケア」
- Vol.415「上の子の『ママ見て』の裏側」
- Vol.416「下の子にきつく当たる」
ご質問・ご感想
「赤ちゃん返りがひどくてつらい」「いつまで続くか不安」などのご相談は、外来で遠慮なくお声がけください。
愛育病院 小児科 おかもん先生
本メルマガの内容は一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。お子さまの症状については、かかりつけの小児科医にご相談ください。