愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.403
失敗を受け入れる力、レジリエンスを育てる関わり
「失敗するとすごく泣いちゃうんです。もう少し強くなってほしくて」。外来で何度も聞く相談です。
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
「強い子」と「折れない子」は違います。泣いてもいい、しゃがみ込んでもいい。そのうえで、また立ち上がる足腰を育てる。今回はそのためのエビデンスと具体的な関わり方をお伝えします。
レジリエンスは生まれつきではなく、関係性の中で育つ
レジリエンス(resilience)は一般に「逆境から回復する力」と訳されます。古い心理学ではこれを個人の気質と捉えていましたが、現在のコンセンサスは「関係性と環境の中で育つスキル」です。特に「1人以上の安定した愛着関係」が、レジリエンスの最大の保護因子であることは、発達心理学のメタ解析で一貫して示されています [1]。
つまり、レジリエンスを育てる最短ルートは、子どもを鍛えることではなく、子どもが安全に戻れる関係性を保つことです。
親が「失敗」をどう捉えているかを、子どもは見ている
2025年にFrontiers in Psychologyに掲載された中国の中学生2,546名を対象とした研究では、親が「失敗は成長の機会である」と捉えていることを子が知覚していると、子の学業的レジリエンスが有意に高くなりました。この関係は成長マインドセットが媒介していました [2]。
これは重要です。親が口で「失敗していいんだよ」と言うだけではダメで、親自身が日常の失敗(料理の失敗、仕事のミス、運転の間違い)にどう反応しているかを子どもは見ている、ということです。舌打ちするのか、笑って「やり直そう」と言うのか。子どものレジリエンスは親のレジリエンスの鏡です。
(1) 感情の受容:「悔しいよね」「泣きたいよね」 (2) 事実の整理:「何が起きたか、教えてくれる?」 (3) 次の一歩:「次はどうしてみたい?」。評価(「お前が悪い」「仕方ない」)を飛ばして、感情→事実→次、の順で進むのがポイントです。
学校ベースの介入も効果がある
2017年にJ Am Acad Child Adolesc Psychiatryに掲載された系統的レビューでは、学校ベースのレジリエンス介入プログラム(認知行動療法的アプローチ、マインドフルネス、ピアサポートなど)は、児童・思春期のメンタルヘルス指標(不安・うつ症状、内在化問題など)に小〜中程度の効果を示しました [3]。
家庭と学校、両方で同じ方向の声かけができると、子どもにとっての学習は格段に加速します。担任の先生と「失敗に対してどう声をかけているか」を共有しておくのは、実はとても有効な連携です。
「先回りしすぎない」という勇気
レジリエンスを育てる上で親にとって一番難しいのは、助けすぎないことです。転ぶ前に支える、間違う前に教える、つまずく前に道を均す。親の愛情の自然な表れですが、これは筋肉を使わせないギプスのようなものです。
発達段階に応じて、年齢相応の「小さな困難」は子ども自身に経験させる。転んでも大怪我しない範囲で失敗を許す。これが「生産的な困難(productive struggle)」と呼ばれる概念で、認知発達にも情動発達にも必要な栄養です [4]。

おかもん先生より
外来で「習い事を辞めたがってるんです」と相談されたとき、私がよく聞くのは「本人にとって『乗り越える経験』と『撤退する経験』、どちらが今必要ですか?」です。答えは家庭によって違います。重要なのは、どちらを選んでも「失敗」ではないと親が理解していることです。辞めるのは逃げではなく、戦略的撤退の練習でもあります。
「打たれ強くする」のではなく「戻れる場所を作る」
最後に強調しておきたいのは、レジリエンスは「打たれ強くすること」ではないという点です。家族の温かさ、予測可能な日常、困ったときに助けを求められる関係。これらの保護因子が整っていれば、子どもは自然と「折れても立ち上がる」を経験できます。
「泣かずに我慢できた」「辛くても黙ってやり切った」はレジリエンスではなく、感情の抑圧です。長期的には心身の健康を削ります。泣いていい、弱音を吐いていい、その上で次の一歩、が健全なレジリエンスの姿です。
今号のまとめ
- レジリエンスは気質ではなく関係性の中で育つスキル
- 親自身が失敗をどう扱っているかが子の成長マインドセットを予測
- 失敗時は感情受容→事実整理→次の一歩、の順で
- 学校ベース介入は不安・うつ軽減と学業改善に中程度の効果
- レジリエンスは「我慢」とは違う。弱音を許す関係性が土台
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ご質問・ご感想
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愛育病院 小児科 おかもん先生
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