コンテンツへスキップ
MINATON
ワクチンの"賞味期限"を知っていますか?、百日咳ワクチンの追加接種が必要な理由
Vol.151予防接種

ワクチンの"賞味期限"を知っていますか?、百日咳ワクチンの追加接種が必要な理由

百日咳ワクチン(4種混合)の効果は接種後5〜8年で減弱する。学童期以降は免疫が低下している可能性がある

予防接種全年齢15
おかもん先生小児科専門医愛育病院 小児科

参考文献 16·Q&A 5問収録

プロフィール →

この記事のポイント

  • 百日咳ワクチン(4種混合)の効果は接種後5〜8年で減弱する。学童期以降は免疫が低下している可能性がある
  • 2024年4月から5種混合ワクチン(DPT-IPV-Hib)が導入され、就学前の追加接種(3種混合)も推奨されるようになった
  • 新生児・乳児を守るためには、家族全員の免疫を維持する「コクーン戦略」が重要

愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.151

ワクチンの"賞味期限"を知っていますか?、百日咳ワクチンの追加接種が必要な理由

今号のポイント

  1. 2
    百日咳ワクチン(4種混合)の効果は接種後5〜8年で減弱する。学童期以降は免疫が低下している可能性がある
  2. 4
    2024年4月から5種混合ワクチン(DPT-IPV-Hib)が導入され、就学前の追加接種(3種混合)も推奨されるようになった
  3. 6
    新生児・乳児を守るためには、家族全員の免疫を維持する「コクーン戦略」が重要

こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。

Vol.85では百日咳の症状と治療についてお伝えしました。今回は、近年特に注目されている百日咳ワクチンの効果の減弱と追加接種の必要性にフォーカスします。

「ワクチンを打ったから一生安心」、残念ながら、百日咳に関してはそうではないのです [1][2]。現在日本で使用されている無細胞百日咳ワクチン(aP: acellular pertussis)の効果は5〜8年で有意に低下することが明らかになっています [1][2][3]。この「ワクチンの賞味期限」を知り、適切な追加接種で家族を守る方法をお伝えします。

Q1.「百日咳ワクチンの効果が弱まるとはどういうことですか?」

——4種混合ワクチンを全部打ち終わったのに、それでも百日咳にかかる可能性があるんですか?

はい、残念ながらその可能性はあります [1][2]。百日咳ワクチンの効果は時間とともに低下するのです

百日咳ワクチン効果の経年変化 [1][2][3]:

追加接種からの期間ワクチン効果(推定)
接種直後(1年以内)約85〜90% [1]
3年後約70〜80% [2]
5年後約50〜70% [2][3]
8〜10年後約30〜40% [3]

4種混合ワクチンの追加接種(4回目)は生後12〜18ヶ月に行います [4]。そこから5〜8年が経過する小学校中〜高学年(7〜10歳頃)には、ワクチンの効果がかなり低下していることになります [1][2]

なぜ百日咳ワクチンの効果は長続きしないのか [1][5]:

要因説明
無細胞ワクチン(aP)の特性日本で使用されるaPワクチンは副反応が少ない代わりに、全菌体ワクチン(wP)に比べて免疫持続期間が短い [1][5]
誘導される免疫の質aPワクチンはTh2型免疫を中心に誘導し、感染防御に重要なTh1/Th17型免疫の誘導が弱い [5]
百日咳菌の変異百日咳菌はワクチン抗原と異なる型に変異しつつあるとの報告がある [5]

世界的に見た百日咳の再興 [1][3][6]:

状況
アメリカ2012年に約4万8千人の大流行。aPワクチン効果減弱が主因 [3]
オーストラリア2008〜2012年に大規模流行。学童期のブースター接種が導入 [6]
イギリス2012年に乳児の百日咳死亡が増加。妊婦への接種を開始 [6]
日本2018年に報告数が急増。年長児・成人の報告が増加傾向 [7]

ポイント

  • 百日咳ワクチンの効果は5〜8年で有意に減弱 [1][2]
  • 小学校中〜高学年以降は免疫が低下している可能性がある [2][3]
  • 無細胞ワクチン(aP)は安全だが、免疫持続期間が短いのが課題 [1][5]
  • 世界各国で百日咳の再興が問題になっている [3][6]

Q2.「日本の現在の接種スケジュールはどうなっていますか?」

——4種混合と5種混合、どう違うんですか? うちの子はどちらを打てばいいですか?

2024年4月から、日本では5種混合ワクチン(DPT-IPV-Hib)が定期接種に導入されました [4][8]。これまでの4種混合にHib(ヒブ)ワクチンが加わったものです

4種混合と5種混合の比較 [4][8]:

4種混合(DPT-IPV)

含まれる成分
ジフテリア(D)、百日咳(P)、破傷風(T)、ポリオ(IPV)
接種回数
4回+Hib4回=計8回の注射
導入時期
2012年〜
百日咳成分
同等

5種混合(DPT-IPV-Hib)

含まれる成分
左記+ヒブ(Hib)
接種回数
4回で完了(注射回数が半減)
導入時期
2024年4月〜
百日咳成分
同等

現在の接種スケジュール [4][8]:

時期

初回1回目
生後2ヶ月
初回2回目
生後3ヶ月
初回3回目
生後4ヶ月
追加接種
生後12〜18ヶ月

ワクチン

初回1回目
5種混合(または4種混合+Hib)
初回2回目
5種混合(または4種混合+Hib)
初回3回目
5種混合(または4種混合+Hib)
追加接種
5種混合(または4種混合+Hib)

ここまでは従来と同じスケジュールです。問題はその後です [1][2]。追加接種(4回目)から就学時(6〜7歳)までに約5年が経過します。この間にワクチン効果が低下していくのです

就学前の追加接種(任意接種)の推奨 [4][8][9]:

項目内容
推奨されている追加接種就学前(5〜6歳)に3種混合ワクチン(DPT)を任意接種 [9]
目的低下した百日咳・ジフテリア・破傷風の免疫をブースト [9]
日本小児科学会の推奨「就学前の3種混合ワクチン接種を推奨する」[9]
費用任意接種のため自己負担(地域による助成あり)
接種可能な時期MRワクチン2期と同時接種が可能 [9]

——任意接種ということは、自費なんですね。でも大切なんですか?

はい、非常に大切です [9]。日本小児科学会も推奨しています。一部の自治体では助成が始まっていますので、お住まいの自治体に確認されることをおすすめします。MRワクチン2期(就学前)と同時に接種するのが効率的です [9]

ポイント

  • 2024年4月から5種混合ワクチンが導入。注射回数が半減 [8]
  • 追加接種(4回目)から就学までに約5年。この間にワクチン効果が低下 [1][2]
  • 日本小児科学会は就学前の3種混合(DPT)追加接種を推奨 [9]
  • MRワクチン2期と同時接種が可能 [9]

Q3.「コクーン戦略とは何ですか? 家族も接種が必要ですか?」

——生後2ヶ月の赤ちゃんがいます。赤ちゃんを百日咳から守るにはどうすればいいですか?

まさに最も大切なご質問です。生後6ヶ月未満の赤ちゃんは百日咳で重症化・死亡するリスクが最も高いのですが、ワクチンによる免疫がまだ十分についていません [10][11]。そこで重要なのがコクーン戦略(cocoon strategy: 繭戦略)です [11]

コクーン戦略とは [11]:

項目内容
概念赤ちゃんの周囲にいる家族・接触者がワクチンを接種し、赤ちゃんを"繭(まゆ)"のように守る [11]
対象両親、きょうだい、祖父母、保育者など赤ちゃんと密接に接触する人
理由乳児の百日咳の感染源の約75〜80%は家族(特に母親・父親・きょうだい)[11][12]

乳児の百日咳の感染源 [11][12]:

感染源割合
母親約30〜40%
父親約15〜20%
きょうだい約20〜25%
祖父母・その他の家族約10〜15%
家族以外約10〜15%

つまり、赤ちゃんが百日咳にかかるのは、ほとんどの場合"家族からの感染"なのです [11][12]。しかも、成人や年長児の百日咳は軽症(長引く咳だけ)で、本人も百日咳とは気づかないことが多いのです [10]

日本でのコクーン戦略の実践 [9][11]:

対象推奨される対応
きょうだい(年長児)就学前の3種混合ワクチン追加接種 [9]
両親3種混合ワクチンの任意接種を検討(特に最終接種から10年以上経過している場合)[11]
祖父母赤ちゃんと頻繁に接触する場合は接種を検討 [11]

——大人でも百日咳のワクチンを受けられるんですか?

はい。日本では成人向けの百日咳単独ワクチンはありませんが、3種混合ワクチン(DPT)を任意接種として受けることができます [9]。海外ではTdap(成人用の百日咳含有ワクチン)が広く使われており、妊婦への接種も推奨されています [6][13]

ポイント

  • 乳児の百日咳の感染源の75〜80%は家族 [11][12]
  • コクーン戦略: 赤ちゃんの周囲の家族がワクチンを接種して守る [11]
  • きょうだいの就学前3種混合追加接種が重要 [9]
  • 成人も3種混合ワクチン(DPT)の任意接種が可能 [9]

Q4.「海外と日本の接種スケジュールの違いはありますか?」

——海外ではもっと頻繁にブースター接種をすると聞きました。日本は遅れているのですか?

日本と海外では、百日咳ワクチンの追加接種スケジュールに大きな違いがあります [6][9][13]。比較してみましょう

日本と主要国の百日咳ワクチン接種スケジュール比較 [6][9][13][14]:

日本アメリカイギリスオーストラリア
乳児期(初回3回+追加1回)2, 3, 4ヶ月+12〜18ヶ月2, 4, 6ヶ月+15〜18ヶ月2, 3, 4ヶ月+3歳3ヶ月2, 4, 6ヶ月+18ヶ月
就学前ブースター任意(DPT)[9]定期(DTaP 4〜6歳)定期(3歳3ヶ月)定期(DTPa 4歳)
思春期ブースターなし定期(Tdap 11〜12歳)定期(14歳)定期(dTpa 12〜13歳)
妊婦への接種なし毎妊娠27〜36週にTdap [13]毎妊娠16〜32週にTdap毎妊娠28〜32週にTdap
成人ブースターなし10年ごとにTdap [13]なし50歳でdTpa

ご覧の通り、日本には学童期以降の定期的なブースター接種がありません [9]。アメリカやオーストラリアでは、就学前、思春期、そして妊婦への接種が定期プログラムに組み込まれています [6][13]。さらに、アメリカでは妊娠のたびにTdapワクチンを接種し、胎盤経由で赤ちゃんに抗体を移行させる戦略をとっています [13]

妊婦へのTdap接種の効果(海外のデータ)[13][15]:

効果データ
新生児の百日咳予防効果約90〜93%(生後2ヶ月まで)[15]
乳児の入院予防効果約91%(生後3ヶ月まで)[15]
メカニズム母体で産生された抗体が胎盤を通じて赤ちゃんに移行(移行抗体)[13]

——日本でも妊婦への接種はできないのですか?

現時点では日本のガイドラインでは妊婦への百日咳含有ワクチンは定期接種に含まれていませんが、将来的な導入が議論されています [9]。現状では、きょうだいの就学前DPT追加接種+家族のワクチン歴の確認が日本で実践可能な最善の対策です [9][11]

ポイント

  • 海外では就学前・思春期・妊婦への百日咳ブースターが定期接種 [6][13]
  • アメリカでは妊娠のたびにTdap接種。新生児への予防効果は約90% [13][15]
  • 日本には学童期以降の定期ブースターがないのが現状の課題 [9]
  • 現時点での日本での最善策は就学前DPT追加接種+コクーン戦略 [9][11]

Q5.「百日咳が疑われたら、どうすればいいですか?(Vol.85の復習)」

——もし百日咳かもしれないと思ったら、どう対応すればいいですか?

Vol.85でも詳しくお伝えしましたが、大切なポイントを復習しましょう [10]

百日咳を疑うべき症状 [10][16]:

年齢疑うべき症状
乳児(6ヶ月未満)無呼吸発作、チアノーゼ、咳後嘔吐、哺乳力低下 [10]
幼児〜学童2週間以上続く咳、連続する咳込み+whoop(ヒューッ)、咳後嘔吐 [10]
思春期〜成人2〜3週間以上続く咳(whoopは出ないことが多い)[16]

受診の目安 [10]:

状況対応
乳児の咳で息が止まる・顔色が悪くなるすぐに救急受診
2週間以上咳が続いているかかりつけ小児科に相談
家族に百日咳と診断された人がいる乳児がいる場合はすぐに受診し、予防投薬を相談

特に成人の百日咳は"長引く咳"だけが症状のことが多く、見逃されやすいです [16]。"もう3週間も咳が止まらない"、こうした状況では百日咳の可能性を考えてください。成人の百日咳そのものは命に関わることは少ないですが、そこから赤ちゃんに感染させてしまうことが最大の問題です [11][12]

ポイント

  • 乳児の無呼吸発作・チアノーゼは緊急受診 [10]
  • 成人の「3週間以上続く咳」は百日咳の可能性 [16]
  • 家族に百日咳患者→乳児がいれば予防投薬を相談 [10]
  • 詳しくはVol.85「百日咳」もあわせてお読みください

まとめ

  • 百日咳ワクチン(無細胞ワクチン)の効果は5〜8年で有意に減弱する [1][2][3]
  • 2024年4月から5種混合ワクチンが導入。接種回数が4回に集約 [8]
  • 日本小児科学会は就学前の3種混合(DPT)追加接種を推奨 [9]
  • 乳児の百日咳の感染源の75〜80%は家族。コクーン戦略で赤ちゃんを守る [11][12]
  • 海外では妊婦・思春期の定期ブースターが標準。日本でも家族の免疫維持が重要 [6][13]

あわせて読みたい

ご質問・ご感想

「就学前のDPT追加接種はどこで受けられますか?」「助成はありますか?」など、ご質問がございましたらお気軽にお寄せください。外来受診時にお声がけいただくか、質問フォームからどうぞ。

愛育病院 小児科 おかもん先生

本メルマガの内容は一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。お子さまの症状についてはかかりつけの小児科医にご相談ください。

この記事は役に立ちましたか?

※ この記事は一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。お子さんの症状が心配な場合は、かかりつけの小児科医にご相談ください。

関連記事