愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.362
「自分の時間がない」:育児中の自己消失感
トイレすら一人で行けない。好きだった音楽を最後に聴いたのはいつだろう。鏡に映る自分が、誰だかわからなくなる。
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
厚生労働省の調査では、育児中のお母さんのおよそ7割が「自分の自由な時間がない」ことに強いストレスを感じていると報告されています [1]。今回は、育児中の「自己消失感」と、そこから少しずつ自分を取り戻す方法を一緒に考えます。
「自分が消えていく」。その感覚は、あなたが弱いからじゃない
自分のアイデンティティが「お母さん」だけに縮小して、それ以外の自分が見えなくなる。心理学ではこれを「マターナル・デプレション」と呼ぶことがあります。単なる「忙しさ」の問題ではなく、自律性(autonomy)の喪失です。自己決定理論では、自律性が長期間満たされないとうつや無気力につながることが示されています [2]。
0~1歳児の育児では、お母さんは1日あたり平均7.4時間を育児に、家事を含めると10時間以上を費やしています [1]。「やったことリスト」を書いてみてください。「何もできていない」のではなく、見えにくいことをやり続けているのです。育児は高度な感情労働と身体労働の連続です [4]。
「やるべきことリスト」ではなく「やったことリスト」を毎晩書いてください。子どもが無事に1日を過ごせたこと自体が成果です。
15分の「自分だけの時間」は、贅沢じゃない。必要なケアです
子どもを置いて自分の時間を取るなんて、わがままでしょうか。いいえ、わがままではありません。お母さんが自分の時間を確保することは、子どもの養育の質を維持するために必要なことです。
研究では、お母さんの主観的な幸福感(well-being)が高いほど子どもへの応答性が高く、養育の質が良好であることが示されています [3]。お母さんが自分を犠牲にし続けることは、結果的に子どもにとってもマイナスになりうるのです。
「マイクロ・ミータイム」を提案させてください。15分の短い時間でも、意識的に「自分だけの時間」として確保する方法です。子どもの昼寝中に家事ではなく自分のために使う。パートナーに15分だけ子どもを見てもらってコーヒーを飲む。朝15分早く起きて静かな時間を持つ。お風呂の時間を5分延ばす。
15分は短いと思うかもしれません。でも毎日の15分が積み重なると「自分はまだここにいる」という感覚を取り戻す力になります。
「俺だって疲れてる」で終わらせない。お互いの「ミータイム」を設定する
パートナーに話しても「俺だって疲れてる」と言われる。「どちらが大変か競争」は不毛です。ただし、育児における負担の非対称性は客観的に存在します。日本の調査では、6歳未満の子を持つ夫の家事・育児関連時間は1日平均1時間54分、妻は7時間28分(令和3年社会生活基本調査)と、依然として大きな差があります [5]。国際比較でも日本の夫の家事・育児時間は先進国の中で短い水準にとどまっています。
パートナーに伝えるときのコツがあります。「あなたも大変だと思う。そのうえで、私の状況も聞いてほしい」と前置きする。「手伝って」ではなく「15分ひとりの時間がほしい」と具体的なニーズを伝える。週末に30分ずつお互いの「ミータイム」を設定する。「大変さ比べ」ではなく「どうすればお互い少し楽になるか」の相談にするのがポイントです。

おかもん先生より
まずは今週、15分だけ。それがあなたを取り戻す最初の一歩です。港区の一時保育はリフレッシュ目的でも利用可能です。子どもを預けて休むのは贅沢ではなく、必要なケアです。
今号のまとめ
- 育児中の母親のおよそ7割が「自分の時間がない」にストレスを感じている
- 自己消失感は自律性の喪失による正常な心理的反応
- 母親のwell-beingは子どもの養育の質に直結する
- 15分の「マイクロ・ミータイム」を毎日の習慣にする
- 港区の一時保育はリフレッシュ目的でも利用可能
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ご質問・ご感想
「こうやって自分の時間を確保しています」「こんなことでリフレッシュしています」など、体験談やご質問がございましたら、お気軽にお寄せください。
愛育病院 小児科 おかもん先生
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