愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.197
「気管支炎と肺炎、何が違うの?」、見分け方と受診の目安
今号のポイント
- 2気管支炎はほとんどがウイルス性で自然に治るが、肺炎は細菌性の場合に抗菌薬が必要なことがある
- 4「呼吸が速い」「肩で息をする」「肋骨の間がへこむ」は肺炎を疑う重要なサイン
- 6すべての咳に胸部レントゲンや抗菌薬が必要なわけではない
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
「気管支炎と言われたけど、肺炎とは何が違うのですか?」「咳が続いて肺炎になってしまわないか心配です」、こんなご質問をよくいただきます。
「気管支炎」と「肺炎」は、どちらも下気道の感染症ですが、炎症が起きている場所や原因、重症度が異なります。今回は、この2つの違いと、受診すべきタイミングについて詳しく解説します。
Q1.「気管支炎と肺炎は、何が違うのですか?」
——先日、子どもが咳がひどくて受診したら"気管支炎ですね"と言われました。肺炎とは違うのですか?
はい、違います。簡単に言うと、炎症が起きている場所が違うんです。
気道の構造と炎症の場所:
場所
- 上気道
- 鼻〜のど(喉頭まで)
- 気管・気管支
- のど〜肺の手前の管
- 肺胞(肺実質)
- 肺の奥にある小さな袋
炎症が起きたら
- 上気道
- 風邪(上気道炎)
- 気管・気管支
- 気管支炎 [1]
- 肺胞(肺実質)
- 肺炎 [2]
気管支炎と肺炎の比較:
気管支炎
- 炎症の場所
- 気管支の粘膜 [1]
- 主な原因
- ほとんどがウイルス(90%以上)[1]
- よくある原因微生物
- RSウイルス、ライノウイルス、インフルエンザなど [1]
- 発熱
- ないこともある。あっても軽度のことが多い [1]
- 咳の特徴
- 湿った咳、痰がからむ [1]
- 呼吸困難
- 通常なし(喘鳴を伴うことはある)[1]
- 聴診所見
- 粗い呼吸音、rhonchi(いびき様音)[1]
- 胸部X線
- 通常正常 [1]
- 治療
- 対症療法(ウイルス性のため抗菌薬不要)[1]
肺炎
- 炎症の場所
- 肺胞(肺実質)[2]
- 主な原因
- ウイルスまたは細菌 [2][3]
- よくある原因微生物
- 肺炎球菌、マイコプラズマ、RSウイルスなど [3]
- 発熱
- 高熱(38.5℃以上)が続くことが多い [2]
- 咳の特徴
- 湿った咳に加え、呼吸困難を伴うことがある [2]
- 呼吸困難
- ある(多呼吸、陥没呼吸)[2]
- 聴診所見
- crackles(パチパチ音)、呼吸音の減弱 [2]
- 胸部X線
- 浸潤影、コンソリデーション [2]
- 治療
- 細菌性なら抗菌薬が必要 [2][3]
ポイント
- 気管支炎は気管支の粘膜の炎症で、ほとんどがウイルス性 [1]
- 肺炎は肺実質(肺胞)の炎症で、細菌性の場合は抗菌薬が必要 [2][3]
- 気管支炎から肺炎に「進展する」こともあるが、すべてが肺炎になるわけではない
Q2.「原因のウイルスや細菌はどう違うのですか?」
——ウイルスと細菌で原因が違うのですね。年齢によっても違いますか?
はい。年齢によって原因微生物の割合が大きく異なります [3]。これは治療方針にも直結する大切なポイントです。
年齢別の主な原因微生物:
気管支炎の主な原因
- 生後3ヶ月未満
- RSウイルス [1]
- 3ヶ月〜5歳
- RSウイルス、ライノウイルス、パラインフルエンザ [1]
- 5歳以上
- ライノウイルス、インフルエンザ [1]
肺炎の主な原因
- 生後3ヶ月未満
- B群溶連菌、大腸菌、クラミジア [3]
- 3ヶ月〜5歳
- ウイルス性が最多(RSウイルス、インフルエンザ)、肺炎球菌 [3][4]
- 5歳以上
- マイコプラズマ、肺炎球菌、インフルエンザ [3][4]
重要な知識: 肺炎の原因の多くはウイルスである
2015年のJainらの大規模研究(CDC EPIC Study)[4] によると、入院を要した小児の市中肺炎2,222例で病原体が検出されたのは81%で、内訳は以下でした。
- ウイルスが1つ以上検出された: 約73%(うち単独66%、細菌との混合7%)
- 細菌が検出された: 約15%(うち単独8%、ウイルスとの混合7%)
- 病原体が検出されなかった: 約19%
つまり、子どもの肺炎の多くは実はウイルス性であり、必ずしも抗菌薬が必要なわけではありません [4]。
細菌性肺炎を示唆する所見 [2][3]:
- 高熱(39℃以上)が持続する
- CRP・白血球・プロカルシトニンが高値
- 胸部X線で限局性の浸潤影(lobar consolidation)
- 全身状態が悪い(ぐったり、食欲低下)
ポイント
- 子どもの肺炎の約73%はウイルスが原因。抗菌薬が必要な細菌性肺炎は約15% [4]
- 5歳以上ではマイコプラズマ肺炎が重要な原因となる [3](参考: vol062)
- 年齢と臨床所見から原因微生物を推定し、抗菌薬の必要性を判断します [2][3]
Q3.「診断はどうやってするのですか?胸のレントゲンは必要ですか?」
——咳がひどいとレントゲンを撮ることがありますが、毎回必要なのですか?
いいえ。すべての咳の子にレントゲンが必要なわけではありません [5]。
診断の流れ:
内容
- 1. 問診
- 症状の経過
- 2. 身体診察
- 聴診・視診
- 3. 検査(必要時)
- 画像・血液検査
詳細
- 1. 問診
- 発熱の程度・期間、咳の性状、呼吸困難の有無
- 2. 身体診察
- 呼吸数、陥没呼吸、SpO2、聴診所見 [2]
- 3. 検査(必要時)
- 肺炎が疑われる場合のみ [2][5]
聴診で分かること:
意味
- Rhonchi(いびき様連続音)
- 太い気管支の分泌物
- Wheezes(笛声音)
- 細い気管支の狭窄
- Crackles(断続音)
- 肺胞の液体貯留
- 呼吸音減弱
- 肺の含気低下
示唆する疾患
- Rhonchi(いびき様連続音)
- 気管支炎 [1]
- Wheezes(笛声音)
- 喘息、細気管支炎
- Crackles(断続音)
- 肺炎 [2]
- 呼吸音減弱
- 肺炎(コンソリデーション)、胸水 [2]
胸部X線の適応:
- 高熱が続き、聴診で局所的な異常がある場合 [2][5]
- 呼吸困難(多呼吸、陥没呼吸、SpO2低下)がある場合 [2]
- 抗菌薬治療に反応しない場合 [5]
- 合併症(胸水、膿胸、肺膿瘍)が疑われる場合 [5]
血液検査の意義:
細菌性肺炎で
- 白血球数
- 上昇(好中球優位)
- CRP
- 高値(>4-6 mg/dL)
- プロカルシトニン
- 高値(>0.5 ng/mL)[6]
ウイルス性肺炎で
- 白血球数
- 正常〜やや上昇(リンパ球優位)
- CRP
- 正常〜軽度上昇
- プロカルシトニン
- 正常〜低値
プロカルシトニンは細菌感染のマーカーとして注目されており、抗菌薬の適応判断に役立つとされています [6]。
ポイント
- すべての咳にレントゲンが必要なわけではない。聴診と全身状態の評価が基本 [2][5]
- 聴診でcrackles(パチパチ音)が聞こえたら肺炎を疑う [2]
- 血液検査のCRP・プロカルシトニンが細菌性 vs ウイルス性の判断に有用 [6]
Q4.「治療はどう違うのですか?」
——気管支炎でも抗生物質を出されることがあるのですが、本当に必要なのですか?
気管支炎のほとんどはウイルス性なので、抗菌薬は原則不要です [1][7]。ただし、細菌性肺炎には抗菌薬が必要です。
気管支炎の治療:
内容
- 対症療法
- 水分補給、安静、加湿
- 解熱鎮痛薬
- アセトアミノフェン
- 鼻吸引
- 鼻づまりの解消
- 抗菌薬
- 原則不要 [1][7]
- 咳止め(中枢性鎮咳薬)
- 推奨されない [7]
- 気管支拡張薬
- 喘鳴がある場合に検討
備考
- 対症療法
- 基本中の基本 [1]
- 解熱鎮痛薬
- 高熱で辛い場合
- 鼻吸引
- 乳幼児に特に有効
- 抗菌薬
- ウイルス性に抗菌薬は無効
- 咳止め(中枢性鎮咳薬)
- 小児では効果のエビデンスが乏しく、副作用のリスクあり
- 気管支拡張薬
- 効果は限定的 [1]
細菌性肺炎の治療:
第一選択薬
- 生後3ヶ月未満
- アンピシリン + ゲンタマイシン(入院)[3]
- 3ヶ月〜5歳(外来)
- アモキシシリン(高用量)[2][3]
- 5歳以上(外来)
- アモキシシリン または マクロライド系 [2][3]
- 入院が必要な場合
- アンピシリン静注 ± マクロライド [3]
投与期間
- 生後3ヶ月未満
- 医師の判断
- 3ヶ月〜5歳(外来)
- 7〜10日間
- 5歳以上(外来)
- 5〜10日間
- 入院が必要な場合
- 医師の判断
入院が必要な場合の目安 [2]:
- SpO2 < 92%(酸素飽和度が低い)
- 水分摂取ができない
- ぐったりしている
- 生後3ヶ月未満
- 治療に反応しない
ポイント
- 気管支炎は対症療法が基本。抗菌薬は原則不要 [1][7]
- 細菌性肺炎の外来治療の第一選択はアモキシシリン [2][3]
- 咳止め(中枢性鎮咳薬)は小児では推奨されない [7]
- SpO2低下、水分摂取不能、ぐったりしている場合は入院の適応 [2]
Q5.「受診の目安を教えてください。どんな時に救急に行くべきですか?」
——咳がひどい時、どこまで家で様子を見ていいのか分かりません。
呼吸の状態を注意深く観察することが最も大切です。以下のサインがあれば、すぐに受診してください。
すぐに受診すべきサイン(呼吸のレッドフラッグ):
見方
- 多呼吸(呼吸数の増加)
- 安静時の1分間の呼吸数を数える
- 陥没呼吸
- 肋骨の間や鎖骨の上がへこむ
- 鼻翼呼吸
- 鼻の穴がピクピク広がる
- 肩呼吸
- 肩を上下させて呼吸する
- チアノーゼ
- 唇や爪が紫色になる
- うなり声(grunting)
- 息を吐く時にうーんと声が出る
- SpO2 < 94%
- パルスオキシメーターで測定
意味
- 多呼吸(呼吸数の増加)
- 肺炎の最も感度の高いサイン [2][8]
- 陥没呼吸
- 呼吸努力の増大 [2]
- 鼻翼呼吸
- 呼吸困難のサイン [2]
- 肩呼吸
- 呼吸補助筋の使用
- チアノーゼ
- 低酸素。緊急受診 [2]
- うなり声(grunting)
- 肺胞虚脱を防ぐ反応。重症のサイン [2]
- SpO2 < 94%
- 低酸素血症 [2]
年齢別の多呼吸の基準(WHO IMCIは5歳未満まで。5歳以上は一般的な目安)[8]:
正常な呼吸数
- 2ヶ月未満
- 40〜60回/分
- 2〜12ヶ月
- 25〜40回/分
- 1〜5歳
- 20〜30回/分
- 5歳以上
- 15〜25回/分
多呼吸の基準
- 2ヶ月未満
- 60回/分以上(WHO)
- 2〜12ヶ月
- 50回/分以上(WHO)
- 1〜5歳
- 40回/分以上(WHO)
- 5歳以上
- 30回/分以上(参考値)
家庭で様子を見てよい場合:
- 熱はあるが、機嫌がよく遊べている
- 水分・食事が摂れている
- 呼吸が穏やかで、上記のレッドフラッグがない
- SpO2が94%以上(パルスオキシメーターがある場合)
翌日の診療時間内に受診すべき場合:
- 咳が1週間以上続き、改善傾向がない
- 微熱が続く
- 食欲の低下が目立つ
- 元気がない
ポイント
- 呼吸数の増加(多呼吸)は肺炎を疑う最も感度の高いサインです [2][8]
- 陥没呼吸・鼻翼呼吸・チアノーゼ・うなり声は緊急受診のサイン [2]
- 安静時の呼吸数を数えることは、家庭でもできる大切な観察ポイントです [8]
まとめ
気管支炎と肺炎の違いを最後に整理します。
気管支炎
- 炎症の場所
- 気管支粘膜
- 主な原因
- ウイルス(90%以上)
- 発熱
- 軽度〜なし
- 呼吸困難
- 通常なし
- 聴診
- Rhonchi
- レントゲン
- 通常正常
- 治療
- 対症療法(抗菌薬不要)
- 受診の目安
- 1週間以上改善しない場合
肺炎
- 炎症の場所
- 肺実質(肺胞)
- 主な原因
- ウイルスまたは細菌
- 発熱
- 高熱が続くことが多い
- 呼吸困難
- あり(多呼吸、陥没呼吸)
- 聴診
- Crackles、呼吸音減弱
- レントゲン
- 浸潤影あり
- 治療
- 細菌性なら抗菌薬
- 受診の目安
- 呼吸困難、高熱持続、ぐったり
咳が続くと心配になりますが、多くの場合は自然に治る気管支炎です。一方で、呼吸が速い・苦しそう・高熱が続く場合は肺炎の可能性があります。お子さんの呼吸の様子をよく観察し、心配な症状があれば迷わず受診してください。
あわせて読みたい
- vol062_マイコプラズマ肺炎、学童期に多い「しつこい咳」の原因
- vol038_RSウイルスと細気管支炎、乳幼児の喘鳴・咳の原因
- vol012_風邪に抗生物質の誤解、抗菌薬が不要な場合を知ろう
- vol023_夜間受診の判断、受診の判断に迷ったら
ご質問・ご感想をお待ちしています
「こんなこと聞いていいのかな?」というギモンこそ大歓迎です。 外来受診時にお気軽にお声がけいただくか、質問フォームからお寄せください。 次号も
愛育病院 小児科 おかもん先生
本メルマガの内容は一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。お子さまの症状についてはかかりつけの小児科医にご相談ください。