「気管支炎と言われたけど、肺炎とは何が違うのですか?」「咳が続いて肺炎になってしまわないか心配です」、こんなご質問をよくいただきます。
「気管支炎」と「肺炎」は、どちらも下気道の感染症ですが、炎症が起きている場所や原因、重症度が異なります。今回は、この2つの違いと、受診すべきタイミングについて詳しく解説します。
気管支炎と肺炎は、何が違うのですか?#
先日、子どもが咳がひどくて受診したら"気管支炎ですね"と言われました。肺炎とは違うのですか?
はい、違います。簡単に言うと、炎症が起きている場所が違うんです。
気道の構造と炎症の場所:
| 部位 | 場所 | 炎症が起きたら |
|---|---|---|
| 上気道 | 鼻〜のど(喉頭まで) | 風邪(上気道炎) |
| 気管・気管支 | のど〜肺の手前の管 | 気管支炎 [1] |
| 肺胞(肺実質) | 肺の奥にある小さな袋 | 肺炎 [2] |
気管支炎と肺炎の比較:
気管支炎
- 炎症の場所
- 気管支の粘膜 [1]
- 主な原因
- ほとんどがウイルス(90%以上)[1]
- よくある原因微生物
- RSウイルス、ライノウイルス、インフルエンザなど [1]
- 発熱
- ないこともある。あっても軽度のことが多い [1]
- 咳の特徴
- 湿った咳、痰がからむ [1]
- 呼吸困難
- 通常なし(喘鳴を伴うことはある)[1]
- 聴診所見
- 粗い呼吸音、rhonchi(いびき様音)[1]
- 胸部X線
- 通常正常 [1]
- 治療
- 対症療法(ウイルス性のため抗菌薬不要)[1]
肺炎
- 炎症の場所
- 肺胞(肺実質)[2]
- 主な原因
- ウイルスまたは細菌 [2][3]
- よくある原因微生物
- 肺炎球菌、マイコプラズマ、RSウイルスなど [3]
- 発熱
- 高熱(38.5℃以上)が続くことが多い [2]
- 咳の特徴
- 湿った咳に加え、呼吸困難を伴うことがある [2]
- 呼吸困難
- ある(多呼吸、陥没呼吸)[2]
- 聴診所見
- crackles(パチパチ音)、呼吸音の減弱 [2]
- 胸部X線
- 浸潤影、コンソリデーション [2]
- 治療
- 細菌性なら抗菌薬が必要 [2][3]
原因のウイルスや細菌はどう違うのですか?#
ウイルスと細菌で原因が違うのですね。年齢によっても違いますか?
はい。年齢によって原因微生物の割合が大きく異なります [3]。これは治療方針にも直結する大切なポイントです。
年齢別の主な原因微生物:
| 年齢 | 気管支炎の主な原因 | 肺炎の主な原因 |
|---|---|---|
| 生後3ヶ月未満 | RSウイルス [1] | B群溶連菌、大腸菌、クラミジア [3] |
| 3ヶ月〜5歳 | RSウイルス、ライノウイルス、パラインフルエンザ [1] | ウイルス性が最多(RSウイルス、インフルエンザ)、肺炎球菌 [3][4] |
| 5歳以上 | ライノウイルス、インフルエンザ [1] | マイコプラズマ、肺炎球菌、インフルエンザ [3][4] |
重要な知識: 肺炎の原因の多くはウイルスである
2015年のJainらの大規模研究 [4] によると、入院を要した小児の市中肺炎の原因は:
- ウイルスが検出された: 約73%
- 細菌が検出された: 約15%
- ウイルスと細菌の混合感染: 約7%
- 原因不明: 約15%
つまり、子どもの肺炎の多くは実はウイルス性であり、必ずしも抗菌薬が必要なわけではありません [4]。
- 高熱(39℃以上)が持続する
- CRP・白血球・プロカルシトニンが高値
- 胸部X線で限局性の浸潤影(lobar consolidation)
- 全身状態が悪い(ぐったり、食欲低下)
診断はどうやってするのですか?胸のレントゲンは必要ですか?#
咳がひどいとレントゲンを撮ることがありますが、毎回必要なのですか?
いいえ。すべての咳の子にレントゲンが必要なわけではありません [5]。
診断の流れ:
問診
症状の経過
発熱の程度・期間、咳の性状、呼吸困難の有無
身体診察
聴診・視診
呼吸数、陥没呼吸、SpO2、聴診所見 [2]
検査(必要時)
画像・血液検査
肺炎が疑われる場合のみ [2][5]
聴診で分かること:
| 聴診所見 | 意味 | 示唆する疾患 |
|---|---|---|
| Rhonchi(いびき様連続音) | 太い気管支の分泌物 | 気管支炎 [1] |
| Wheezes(笛声音) | 細い気管支の狭窄 | 喘息、細気管支炎 |
| Crackles(断続音) | 肺胞の液体貯留 | 肺炎 [2] |
| 呼吸音減弱 | 肺の含気低下 | 肺炎(コンソリデーション)、胸水 [2] |
胸部X線の適応:
- 高熱が続き、聴診で局所的な異常がある場合 [2][5]
- 呼吸困難(多呼吸、陥没呼吸、SpO2低下)がある場合 [2]
- 抗菌薬治療に反応しない場合 [5]
- 合併症(胸水、膿胸、肺膿瘍)が疑われる場合 [5]
血液検査の意義:
| 検査項目 | 細菌性肺炎で | ウイルス性肺炎で |
|---|---|---|
| 白血球数 | 上昇(好中球優位) | 正常〜やや上昇(リンパ球優位) |
| CRP | 高値(>4-6 mg/dL) | 正常〜軽度上昇 |
| プロカルシトニン | 高値(>0.5 ng/mL)[6] | 正常〜低値 |
プロカルシトニンは細菌感染のマーカーとして注目されており、抗菌薬の適応判断に役立つとされています [6]。
治療はどう違うのですか?#
気管支炎でも抗生物質を出されることがあるのですが、本当に必要なのですか?
気管支炎のほとんどはウイルス性なので、抗菌薬は原則不要です [1][7]。ただし、細菌性肺炎には抗菌薬が必要です。
気管支炎の治療:
| 治療 | 内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 対症療法 | 水分補給、安静、加湿 | 基本中の基本 [1] |
| 解熱鎮痛薬 | アセトアミノフェン | 高熱で辛い場合 |
| 鼻吸引 | 鼻づまりの解消 | 乳幼児に特に有効 |
| 抗菌薬 | 原則不要 [1][7] | ウイルス性に抗菌薬は無効 |
| 咳止め(中枢性鎮咳薬) | 推奨されない [7] | 小児では効果のエビデンスが乏しく、副作用のリスクあり |
| 気管支拡張薬 | 喘鳴がある場合に検討 | 効果は限定的 [1] |
細菌性肺炎の治療:
| 年齢・状況 | 第一選択薬 | 投与期間 |
|---|---|---|
| 生後3ヶ月未満 | アンピシリン + ゲンタマイシン(入院)[3] | 医師の判断 |
| 3ヶ月〜5歳(外来) | アモキシシリン(高用量)[2][3] | 7〜10日間 |
| 5歳以上(外来) | アモキシシリン または マクロライド系 [2][3] | 5〜10日間 |
| 入院が必要な場合 | アンピシリン静注 ± マクロライド [3] | 医師の判断 |
入院が必要な場合の目安 [2]:
- SpO2 < 92%(酸素飽和度が低い)
- 水分摂取ができない
- ぐったりしている
- 生後3ヶ月未満
- 治療に反応しない
受診の目安を教えてください。どんな時に救急に行くべきですか?#
咳がひどい時、どこまで家で様子を見ていいのか分かりません。
呼吸の状態を注意深く観察することが最も大切です。以下のサインがあれば、すぐに受診してください。
すぐに受診すべきサイン(呼吸のレッドフラッグ):
| サイン | 見方 | 意味 |
|---|---|---|
| 多呼吸(呼吸数の増加) | 安静時の1分間の呼吸数を数える | 肺炎の最も感度の高いサイン [2][8] |
| 陥没呼吸 | 肋骨の間や鎖骨の上がへこむ | 呼吸努力の増大 [2] |
| 鼻翼呼吸 | 鼻の穴がピクピク広がる | 呼吸困難のサイン [2] |
| 肩呼吸 | 肩を上下させて呼吸する | 呼吸補助筋の使用 |
| チアノーゼ | 唇や爪が紫色になる | 低酸素。緊急受診 [2] |
| うなり声(grunting) | 息を吐く時にうーんと声が出る | 肺胞虚脱を防ぐ反応。重症のサイン [2] |
| SpO2 < 94% | パルスオキシメーターで測定 | 低酸素血症 [2] |
年齢別の多呼吸の基準(WHO)[8]:
| 年齢 | 正常な呼吸数 | 多呼吸の基準 |
|---|---|---|
| 2ヶ月未満 | 40〜60回/分 | 60回/分以上 |
| 2〜12ヶ月 | 25〜40回/分 | 50回/分以上 |
| 1〜5歳 | 20〜30回/分 | 40回/分以上 |
| 5歳以上 | 15〜25回/分 | 30回/分以上 |
家庭で様子を見てよい場合:
- 熱はあるが、機嫌がよく遊べている
- 水分・食事が摂れている
- 呼吸が穏やかで、上記のレッドフラッグがない
- SpO2が94%以上(パルスオキシメーターがある場合)
翌日の診療時間内に受診すべき場合:
- 咳が1週間以上続き、改善傾向がない
- 微熱が続く
- 食欲の低下が目立つ
- 元気がない
まとめ#
気管支炎と肺炎の違いを最後に整理します。
気管支炎
- 炎症の場所
- 気管支粘膜
- 主な原因
- ウイルス(90%以上)
- 発熱
- 軽度〜なし
- 呼吸困難
- 通常なし
- 聴診
- Rhonchi
- レントゲン
- 通常正常
- 治療
- 対症療法(抗菌薬不要)
- 受診の目安
- 1週間以上改善しない場合
肺炎
- 炎症の場所
- 肺実質(肺胞)
- 主な原因
- ウイルスまたは細菌
- 発熱
- 高熱が続くことが多い
- 呼吸困難
- あり(多呼吸、陥没呼吸)
- 聴診
- Crackles、呼吸音減弱
- レントゲン
- 浸潤影あり
- 治療
- 細菌性なら抗菌薬
- 受診の目安
- 呼吸困難、高熱持続、ぐったり
咳が続くと心配になりますが、多くの場合は自然に治る気管支炎です。一方で、呼吸が速い・苦しそう・高熱が続く場合は肺炎の可能性があります。お子さんの呼吸の様子をよく観察し、心配な症状があれば迷わず受診してください。
あわせて読みたい#
- vol062_マイコプラズマ肺炎、学童期に多い「しつこい咳」の原因
- vol038_RSウイルスと細気管支炎、乳幼児の喘鳴・咳の原因
- vol012_風邪に抗生物質の誤解、抗菌薬が不要な場合を知ろう
- vol023_夜間受診の判断、受診の判断に迷ったら