愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.350
「赤ちゃんをかわいいと思えない」、愛着形成の話
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
「赤ちゃんが生まれた瞬間、愛情があふれて涙が出た」。そういう話を聞くと、そうではなかった自分はおかしいのかなと不安になるかもしれません。でも実際には、出産直後に強い愛着を感じるお母さんばかりではありません。愛着は「湧くもの」ではなく、日々の世話を通じて「育てていくもの」です。
「生まれた瞬間の感動」がなかった。それ、普通のことです
正直、生まれた瞬間は実感がなかった。もう3週間経つのに、まだピンときていない。そう感じているあなたに伝えたい。それはまったくおかしくありません。
お母さんの愛着は、出産直後から産後数か月にかけて徐々に変化していくものだということが、研究でわかっています [1]。愛着は瞬間的に「発生」するものではなく、時間をかけて「発達」するものです。
出産直後は疲労、痛み、ホルモンの変動で心身ともに余裕がありません。帝王切開や難産だった場合、麻酔や出血の影響で意識がぼんやりしていることもあります。そんな状態で「感動の涙」が出なかったとしても、当然のことです。

おかもん先生より
3週間で焦る必要はありません。毎日おむつを替えて、授乳して、泣いたら抱き上げて。その繰り返しが、愛着のいちばんの土台です。
特別なことは何もいらない。「反応する」だけで十分です
「愛着形成のために何か特別なことをしなきゃ」とプレッシャーを感じていませんか。安心してください。特別なことは必要ありません。
赤ちゃんが泣く。声を出す。手を伸ばす。それに対してあなたが反応する。この「サイン→反応」の繰り返しこそが、愛着形成のいちばん大切な部分です。発達心理学ではこれを「応答的な養育(responsive caregiving)」と呼びます。泣いたら抱き上げる。目が合ったら微笑みかける。授乳やおむつ替えのときに話しかける。それだけで十分なんです。
面白い研究があります。研究者のEdward Tronickによると、通常の親子のやりとりでも約70%はすれ違い(mismatch)なのだそうです。そしてそのすれ違いを修復するプロセスこそが、愛着を強くする。つまり、うまくいかないことがあっても、それで大丈夫なんです。
完璧に反応する必要はありません。70%はすれ違うのが普通です。すれ違いと修復の繰り返しが、親子の絆を育てます。
「かわいいと思えない」。そんな自分を怖がらなくていい
夜泣きが3時間続いた朝。ミルクを吐かれて着替えさせたのに、また吐かれた。正直、かわいいと思えない。そんな自分が怖い。「こんなこと思っちゃいけないのに」。
思っていいんです。それは人間として自然な感情です。
産後のお母さんのメンタルヘルスと愛着の関係を調べた研究では、抑うつ症状が強いほど愛着の質が低下する傾向があることがわかっています [2]。「かわいいと思えない」のは、あなたの人格の問題ではなく、疲労やメンタルの状態に影響されているということです。
大切なのは、そう感じた自分を責めないこと。そしてその感覚が何週間も続いて、赤ちゃんの世話をすること自体がつらくなっているなら、産後うつの可能性もあるので、相談してみてください。
「かわいいと思えない」が何週間も続き、赤ちゃんの世話が苦痛になっている場合は、産後うつの可能性があります。かかりつけの産婦人科に相談してください。
お父さんの愛着は、遅れて芽生える。それも正常です
「夫が赤ちゃんに無関心に見えて不満」。そう感じている方も多いと思います。でも、お父さんの愛着形成は、お母さんより時間がかかることが多いです。これも正常なことです。
お母さんは妊娠中から胎動を感じ、出産を経験し、授乳を通じて赤ちゃんとの身体的な接触が多い。一方、お父さんにはそうした身体的なプロセスがないので、「父親としての実感」が湧くまでに時間がかかるのは自然なことです。研究では、父親の約10.4%が産後にうつを経験するという報告もあり、お父さんもまた心理的な変化の渦中にいます [3]。
お父さんの愛着を育てるには、沐浴や着替えなど身体接触のある世話を担当してもらう、ミルクをあげる役割を持ってもらう、赤ちゃんと二人きりの時間をつくる、といった関わりが効果的です。
安定した愛着は子どもの情緒発達にとって大事ですが、「一瞬で決まるもの」ではなく「長い時間をかけて形成されるもの」です [4]。生後数か月の時点で不安を感じていても、そこからいくらでも取り戻せます。

おかもん先生より
赤ちゃんは、完璧なお母さんを求めていません。自分に反応してくれる、そこにいてくれる。それだけで十分です。不安なときは、一人で抱え込まないでくださいね。
今号のまとめ
- 出産直後に愛着が湧かなくても正常。時間をかけて育つもの
- 愛着形成の核心は「応答性」。泣いたら反応する、の繰り返し
- 「かわいいと思えない」時期があっても罪悪感を持たなくていい
- 父親の愛着形成は母親より遅れることが多い(これも正常)
- 不安が続くときは、産後うつとの関連を考えて相談を
あわせて読みたい
- Vol.348「産後のメンタルヘルス、マタニティーブルーと産後うつ」
- Vol.349「母乳とミルク、こだわりすぎないで」
ご質問・ご感想
「こうやって愛着が深まっていきました」「パートナーとの関わり方で悩んでいます」など、ご経験やご質問がございましたら、お気軽にお寄せください。
愛育病院 小児科 おかもん先生
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