前号(Vol.197)では気管支炎と肺炎の違いについてお話ししました。今回は、肺炎の中でも特殊な原因である誤嚥性肺炎について解説します。
「よくむせるんです」「何度も肺炎になるのですが……」「ミルクを飲む時にゴロゴロいいます」、こうした症状の裏に、誤嚥が隠れていることがあります。特に、発達に課題のあるお子さんや、重い基礎疾患をお持ちのお子さんでは重要なテーマです。
誤嚥性肺炎って何ですか?子どもにもあるのですか?#
誤嚥性肺炎はお年寄りの病気というイメージがあります。子どもにもあるのですか?
はい、あります。大人の誤嚥性肺炎とは少し原因が異なりますが、子どもにも決してまれではない病態です [1]。
誤嚥(ごえん)とは:
食べ物や飲み物、唾液、胃液などが、本来は食道に入るべきところを気管・気管支に入ってしまうことです [1][2]。
| 用語 | 定義 |
|---|---|
| 喉頭侵入(penetration) | 異物が声帯の上まで入るが、気管には入らない [2] |
| 誤嚥(aspiration) | 異物が声帯を越えて気管内に入る [2] |
| 不顕性誤嚥(silent aspiration) | 咳やむせなしに気管に入る。最も気づきにくい [2][3] |
子どもの誤嚥の原因:
| 原因 | 詳細 | 頻度 |
|---|---|---|
| 嚥下機能の未熟さ | 特に乳児期、早産児 [1] | 一般的 |
| 神経発達の問題 | 脳性麻痺、重度知的障害、筋ジストロフィーなど [3][4] | ハイリスク |
| 解剖学的異常 | 喉頭軟化症、喉頭裂、食道閉鎖術後、気管食道瘻 [1] | まれ |
| 胃食道逆流症(GERD) | 胃酸が食道→咽頭→気管に逆流 [5] | 比較的多い |
| 気管切開 | 気管切開チューブが嚥下に影響 [3] | 特殊 |
急性の誤嚥と慢性の誤嚥は何が違いますか?#
ピーナッツを食べてむせた時と、いつもミルクでゴロゴロいう時は、同じ"誤嚥"ですか?
どちらも誤嚥ですが、急性誤嚥と慢性誤嚥では原因も対応も大きく異なります。
急性誤嚥
- 原因
- 食べ物・異物の気道への吸引 [6]
- 典型例
- ピーナッツ、ぶどう、おもちゃの部品など [6]
- 発症
- 突然の咳き込み、窒息 [6]
- 症状
- 激しい咳、喘鳴、呼吸困難、チアノーゼ [6]
- 対応
- 緊急対応(気管支鏡で異物除去)[6]
慢性誤嚥
- 原因
- 唾液、口腔内分泌物、胃液の反復的な微量吸引 [3]
- 典型例
- 嚥下障害による持続的な誤嚥、GERDによる胃液誤嚥 [3][5]
- 発症
- 緩徐に進行。気づかれにくい [3]
- 症状
- 繰り返す肺炎、慢性の咳、喘鳴、哺乳時のむせ [3]
- 対応
- 嚥下機能評価、食事の工夫、原因治療 [3]
急性誤嚥(異物誤嚥)の特徴:
- 好発年齢: 6ヶ月〜3歳 [6]
- 最も多い異物: ピーナッツなどのナッツ類(約50%)[6]
- 初期症状: 突然の咳き込み(choking episode)→ その後無症状期間を経て肺炎に
- 注意: 最初のエピソードが見逃されると、数日〜数週間後に肺炎として発見されることがある [6]
慢性誤嚥の特徴:
- 少量ずつ繰り返し誤嚥するため、急性の症状が目立たない [3]
- 不顕性誤嚥(silent aspiration)が多く、むせない [3]
- 以下のような症状で気づかれることが多い:
- 繰り返す肺炎(特に同じ部位)
- 慢性の湿性咳嗽
- 原因不明の喘鳴
- 授乳時・食事時のむせ、嘔吐
- 体重増加不良
どんな子が誤嚥しやすいのですか?#
うちの子は早産で生まれて、ミルクを飲む時にむせることが多いです。これは誤嚥ですか?
ミルクでむせることが頻繁であれば、嚥下機能の評価を検討する必要があります。特にハイリスクのお子さんでは注意が必要です [3]。
誤嚥のハイリスク児:
| リスクグループ | 誤嚥の頻度 | 主な原因 |
|---|---|---|
| 脳性麻痺 | 約50〜90%に嚥下障害 [4][7] | 口腔・咽頭の運動障害、協調運動障害 |
| 重度知的障害 | 高頻度 [3] | 嚥下反射の遅延 |
| ダウン症候群 | 約30〜40% [3] | 筋緊張低下、口腔形態の問題 |
| 早産児(特に極低出生体重児) | 哺乳初期に多い [1] | 嚥下・呼吸の協調未熟 |
| 喉頭軟化症 | 嚥下障害を伴うことがある [1] | 喉頭の構造的問題 |
| 気管食道瘻術後 | 術後合併症として [1] | 解剖学的変化 |
| 筋ジストロフィー | 進行に伴い増加 [3] | 嚥下筋の筋力低下 |
| GERD(胃食道逆流症) | 特に乳児で多い [5] | 胃酸の気道への逆流 |
嚥下機能の評価方法:
| 検査 | 方法 | 分かること |
|---|---|---|
| 臨床的嚥下評価 | 食事場面の観察 | むせ、咳、呼吸の変化、声の変化(湿性嗄声)[3] |
| 嚥下造影検査(VF: Videofluoroscopic Swallowing Study) | X線透視下で造影剤入りの食事を摂取 | 誤嚥の有無を直接確認できるゴールドスタンダード [2][8] |
| 嚥下内視鏡検査(FEES) | 鼻から内視鏡を挿入して嚥下を観察 | 咽頭の動きと食塊の動きを直接評価 [8] |
| 頸部聴診 | 嚥下時の音を聴診器で聴く | 簡便なスクリーニング [3] |
嚥下造影検査(VF)について:
VFは、バリウムなどの造影剤を混ぜた食事をお子さんに摂取してもらい、X線透視で嚥下の過程をリアルタイムで観察する検査です [2][8]。
誤嚥を防ぐために、家庭でできることはありますか?#
食事の時にむせやすいので心配です。家庭で気をつけることを教えてください。
食事の形態(とろみ)、姿勢、一口量の3つが予防の柱です [3][8]。
食事の工夫:
| 工夫 | 具体的な方法 | 理由 |
|---|---|---|
| とろみをつける | 市販のとろみ調整食品を使用 [8] | 液体の流速を遅くし、誤嚥リスクを軽減 |
| 食形態の調整 | ペースト食、きざみ食、ソフト食など [8] | 咀嚼・嚥下能力に合わせる |
| 一口量を少なくする | 小さなスプーンを使用 [3] | 一度に大量に入ると処理しきれない |
| 食事のペースを落とす | 急がせない。一口ごとに飲み込みを確認 [3] | 嚥下と呼吸の協調を保つ |
| 温度への配慮 | 適度な温度の食事を提供 | 極端に冷たい・熱いものは嚥下反射に影響 |
姿勢の工夫:
| 姿勢 | 方法 | 効果 |
|---|---|---|
| 体幹を起こす(30〜90度) | 食事中・食後30分は上体を起こす [3][8] | 重力を利用して誤嚥を防ぐ |
| 顎を引く(chin tuck) | 少しうつむき加減にする [8] | 気道を保護する位置になる |
| 頭部・体幹の安定 | クッションやバスタオルで支持 [3] | 姿勢が崩れると嚥下が困難に |
| 食後の姿勢 | 食後すぐに横にしない [5] | GERDによる逆流誤嚥を防ぐ |
乳児の哺乳時の工夫:
| 工夫 | 詳細 |
|---|---|
| 縦抱き〜やや起こした姿勢 | 完全に仰向けにしない [1] |
| 乳首の穴のサイズ | 流量が多すぎないものを選ぶ [1] |
| 少量ずつ、休みながら | 一度に大量に飲ませない [1] |
| 哺乳後のゲップ | 排気を十分に行う |
| 哺乳後30分は上体を起こす | GERDの予防 [5] |
GERDが原因の場合の対策 [5]:
- 食後のポジショニング(上体挙上)
- 少量頻回の授乳・食事
- ミルクのとろみ付け
- 必要に応じてプロトンポンプ阻害薬(PPI)などの薬物療法
受診の目安を教えてください。#
むせることが時々あるのですが、どのタイミングで受診すべきですか?
健康なお子さんでも、たまにむせることはあります。ただし、以下のような場合は嚥下機能の評価や精密検査が必要です。
受診すべき場合:
| 状況 | 緊急度 | 対応 |
|---|---|---|
| 異物を飲み込んだ直後の窒息・呼吸困難 | 緊急(119番) | 背部叩打法・腹部突き上げ法 → 救急搬送 [6] |
| 突然の咳き込み後、喘鳴が続く | 早急に受診 | 異物誤嚥の可能性。気管支鏡検査 [6] |
| 肺炎を繰り返す(特に同じ部位) | 早めに受診 | 慢性誤嚥の評価が必要 [3] |
| 授乳・食事のたびにむせる | 受診を検討 | 嚥下機能評価(VF)を検討 [2][8] |
| 原因不明の慢性的な咳・喘鳴 | 受診を検討 | 誤嚥以外の原因も含めて精査 |
| 体重が増えない | 受診を検討 | 嚥下困難による栄養摂取不足の可能性 [3] |
| 授乳中に顔色が悪くなる | 早急に受診 | 嚥下と呼吸の協調不全 [1] |
異物誤嚥の応急処置(窒息時)[6]:
| 年齢 | 方法 |
|---|---|
| 1歳未満 | 背部叩打法(うつ伏せにして肩甲骨の間を5回叩く)+ 胸部突き上げ法 |
| 1歳以上 | 腹部突き上げ法(ハイムリック法)(後ろから抱えて上腹部を押し上げる) |
| 意識がない場合 | CPR(心肺蘇生)を開始し、119番通報 |
まとめ#
子どもの誤嚥性肺炎のポイントを最後に整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 誤嚥とは | 食べ物・唾液・胃液などが気管に入ること [1][2] |
| 急性誤嚥 | 異物による突然の窒息・咳込み。6ヶ月〜3歳に多い [6] |
| 慢性誤嚥 | 唾液・胃液の反復的な微量吸引。不顕性誤嚥が多い [3] |
| 疑うサイン | 繰り返す肺炎、慢性の咳、原因不明の喘鳴、体重増加不良 [3] |
| ハイリスク児 | 脳性麻痺(50〜90%に嚥下障害)、重度知的障害、ダウン症、早産児 [3][4][7] |
| 評価 | 嚥下造影検査(VF)がゴールドスタンダード [2][8] |
| 予防の柱 | とろみ・姿勢・一口量の工夫 [3][8] |
| GERD関連 | 食後のポジショニング、薬物療法 [5] |
お子さんの「よくむせる」「何度も肺炎になる」が気になったら、ぜひ一度ご相談ください。嚥下機能を評価し、お子さんに合った安全な食事方法を一緒に考えましょう。
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- vol197_気管支炎と肺炎の違い、気管支炎と肺炎の見分け方(前号)
- vol029_窒息事故防止チェックリスト、食べ物による窒息予防
- vol057_誤飲の対応チャート、異物を飲み込んだ時の対応