愛育病院 小児科おかもん先生 だより Vol.198
「むせやすい、繰り返す肺炎……」、子どもの誤嚥性肺炎を知ろう
今号のポイント
- 2子どもの誤嚥には「急性誤嚥(食べ物・異物)」と「慢性誤嚥(唾液・胃液)」の2つがある
- 4繰り返す肺炎、原因不明の喘鳴、持続する咳は慢性誤嚥を疑うサインである
- 6ハイリスク児(脳性麻痺、重度知的障害など)では、食事の工夫と姿勢管理が予防の柱となる
こんにちは。愛育病院小児科のおかもん先生です。
前号(Vol.197)では気管支炎と肺炎の違いについてお話ししました。今回は、肺炎の中でも特殊な原因である誤嚥性肺炎について解説します。
「よくむせるんです」「何度も肺炎になるのですが……」「ミルクを飲む時にゴロゴロいいます」、こうした症状の裏に、誤嚥が隠れていることがあります。特に、発達に課題のあるお子さんや、重い基礎疾患をお持ちのお子さんでは重要なテーマです。
Q1.「誤嚥性肺炎って何ですか?子どもにもあるのですか?」
——誤嚥性肺炎はお年寄りの病気というイメージがあります。子どもにもあるのですか?
はい、あります。大人の誤嚥性肺炎とは少し原因が異なりますが、子どもにも決してまれではない病態です [1]。
誤嚥(ごえん)とは:
食べ物や飲み物、唾液、胃液などが、本来は食道に入るべきところを気管・気管支に入ってしまうことです [1][2]。
| 用語 | 定義 |
|---|---|
| 喉頭侵入(penetration) | 異物が声帯の上まで入るが、気管には入らない [2] |
| 誤嚥(aspiration) | 異物が声帯を越えて気管内に入る [2] |
| 不顕性誤嚥(silent aspiration) | 咳やむせなしに気管に入る。最も気づきにくい [2][3] |
子どもの誤嚥の原因:
詳細
- 嚥下機能の未熟さ
- 特に乳児期、早産児 [1]
- 神経発達の問題
- 脳性麻痺、重度知的障害、筋ジストロフィーなど [3][4]
- 解剖学的異常
- 喉頭軟化症、喉頭裂、食道閉鎖術後、気管食道瘻 [1]
- 胃食道逆流症(GERD)
- 胃酸が食道→咽頭→気管に逆流 [5]
- 気管切開
- 気管切開チューブが嚥下に影響 [3]
頻度
- 嚥下機能の未熟さ
- 一般的
- 神経発達の問題
- ハイリスク
- 解剖学的異常
- まれ
- 胃食道逆流症(GERD)
- 比較的多い
- 気管切開
- 特殊
ポイント
- 誤嚥は食べ物や唾液が気管に入ること。不顕性誤嚥はむせずに起こるため気づきにくい [2][3]
- 子どもの誤嚥の原因は、嚥下機能の未熟さ、神経発達の問題、GERDなど多岐にわたる [1][3][5]
- 大人では加齢や脳卒中が原因だが、子どもでは発達の問題や基礎疾患が背景にあることが多い [3][4]
Q2.「急性の誤嚥と慢性の誤嚥は何が違いますか?」
——ピーナッツを食べてむせた時と、いつもミルクでゴロゴロいう時は、同じ"誤嚥"ですか?
どちらも誤嚥ですが、急性誤嚥と慢性誤嚥では原因も対応も大きく異なります。
急性誤嚥
- 原因
- 食べ物・異物の気道への吸引 [6]
- 典型例
- ピーナッツ、ぶどう、おもちゃの部品など [6]
- 発症
- 突然の咳き込み、窒息 [6]
- 症状
- 激しい咳、喘鳴、呼吸困難、チアノーゼ [6]
- 対応
- 緊急対応(気管支鏡で異物除去)[6]
慢性誤嚥
- 原因
- 唾液、口腔内分泌物、胃液の反復的な微量吸引 [3]
- 典型例
- 嚥下障害による持続的な誤嚥、GERDによる胃液誤嚥 [3][5]
- 発症
- 緩徐に進行。気づかれにくい [3]
- 症状
- 繰り返す肺炎、慢性の咳、喘鳴、哺乳時のむせ [3]
- 対応
- 嚥下機能評価、食事の工夫、原因治療 [3]
急性誤嚥(異物誤嚥)の特徴:
- 好発年齢: 6ヶ月〜3歳 [6]
- 最も多い異物: ピーナッツなどのナッツ類(約50%)[6]
- 初期症状: 突然の咳き込み(choking episode)→ その後無症状期間を経て肺炎に
- 注意: 最初のエピソードが見逃されると、数日〜数週間後に肺炎として発見されることがある [6]
慢性誤嚥の特徴:
- 少量ずつ繰り返し誤嚥するため、急性の症状が目立たない [3]
- 不顕性誤嚥(silent aspiration)が多く、むせない [3]
- 以下のような症状で気づかれることが多い:
- 繰り返す肺炎(特に同じ部位)
- 慢性の湿性咳嗽
- 原因不明の喘鳴
- 授乳時・食事時のむせ、嘔吐
- 体重増加不良
ポイント
- 急性誤嚥は異物による突然の窒息・咳込み。3歳未満に多い [6]
- 慢性誤嚥は少量ずつの反復的な誤嚥で、むせないことも多い(不顕性誤嚥)[3]
- 繰り返す肺炎、慢性の咳、原因不明の喘鳴は慢性誤嚥を疑うサイン [3]
Q3.「どんな子が誤嚥しやすいのですか?」
——うちの子は早産で生まれて、ミルクを飲む時にむせることが多いです。これは誤嚥ですか?
ミルクでむせることが頻繁であれば、嚥下機能の評価を検討する必要があります。特にハイリスクのお子さんでは注意が必要です [3]。
誤嚥のハイリスク児:
誤嚥の頻度
- 脳性麻痺
- 約50〜90%に嚥下障害 [4][7]
- 重度知的障害
- 高頻度 [3]
- ダウン症候群
- 約30〜40% [3]
- 早産児(特に極低出生体重児)
- 哺乳初期に多い [1]
- 喉頭軟化症
- 嚥下障害を伴うことがある [1]
- 気管食道瘻術後
- 術後合併症として [1]
- 筋ジストロフィー
- 進行に伴い増加 [3]
- GERD(胃食道逆流症)
- 特に乳児で多い [5]
主な原因
- 脳性麻痺
- 口腔・咽頭の運動障害、協調運動障害
- 重度知的障害
- 嚥下反射の遅延
- ダウン症候群
- 筋緊張低下、口腔形態の問題
- 早産児(特に極低出生体重児)
- 嚥下・呼吸の協調未熟
- 喉頭軟化症
- 喉頭の構造的問題
- 気管食道瘻術後
- 解剖学的変化
- 筋ジストロフィー
- 嚥下筋の筋力低下
- GERD(胃食道逆流症)
- 胃酸の気道への逆流
嚥下機能の評価方法:
方法
- 臨床的嚥下評価
- 食事場面の観察
- 嚥下造影検査(VF: Videofluoroscopic Swallowing Study)
- X線透視下で造影剤入りの食事を摂取
- 嚥下内視鏡検査(FEES)
- 鼻から内視鏡を挿入して嚥下を観察
- 頸部聴診
- 嚥下時の音を聴診器で聴く
分かること
- 臨床的嚥下評価
- むせ、咳、呼吸の変化、声の変化(湿性嗄声)[3]
- 嚥下造影検査(VF: Videofluoroscopic Swallowing Study)
- 誤嚥の有無を直接確認できるゴールドスタンダード [2][8]
- 嚥下内視鏡検査(FEES)
- 咽頭の動きと食塊の動きを直接評価 [8]
- 頸部聴診
- 簡便なスクリーニング [3]
嚥下造影検査(VF)について:
VFは、バリウムなどの造影剤を混ぜた食事をお子さんに摂取してもらい、X線透視で嚥下の過程をリアルタイムで観察する検査です [2][8]。
- 誤嚥の有無を直接確認できる
- 不顕性誤嚥も検出可能 [2]
- どの食形態で安全に飲食できるかを評価できる(液体 vs とろみ付き vs ペースト食など)[8]
- 被ばくがあるため、適応を慎重に判断する
ポイント
- 脳性麻痺の子どもの約50〜90%に嚥下障害がある [4][7]
- ハイリスク児では定期的な嚥下評価が重要 [3]
- 嚥下造影検査(VF)は誤嚥の有無と安全な食形態を評価するゴールドスタンダード [2][8]
Q4.「誤嚥を防ぐために、家庭でできることはありますか?」
——食事の時にむせやすいので心配です。家庭で気をつけることを教えてください。
食事の形態(とろみ)、姿勢、一口量の3つが予防の柱です [3][8]。
食事の工夫:
具体的な方法
- とろみをつける
- 市販のとろみ調整食品を使用 [8]
- 食形態の調整
- ペースト食、きざみ食、ソフト食など [8]
- 一口量を少なくする
- 小さなスプーンを使用 [3]
- 食事のペースを落とす
- 急がせない。一口ごとに飲み込みを確認 [3]
- 温度への配慮
- 適度な温度の食事を提供
理由
- とろみをつける
- 液体の流速を遅くし、誤嚥リスクを軽減
- 食形態の調整
- 咀嚼・嚥下能力に合わせる
- 一口量を少なくする
- 一度に大量に入ると処理しきれない
- 食事のペースを落とす
- 嚥下と呼吸の協調を保つ
- 温度への配慮
- 極端に冷たい・熱いものは嚥下反射に影響
姿勢の工夫:
方法
- 体幹を起こす(30〜90度)
- 食事中・食後30分は上体を起こす [3][8]
- 顎を引く(chin tuck)
- 少しうつむき加減にする [8]
- 頭部・体幹の安定
- クッションやバスタオルで支持 [3]
- 食後の姿勢
- 食後すぐに横にしない [5]
効果
- 体幹を起こす(30〜90度)
- 重力を利用して誤嚥を防ぐ
- 顎を引く(chin tuck)
- 気道を保護する位置になる
- 頭部・体幹の安定
- 姿勢が崩れると嚥下が困難に
- 食後の姿勢
- GERDによる逆流誤嚥を防ぐ
乳児の哺乳時の工夫:
| 工夫 | 詳細 |
|---|---|
| 縦抱き〜やや起こした姿勢 | 完全に仰向けにしない [1] |
| 乳首の穴のサイズ | 流量が多すぎないものを選ぶ [1] |
| 少量ずつ、休みながら | 一度に大量に飲ませない [1] |
| 哺乳後のゲップ | 排気を十分に行う |
| 哺乳後30分は上体を起こす | GERDの予防 [5] |
GERDが原因の場合の対策 [5]:
- 食後のポジショニング(上体挙上)
- 少量頻回の授乳・食事
- ミルクのとろみ付け
- 必要に応じてプロトンポンプ阻害薬(PPI)などの薬物療法
ポイント
- 誤嚥予防の3つの柱: とろみ・姿勢・一口量 [3][8]
- 食事中・食後は上体を起こし、食後すぐに横にしない [3][5]
- 乳児では哺乳姿勢、乳首の選択、少量ずつの哺乳が大切 [1]
- GERDが原因の場合は、ポジショニングと薬物療法を検討 [5]
Q5.「受診の目安を教えてください。」
——むせることが時々あるのですが、どのタイミングで受診すべきですか?
健康なお子さんでも、たまにむせることはあります。ただし、以下のような場合は嚥下機能の評価や精密検査が必要です。
受診すべき場合:
緊急度
- 異物を飲み込んだ直後の窒息・呼吸困難
- 緊急(119番)
- 突然の咳き込み後、喘鳴が続く
- 早急に受診
- 肺炎を繰り返す(特に同じ部位)
- 早めに受診
- 授乳・食事のたびにむせる
- 受診を検討
- 原因不明の慢性的な咳・喘鳴
- 受診を検討
- 体重が増えない
- 受診を検討
- 授乳中に顔色が悪くなる
- 早急に受診
対応
- 異物を飲み込んだ直後の窒息・呼吸困難
- 背部叩打法・腹部突き上げ法 → 救急搬送 [6]
- 突然の咳き込み後、喘鳴が続く
- 異物誤嚥の可能性。気管支鏡検査 [6]
- 肺炎を繰り返す(特に同じ部位)
- 慢性誤嚥の評価が必要 [3]
- 授乳・食事のたびにむせる
- 嚥下機能評価(VF)を検討 [2][8]
- 原因不明の慢性的な咳・喘鳴
- 誤嚥以外の原因も含めて精査
- 体重が増えない
- 嚥下困難による栄養摂取不足の可能性 [3]
- 授乳中に顔色が悪くなる
- 嚥下と呼吸の協調不全 [1]
異物誤嚥の応急処置(窒息時)[6]:
| 年齢 | 方法 |
|---|---|
| 1歳未満 | 背部叩打法(うつ伏せにして肩甲骨の間を5回叩く)+ 胸部突き上げ法 |
| 1歳以上 | 腹部突き上げ法(ハイムリック法)(後ろから抱えて上腹部を押し上げる) |
| 意識がない場合 | CPR(心肺蘇生)を開始し、119番通報 |
ポイント
- 異物による窒息は緊急事態。背部叩打法・ハイムリック法の知識は全保護者に必要 [6]
- 繰り返す肺炎、食事のたびのむせ、体重増加不良は慢性誤嚥を疑い受診を [3]
- ハイリスク児では定期的な嚥下機能のフォローアップが重要 [3][4]
まとめ
子どもの誤嚥性肺炎のポイントを最後に整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 誤嚥とは | 食べ物・唾液・胃液などが気管に入ること [1][2] |
| 急性誤嚥 | 異物による突然の窒息・咳込み。6ヶ月〜3歳に多い [6] |
| 慢性誤嚥 | 唾液・胃液の反復的な微量吸引。不顕性誤嚥が多い [3] |
| 疑うサイン | 繰り返す肺炎、慢性の咳、原因不明の喘鳴、体重増加不良 [3] |
| ハイリスク児 | 脳性麻痺(50〜90%に嚥下障害)、重度知的障害、ダウン症、早産児 [3][4][7] |
| 評価 | 嚥下造影検査(VF)がゴールドスタンダード [2][8] |
| 予防の柱 | とろみ・姿勢・一口量の工夫 [3][8] |
| GERD関連 | 食後のポジショニング、薬物療法 [5] |
お子さんの「よくむせる」「何度も肺炎になる」が気になったら、ぜひ一度ご相談ください。嚥下機能を評価し、お子さんに合った安全な食事方法を一緒に考えましょう。
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