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「タグがチクチクして服が着られない」「運動会のピストルの音で泣いてしまう」「特定の食感のものしか食べない」、こうした困りごとの背景に、感覚処理の特性があることがあります。 発達障害のあるお子さんの多くに見られますが、発達障害がなくても感覚の特性を持つお子さんはいます。 今回は、感覚過敏と感覚鈍麻について詳しくお伝えします。
感覚過敏・感覚鈍麻とはどういう状態ですか?#
4歳の息子は特定の音をとても怖がります。これは感覚過敏なのでしょうか?
感覚過敏は、通常の刺激に対して過度に強く反応する状態です。逆に感覚鈍麻は、通常の刺激に対して反応が弱い、あるいは気づきにくい状態です [1][2]。
私たちは日常的に様々な感覚情報を処理しています。この感覚処理の仕方は人によって異なり、ある人にとっては何でもない刺激が、別の人にとっては耐えがたいほど強く感じられることがあります。
DSM-5-TRでは、感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さがASDの診断基準の一つに含まれています [1]。しかし、ASDのないお子さんにも感覚の特性は見られます。」
| 感覚の種類 | 過敏の例 | 鈍麻の例 |
|---|---|---|
| 聴覚 | 特定の音(掃除機、ドライヤー等)が耐えられない | 名前を呼んでも反応しない |
| 触覚 | タグ、縫い目、特定の素材が不快 | 痛みに鈍い、怪我に気づかない |
| 味覚 | 特定の味(苦味等)に極端に敏感 | 味の違いに鈍い |
| 嗅覚 | 食べ物や洗剤の匂いで気分が悪くなる | 強い匂いに気づかない |
| 視覚 | 蛍光灯の光がまぶしい、特定の色が苦手 | 物にぶつかりやすい |
| 前庭覚(バランス) | ブランコや車酔いしやすい | 回転遊びを好む、危険な高さを怖がらない |
| 固有受容覚(体の位置) | 軽い接触でも痛がる | 力加減が分からない、物を強く握りすぎる |
感覚の種類
聴覚
過敏の例
特定の音(掃除機、ドライヤー等)が耐えられない
鈍麻の例
名前を呼んでも反応しない
感覚の種類
触覚
過敏の例
タグ、縫い目、特定の素材が不快
鈍麻の例
痛みに鈍い、怪我に気づかない
感覚の種類
味覚
過敏の例
特定の味(苦味等)に極端に敏感
鈍麻の例
味の違いに鈍い
感覚の種類
嗅覚
過敏の例
食べ物や洗剤の匂いで気分が悪くなる
鈍麻の例
強い匂いに気づかない
感覚の種類
視覚
過敏の例
蛍光灯の光がまぶしい、特定の色が苦手
鈍麻の例
物にぶつかりやすい
感覚の種類
前庭覚(バランス)
過敏の例
ブランコや車酔いしやすい
鈍麻の例
回転遊びを好む、危険な高さを怖がらない
感覚の種類
固有受容覚(体の位置)
過敏の例
軽い接触でも痛がる
鈍麻の例
力加減が分からない、物を強く握りすぎる
なぜ感覚の感じ方に違いがあるのですか?#
同じ音なのに、なぜうちの子だけ怖がるのでしょうか?
これは脳の感覚処理(sensory processing) の仕方の違いです [2][3]。
感覚情報は、感覚器(目・耳・皮膚など)で受け取られ、脳に送られて処理されます。この処理の過程で『フィルタリング(不要な刺激をカットする機能)』が働くのですが、このフィルタリングの効きが弱いと、通常なら無視できる刺激が大きく感じられます。
逆に、フィルタリングが強すぎると、通常なら感じるべき刺激にも鈍感になります。」
| 概念 | 説明 |
|---|---|
| 感覚閾値が低い(過敏) | 少ない刺激で反応が起こる。フィルターが薄い状態 |
| 感覚閾値が高い(鈍麻) | 強い刺激でないと反応が起こらない。フィルターが厚い状態 |
| 感覚探求 | 強い刺激を自ら求める行動。鈍麻の一種 |
| 感覚回避 | 刺激を避ける行動。過敏への対処 |
概念説明
感覚閾値が低い(過敏)
少ない刺激で反応が起こる。フィルターが薄い状態
感覚閾値が高い(鈍麻)
強い刺激でないと反応が起こらない。フィルターが厚い状態
感覚探求
強い刺激を自ら求める行動。鈍麻の一種
感覚回避
刺激を避ける行動。過敏への対処
作業療法士のWinnie Dunn博士が提唱した感覚プロファイルというモデルでは、感覚閾値の高低と行動反応(能動的か受動的か)の組み合わせで4つのタイプに分類しています [3]。
発達障害のあるお子さんでは、ASDの約90%以上に何らかの感覚処理の特性があるとされています。ADHDでも約50〜60%に見られます [2]。」
感覚過敏のある子への対応はどうすればよいですか?#
服のタグを嫌がって毎朝着替えで大騒ぎです。どう対応すればいいですか?
感覚過敏への基本的な対応は、『慣らす』のではなく『環境を調整する』ことです [4][5]。無理に刺激に慣れさせようとすると、かえってストレスが増大し、パニックや行動の問題につながります。
触覚過敏への対応:
- タグを切る、裏返しに着る
- 縫い目のない衣類を選ぶ
- 肌触りの良い素材(綿100%など)を選ぶ
- 新しい服は洗ってから着る
- 靴下の縫い目を足指の上に来ないようにする
聴覚過敏への対応:
- イヤーマフ、ノイズキャンセリングイヤホンの活用
- 事前に大きな音が出る場面を予告する
- 静かな場所(クールダウンスペース)を確保する
- 運動会などの行事は無理に参加させない配慮を学校と相談
視覚過敏への対応:
- 蛍光灯をLEDや間接照明に変える
- サングラスや帽子の使用
- 教室の掲示物を減らす(視覚的刺激の軽減)
味覚・嗅覚過敏への対応:
- 無理に食べさせない
- 食べられるものの中で栄養バランスを工夫する
- 食事の場所の匂いを確認する
| 対応の原則 | 具体例 |
|---|---|
| 刺激を避ける | イヤーマフ、タグ切り |
| 刺激を調整する | 照明を下げる、音量を小さくする |
| 事前に予告する | 「次に大きな音が出るよ」 |
| 逃げ場を確保する | クールダウンスペースの設置 |
| 本人の感覚を尊重する | 「嫌」と言える環境を作る |
対応の原則具体例
刺激を避ける
イヤーマフ、タグ切り
刺激を調整する
照明を下げる、音量を小さくする
事前に予告する
「次に大きな音が出るよ」
逃げ場を確保する
クールダウンスペースの設置
本人の感覚を尊重する
「嫌」と言える環境を作る
感覚鈍麻のある子にはどんな配慮が必要ですか?#
弟のほうは痛みに鈍い気がします。転んでも泣かないのですが...
感覚鈍麻は過敏に比べて気づかれにくいのですが、安全面でのリスクがあるため注意が必要です [4][5]。
| 感覚鈍麻のリスク | 対応 |
|---|---|
| 痛みに気づかない | 怪我や火傷を見逃す→定期的な体のチェック |
| 暑さ・寒さに鈍い | 熱中症や低体温のリスク→保護者が衣服・水分を管理 |
| 体の位置感覚が弱い | 転倒しやすい→安全な環境整備 |
| 力加減が分からない | 友達を強く押してしまう→適切な力の練習 |
感覚鈍麻のリスク対応
痛みに気づかない
怪我や火傷を見逃す→定期的な体のチェック
暑さ・寒さに鈍い
熱中症や低体温のリスク→保護者が衣服・水分を管理
体の位置感覚が弱い
転倒しやすい→安全な環境整備
力加減が分からない
友達を強く押してしまう→適切な力の練習
感覚探求(刺激を求める行動)への対応:
- 感覚探求は「問題行動」ではなく「感覚的ニーズ」の表れ
- 安全な形で感覚刺激を提供する(感覚ダイエット)
| 感覚ニーズ | 安全な代替手段 |
|---|---|
| 強い圧覚を求める | 重い毛布、ぎゅっとハグ、圧迫ベスト |
| 回転・揺れを求める | ブランコ、トランポリン |
| 口腔刺激を求める | 噛めるチューイングチューブ |
| 固有受容覚入力 | 重いものを持つお手伝い、壁押し運動 |
感覚ニーズ安全な代替手段
強い圧覚を求める
重い毛布、ぎゅっとハグ、圧迫ベスト
回転・揺れを求める
ブランコ、トランポリン
口腔刺激を求める
噛めるチューイングチューブ
固有受容覚入力
重いものを持つお手伝い、壁押し運動
感覚鈍麻のお子さんには、意図的に感覚入力を提供することで、覚醒レベル(脳のスイッチ)を適切に保つことができます。これを『感覚ダイエット(sensory diet)』と呼びます [5]。作業療法士と相談して、お子さんに合った感覚ダイエットのプログラムを作ることをお勧めします。
学校や園にはどう伝えればよいですか?#
園の先生に感覚過敏のことを説明しても、なかなか理解してもらえません。
感覚の特性は目に見えないため、周囲の理解を得ることが難しいことがあります。以下のような伝え方が効果的です [6][7]。
- 具体的に伝える
- ×「感覚過敏があります」(抽象的)
- ○「運動会のピストル音でパニックになります。事前に耳をふさぐか、イヤーマフの使用を許可してください」(具体的)
- 「わがまま」ではないことを説明する
- 脳の情報処理の特性であり、本人のコントロールではないこと
- 例え話が効果的:「私たちが黒板をひっかく音に耐えられないのと同じ。でもそれが日常的に起きている状態」
- 合理的配慮を具体的に提案する
| 場面 | 配慮の例 |
|---|---|
| 給食 | 無理に食べさせない、苦手な食材を事前に伝える |
| 着替え | 体操着の素材に配慮、更衣の時間に余裕 |
| 音楽 | イヤーマフの使用許可、音量の調整 |
| 図工 | 触りたくない素材の代替を認める |
| 運動会 | ピストル音の事前予告、参加方法の柔軟化 |
| 教室環境 | 掲示物の量の調整、蛍光灯のカバー |
場面配慮の例
給食
無理に食べさせない、苦手な食材を事前に伝える
着替え
体操着の素材に配慮、更衣の時間に余裕
音楽
イヤーマフの使用許可、音量の調整
図工
触りたくない素材の代替を認める
運動会
ピストル音の事前予告、参加方法の柔軟化
教室環境
掲示物の量の調整、蛍光灯のカバー
- 医療者からの文書を活用する
- 主治医からの「配慮依頼書」を作成してもらう
- 客観的な評価結果(感覚プロファイル等)を共有する
今号のまとめ#
- 感覚過敏・鈍麻は脳の感覚処理の特性で、「わがまま」ではない
- ASDの90%以上、ADHDの50〜60%に何らかの感覚処理の特性がある
- 過敏には「環境調整」、鈍麻には「安全管理」と「感覚ダイエット」が基本
- 「慣らす」のではなく「環境を整える」ことが重要
- 学校・園への具体的な配慮の提案と連携が大切